調査レポート

世界の小売業ランキング2016

小売業と消費者の新たなデジタル格差をどう解消するか

毎年デロイトが発表するレポート“Global Powers of Retailing”では、 世界の小売業界における売上高上位250社をランキングし、小売業界のグローバルトレンドについて解説しています。本稿では、本年度のランキングにおける主なポイントについてご紹介します。

はじめに

「世界の小売業ランキングGlobal Powers of Retailing」(英語原版へリンクします)は、今年の2016年版で19回目を迎えた。
このランキングは、デロイトが毎年発表しているもので、本レポートでは2014年度(2015年6月までに期末を迎える各企業の会計年度が対象)について、小売事業のみの売上高を米ドルに換算して比較したものである。

世界の経済動向

本対象年度の世界各国の経済は、石油価格の急落により勝者と敗者が明確に分かれた。アメリカの景気は好調で、その背景には個人消費と雇用の増加がある。失業率が未だに高いヨーロッパの景気も、欧州中央銀行の金融政策によるユーロ安によって輸出が急増し、回復の兆しを見せた。欧米のような石油輸入国は石油価格の下落の恩恵を受けた一方、中国の景気後退が鮮明となった。多くの新興国は通貨の下落に直面し苦しい状況に陥った。2014年の間にブラジルとロシアの経済が景気後退の局面に入った一方、インドは燃料価格の低下と金融政策緩和によって好調であった。

世界の小売企業上位250社(2014年度)

一部の勝者に対し、敗者の方が多かったことから全世界的に見ると2014年の経済環境は厳しい状況だった。
世界の小売企業上位250社の2014年の小売売上高は4兆5000億米ドルで、前年対比で4.3%増(為替調整後の売上高加重平均)であった。これは2013年の4.1%増と同等レベルだが、2010年の5.3%増、2011年の5.1%増、2012年の4.9%増と比べると、伸び率は鈍化の傾向にある。
上位250社のうち198社が当期純損益データを公開しており、そのうちの90%以上の企業が黒字だが、約半数の93社は黒字だったものの、伸びは穏やかなものとなった。そのためこれら企業の今年度の純利益率は2.8%(前年度3.4%)、ROA(総資産利益率)は4.3%(前年度5.3%)と低下した。
上位250社の平均小売売上高は180億米ドルで、250社にランクインするためには、小売売上高が36.5億米ドルに達する必要があった。
尚、本ランキングの比較は前年度と今年度の単純比較であり、上位250社の入れ替わりは考慮しないものとする。また、上位250社の内で小売事業を主としない企業(例:Apple、Nike、東京急行電鉄等)を、純利益率及びROAの計算の対象から除外している。

日本市場を見てみると、2014年はアベノミクスの消費税引上げによる消費者の実質購買力低下が小売企業にも影響を及ぼした。日系企業でランクインした25社のうち、前年より上位に入った企業は16位のイオン(前年度17位)と、136位のエイチ・ツー・オーリテイリング(前年度172位)の2社のみだった。

世界の小売企業上位10社(2014年)

2014年は、世界の小売企業上位10社にも変動があった。Wal-Mart、Costcoは昨年に引き続きそれぞれ1位と2位の座を守った。3位には2014年にHarris TeeterとVitacost.comをそれぞれ買収したKrogerが昨年6位から浮上した。Schwarzは小売売上高が1,000億米ドルを超えるものの4位にとどまった。Tescoは苦しみながらもかろうじてポンドがユーロよりも強かった影響で、Carrefourの順位を上回り5位となった。
7位から9位の順位は多少入れ替わりがあったものの大きな変動はなく、昨年11位だったドラッグストア大手のWalgreenはベビーブーム世代の高齢化や新規顧客獲得を背景に、昨年10位のTargetを抑え、10位にランクインした。

上位10企業は海外展開に積極的で、平均16.7ヶ国で事業を営み、約1/3の売上高を海外事業で占めているが、250社平均では10.4ヶ国、海外売上高構成比は1/4以下であった。上位10社の中でも、
Schwarz、Carrefour、Aldi、Metroのヨーロッパ企業4社は海外事業売上高が多い一方で、本国一国のみで事業を展開する企業はアメリカ企業のKrogerのみとなった。

世界の小売企業に関する地域分析

2014年の世界の小売企業を本社所在地別に分析すると、上位250社のうちヨーロッパ拠点の企業が93社、北米が87社、アジア・太平洋が53社と続き、地域別企業数の観点ではヨーロッパがトップであった。しかし、地域別の小売売上高で見ると北米が44.7%、ヨーロッパが38.9%と順位が逆転する。成長率の観点から分析すると、上位250社の年平均成長率4.3%に対して、北米企業が5.2%、ヨーロッパが2.1%、アジア・太平洋が6.1%であり、昨年と比べるとヨーロッパの急落が目立った。背景にはオフラインとオンラインの両販売チャネルで競争が激化したことで店舗閉鎖や海外事業撤退、非中核事業の売却が続いたことが挙げられる。日本では上位250社にランクインした28社のうち、11社で売上高が減少した。

