調査レポート

国内消費者におけるメンタルヘルスに関する調査

新型コロナウイルス(以下、コロナ)によるパンデミックは、消費者のライフスタイルだけではなく行動変容に伴うストレスなど、人々の心の健康にも影響をもたらした。デロイト トーマツでは、消費者の心の健康状態、メンタルに影響を及ぼす要因に加え、メンタルヘルス対策の現状を把握するため、2024年5月に全国の20歳~79歳の男女4,285名を対象に、WEBアンケート「メンタルヘルスに関する調査」を実施した。本稿ではその調査結果の一部を解説する。

約6割が直近1年間でメンタルヘルスに不調を感じており、働き世代での心理的不安が高い

本調査では、現在の「心の健康」の状態に加え、具体的な心の不調とその要因について質問をしている。

「現在の心の健康状態」に関しては、約3割が「あまり良くない」「良くない」と回答しており、いずれの世代においても、男性よりも女性の方が心理的不調を訴える割合が高い傾向となっている。一方で、年代別では50代以上の中高年層よりも、男性30~40代や女性20~40代などの働き世代で心理的不安が高い結果となった。

また、約6割が直近1年間で心に関する不調や具体的な症状を抱えていると回答している。「寝つきにくい」(24.8%)、「やる気が起きない」(23.3%)、「なんとなくだるい」(22.8%)などが上位にあがり、2割以上が睡眠に加え無気力や倦怠感などの症状を抱えている状況が浮き彫りとなった。

 

経済的な要因がメンタルヘルスに大きく影響を及ぼしている

現在の心の健康状態が「あまり良くない」もしくは「悪い」と答えた割合は、世帯年収が低い層ほど高くなっており、世帯年収400万円以下の低所得層と1,000万円以上の高所得層では、心の健康状態が「あまり良くない/悪い」と回答した割合に10pt以上の差が窺え、金銭的余裕がメンタルヘルスに与える影響が示された。

また、「心の状況に影響を及ぼしている要因」は、「経済的不安」(25.9%)が最上位であり、次いで、「今後の健康維持に関する不安」(18.7%)、「現在の病気や体調への不安」(15.4%)など健康関連の要因があげられている。

世帯年収別では、世帯年収400万円以下の層では3割以上が「経済的不安」と回答しており、他の属性との差が窺える結果となった。また、世帯年収1,000万円以上の高所得層においても、「仕事の忙しさ」(16.7%)が最上位となった一方で、割合としては大差なく「経済的不安」(13.0%)が要因としてあがっており、世帯年収の高低に係わらず、心の健康を維持には経済的安定性が影響していることが窺える結果となった。

 

 

心に不調がある層の7割が身体の不調も抱えており、身体と心の健康には密接な関係が窺える

本調査では、「心の健康」に加え「身体の健康」についても質問をしており、「心の状態が良くない/あまり良くない」と回答した層のうち、7割が「身体の状態」についても「あまり良くない/良くない」と回答していることから、身体の健康状態と心の健康の関連性が窺える結果となった。

年代別では、性別にかかわらず60~70代以上の高齢層で、5~6割以上が「心身ともに良い」と回答しており、自分が「健康である」と認知している割合が高く、「心身共に不調がある」と回答した層も他世代と比較し、低くなっている。 

一方で、20~50代の若・中年層は、2割以上が「心身共に不調がある」と回答しており、特に働き世代が、心身ともに不調を有している割合が高いという現状が示された。

 

心の健康の対処法は睡眠やリフレッシュなどの過ごし方が中心であり、体調管理や補助食品摂取は1割以下にとどまる

「心の健康維持に対する対処法」については、「睡眠・休養」(31.9%)、「美味しいものを食べる」(24.7%)に次いで、「自分の一人の時間」(24.6%)、「趣味」(23.8%)となり、日常の過ごし方や自分の時間を楽しむことでの気分転換やリフレッシュを図ることが上位となっている。

一方で、心の健康維持のために、直接的に身体の健康に働きかける「適度な運動」や、「食事内容の管理」「健康食品・サプリメントや健康食品の摂取」などの食の管理を対処法として行っている割合は、1割程度、もしくは1割以下と低位である。

 

