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航空運送業における会計上の主要論点

LCCにおけるメンテナンスリザーブと整備費用

航空運送業のなかでも、Low-Cost Carrier (LCC)における、日本基準の会計処理に関する主要論点の一つである、メンテナンスリザーブに関連する会計処理について検討していきます。

 

1.はじめに

本稿では、航空運送業のなかでも、Low-Cost Carrier (LCC)における、日本基準の会計処理に関する主要論点の一つである、メンテナンスリザーブに関連する会計処理について検討していくものです。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではなく、また会計処理は個別の状況に応じて異なる可能性がある点をお断りします。

2.LCCの概要と特徴

先般、2012年3月就航のPeach Aviationを皮切りに日本企業出資によるLCC各社が次々と就航しており、日本の航空業界においてLCCが非常に注目を集めています。

LCCは、格安航空会社と訳されていますが、”Low-Cost”といわれるように、既存航空会社(Full Service Airline)と比較して航空運賃を安く維持するために、Unit cost(1座席を1キロ飛ばすためにかかるコストを示す指標。営業費用を(有効座席数×距離)で除して算定)をいかに削減していくかが重要になってきます。

航空会社におけるコストは、機材関連費用(減価償却費やリース料)や、燃油費、人件費、整備費等があります。LCCにおいては、従業員はマルチタスクともいわれるように、複数の業務を各人が行うことができるようにオペレーションを単一化していることが特徴的です。その最たるものとして、使用する航空機を限定することにより、パイロットや、客室乗務員、整備士等の訓練費用等を抑えることが可能となっています。また、1機あたりの稼働率を上げて、空港での駐機時間を短くし、便数を増やすことで、Unit cost計算基礎の分母を高めることも、Unit costを低い水準に抑えることになります。これらの結果、航空運賃を安く提供すること、低価格を維持することが可能となります。

整備などの安全面にかかるコストに関しては、航空機は航空法の規定により有効な耐空証明を受ける必要があり、各社で定めている国土交通大臣の認可を受けた整備規程に従った整備が求められるため、一定のコストが固定的に必要となります。この点、LCCでは、使用する航空機材を限定することにより整備作業や予備部品種類が複雑化されないことによってコスト削減を図っています。

3.メンテナンスリザーブの概要

航空機の調達は購入によるか、またはリースによって行われますが、リースによる場合、メンテナンスリザーブ(あるいはSupplemental Rent)という条項が付されるケースがあります。

航空機のリース契約は比較的長期にわたるため、その期間中に、借手により航空機材の整備が実施されることがあります。当該整備にかかるコストは借手が負担することが一般的ですが、将来の整備費用として、航空機材の使用状況に応じて計算された一定額あるいは固定額を、リース料の支払とは別に、貸手に保証金として支払うことが求められる場合があります。当該保証金はメンテナンスリザーブ(Maintenance Reserve)と呼ばれています。リース契約においても、航空機材を航空法の規制の下での一定水準以上の状態を維持するために定期的に整備を行う必要がありますが、メンテナンスリザーブには、当該整備に必要なコストをあらかじめプールしておき、その実効性を担保する効果があります。整備にかかるコストをプールしておく必要のない財務基盤を有しているのであればメンテナンスリザーブは不要と考えられるため、個々の契約によってメンテナンスリザーブ条項の有無には違いがあるようです。

メンテナンスリザーブが対象とする整備は、C整備やD整備 (又はHMV:Heavy Maintenance Visit)といった、一定期間運航を休止して実施する整備が対象となることが一般的ですが、個々の契約によってその対象範囲は様々となります。

例えば、以下のような個々の項目ごとに、それぞれのリース契約によって対象となるか否かの範囲が規定されています。

 Engineの交換

 Engine LLP(Life Limited Parts)の交換

 Aircraftの構造検査

 APU(Auxiliary Power Unit)の解体

 Landing Gearの点検

また、リース期間中の整備のほか、上記の項目などについてリース期間終了時において、機体を一定水準以上の状態で返還することを要求する条件が付されていることがあり、当該返還コストが保証金の範囲に含まれているケースもあります。

4.メンテナンスリザーブに関する会計処理と論点

メンテナンスリザーブに関する会計処理に関しては主に以下の論点があるものと考えられます。

(1)貸借対照表上における表示
(2)整備費用の認識時点

 

(1)貸借対照表上における表示

メンテナンスリザーブは、上記3.に記載したような項目に係る整備費用を対象として、リース契約に従って、契約上リース料とは別に規定された金額を貸手に支払い、整備が実施された時点で既に支払い済みの金額を上限に実際の整備費用を貸手に請求することで、貸手から返還を受けるものであり、金銭債権としての性質を有しています。借手の会計処理としては、支払時に保証金勘定として資産に計上することになります。

一方で、借手がリース期間中に実施する航空機材のC整備、D整備の費用のうち未だ支払が完了していないものについては、例えば、その金額が確定している場合は、貸借対照表上では負債として計上することになります。

ここで、リース会社に支払った保証金としての資産と、整備に係るコストとしての負債を貸借対照表上で純額表示すべきか否かという論点があります。

この点については、金融商品会計に関する実務指針140項における相殺表示の条件を満たす場合は貸借対照表上で資産と負債を相殺した純額で表示することも考えられますが、C整備やD整備については、リースの貸手とは異なる会社に整備を委託することが一般的であり、そのような場合は、同一の相手先に対する債権債務とはならないため、貸借対照表上では保証金としての資産と整備コストとしての負債は総額で認識することになるものと考えられます。

 

(2)整備費用の認識時点

上記で述べたように、メンテナンスリザーブはリース期間中の将来の整備費用に充てるために積み立てられる保証金という性質を持ちますが、整備費用をどのように認識するのかが会計上の論点の一つとして考えられます。

整備は、日常的な保守点検・修繕のような短期間で実施される整備から、C整備、D整備のように比較的中長期的なスパンで実施される大規模な整備まで内容がさまざまですが、前者のような整備にかかる費用ついては、その実施時に費用として処理するものと考えられます。

一方で、後者のような整備にかかる費用については、整備の実施時に一時に処理する以外にも、航空機の運航回数を重ねるごとに整備の必要性が増加していくこと、整備規程に基づく各社の整備方針の下、一定のタイミングで整備が実施されること等の状況から、整備にかかる支出額について一定の確度を持って見積もることができる場合には、企業会計原則(注解18)に照らして引当金の計上要件を満たすと考えられる場合があります。従って引当金の計上要件を満たすと判断される場合においては、整備費用を引当金として計上し、整備が実施される期間までの各期の費用として会計処理することになります。

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