全体の7割が食改善による心の健康維持・管理に関心を持ち、特に若年層女性の関心度が高い

前項では、食の管理を心の健康維持法として実施している現状について述べたが、本調査では、消費者の「心の健康維持に向けた食改善の意向」についても調査している。

まず、「食の改善により心の健康が保たれるか」の質問に対しては、約8割が「そう思う」もしくは「ややそう思う」と回答した。さらに、「食生活の改善と心の健康の関連性がある場合、食生活を改善したいと思うか」という質問に対しては、7割以上が「そう思う」もしくは「ややそう思う」と回答した。多くの消費者が食生活改善による心の健康維持に対し、関心を持っていることが示される結果となった。

一方で、前項の通り心の健康維持に対する処置として、食の意識的な管理を実践している割合は1割程度となっており、意識と行動にギャップが生じている。

食とメンタルヘルスに関する分野は、未だ発展途上にあると考えられるが、本調査では、消費者の関心度も高く、特に女性、20~40代の若年層の心の健康維持に向けた食改善への意向が高い傾向にある点も明らかとなった。

図7に示した通り、食改善の意向と実践している割合(現在、心の健康維持を目的に、食事の管理を実践している割合)を比較すると、特に、30~40代の女性の層において食事改善意向と実際の実践割合にギャップが生じており、意向があるにも関わらず、行動に移せていない現状が窺える。

 

 

導入期の食関連やメンタルヘルス関連の商品・サービスは、消費者ニーズを捉えた開発・認知拡大施策が重要となる

パンデミックを経て、健康管理に関する消費者の関心や需要が高まったことにも後押しされ、コンシューマー業界では様々なデジタルを活用した健康関連のアプリや診断サービスが登場している。本調査では、これらサービスにおける消費者の利用実態・利用意向についても調査した。

「健康管理や心の健康維持、メンタルヘルスケアに関する新しいサービスについての利用実績」について、利用経験率が高いサービスは「統合的な体調・健康管理のアプリ」「ウェアラブルデバイス」「睡眠記録・改善アプリ」であり、直接的に健康に関する管理・記録ができるツールが上位となった。

サービスを「総合的な健康管理」「メンタルヘルス関連「食生活関連」の3つに分類したところ、それぞれ異なる傾向が窺える。

「統合的な健康管理」:他のサービス群と比較し、利用実績・意向とも高く、サービスが一定確立されており、消費者への浸透度が比較的高い。他のサービス群と異なり、消費者自身のデータが数値化され期待する機能や効果が具体的にイメージでき、結果が得られやすいという点が、利用実績の高さに繋がっているものと推測される。

「メンタルヘルス関連」:消費者の利用意向は「統合的な健康管理」と同等で利用意向は高まっているものの、実績は2割以下と普及割合は低い。サービスをどのように利用することで何が改善されるのかという機能イメージが十分に認知されていないことが要因のひとつと考えられる。

「食生活関連」:実績・利用意向ともに他のサービス群に比べ低位であり、多くのサービスが導入期にある。前項で示した通り、消費者の食生活改善に対する意向は高まっているものの、サービスを利用することでどのような機能・価値が得られるのかという付加価値が消費者にうまく提示できていない、もしくは企業が考える提供価値と顧客ニーズにギャップがあり、サービスの具現化が十分になされておらず、普及が進んでいないことが窺える。

消費者の健康ニーズの高まりを背景に、心と食に関連したサービスは、今後市場の拡がりが期待できる市場といえる。特に今回調査においては、食生活改善に関する20~40代女性のニーズが高いことが明らかになった。

コンシューマー企業においては、同領域の開拓に向けてターゲット層の顧客ニーズを明確に捉えた商品・サービスづくりが求められるが、消費者に一定浸透している「統合的な健康管理」サービスと食やメンタルヘルスに関するサービスを連動させることも一手となるだろう。サービスを利用することで受容できる価値やメリットを消費者に認知させ、消費者が自らの生活に取り入れたいと思うきっかけや仕掛けづくりも重要や要素となっている。

 

調査概要

調査日:2024年4月下旬
調査方法:インターネットを利用したパネル調査(47都道府県)

※統計局2024年4月発行の人口データを元にウエイトバック値を反映

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