海外事業への依存度がもっとも高いのはヨーロッパ企業であり、平均16.8ヶ国から38.1%の売上高を得ている。次いで北米企業が平均8.2ヶ国から14.1%、アジア・太平洋企業が平均3.9ヶ国から10.7%の売上高を獲得している。アジア・太平洋企業では香港を含む中国企業の国際化が進んでおらず、本国以外で事業を展開していない企業が上位250社にランクインした14社のうち8社と、半数以上だった。

世界の小売企業の商品セクターによる分析

2014年は、世界の小売企業上位10社にも変動があった。Wal-Mart、Costcoは昨年に引き続きそれぞれ1位と2位の座を守った。3位には2014年にHarris TeeterとVitacost.comをそれぞれ買収したKrogerが昨年6位から浮上した。Schwarzは小売売上高が1,000億米ドルを超えるものの4位にとどまった。Tescoは苦しみながらもかろうじてポンドがユーロよりも強かった影響で、Carrefourの順位を上回り5位となった。7位から9位の順位は多少入れ替わりがあったものの大きな変動はなく、昨年11位だったドラッグストア大手のWalgreenはベビーブーム世代の高齢化や新規顧客獲得を背景に、昨年10位のTargetを抑え、10位にランクインした。

上位10企業は海外展開に積極的で、平均16.7ヶ国で事業を営み、約1/3の売上高を海外事業で占めているが、250社平均では10.4ヶ国、海外売上高構成比は1/4以下であった。上位10社の中でも、Schwarz、Carrefour、Aldi、Metroのヨーロッパ企業4社は海外事業売上高が多い一方で、本国一国のみで事業を展開する企業はアメリカ企業のKrogerのみとなった。

世界の急成長小売企業50社

直近5年間で急成長を遂げている世界の急成長小売企業50社のうち、2014年に新興国に本社を置く企業は25社あり、中でも香港を含む中国企業が8社、ロシア企業が6社で両国が新興国の半数を占めた。過去5年間の年平均成長率は20.6%となっている。その背景にはM&Aによる事業拡大、eコマース展開、有機的成長がその要因として挙げられる。

中でも注目すべきなのは、フラッシュセールを活用したオンラインディスカウントストアを展開する中国の通販小売企業、Vipshop である。2008年の創業後2012年のニューヨーク証券取引所上場を経て近年台頭し、2009年から2014年の年平均成長率は320%という驚異の躍進を遂げている。

eリテーラー上位50社

このeリテール(電子小売業)の分析では、企業が在庫を保有して消費者に直接販売するB2Cのeコマース(電子商取引)のみを対象とする。多数の販売者をまとめるeマーケットプレイス(ファシリテーター)事業を主とする企業は、eリテーラー上位50社の分析から除外される。
2014年版からeリテーラー50社ランキングが作成され、昨年同様、今年もAmazonが圧倒的な強さを見せた。2位には昨年4位だったAppleがJD.comを抜いて2位に浮上した。
eリテーラー上位50社の3/4にあたる38社が、小売業上位250社にランキング入りしている企業であった。オムニチャネルで事業を展開している企業は39社、ネット専業企業は11社と前年に比べ企業数に変化はなかった。eリテーラー上位50社のオンラインの売上高における年平均成長率は19.7%と、上位250社のオンラインの売上高における年平均成長率の20.3%と大きな差はなかった。上位50社にランクインするためには、売上高が120億米ドルに達する必要があった。

近年の技術革新や消費者のし好の変化に後押しされて、消費者の購買行動が急速に変わっている。このような環境変化の中、小売企業は消費者のオンライン販売と店頭販売のシームレス体験を可能とする、革新的な小売環境を提供するためのオムニチャネル展開が求められている。eリテーラー上位50社の大多数にあたる39社がオンラインやその他の無店舗事業だけでなく従来型の実店舗も持つ、複数の販路を備えたオムニチャネル小売企業であった。オンライン販売と店頭販売の適切なバランスを見極め、オンラインとオフラインのプロセスをシームレス化することは、今後も消費者の満足と小売企業の業績向上にとって重要な要素となるだろう。
デジタルチャネルは小売企業の出店計画から、在庫管理、マーケティングや顧客関係管理(CRM)までのあり方に変化をもたらしている。小売企業は顧客のオンライン購買履歴を店頭分析に活用することで、顧客の動向を知ることができるだけでなく、適正な製品構成の把握やプロモーション効果へのより深い理解が可能となった。また店頭販売でのタッチポイントを設けることで、オンライン小売企業はオンライン販売と店頭販売の両方において潜在顧客を確保し、ブランド価値の発信、顧客に購買してもらうためのきっかけ作りを実施することが可能となった。

上記を理由に、eリテーラーはオンライン販売だけでなく実店舗を持つ小売企業との提携によってポップアップショップやショールーム、実在店舗の開店に乗り出すことでオフラインでもその存在を増している。例えば、eリテーラー1位のAmazonは2015年11月にシアトルにAmazon.comの実店舗として本屋を開業した。実店舗ではAmazon.comのカスタマーレビューや専門家の書評等に基づいた本がセレクションされている他、オンラインで注文した商品の受け取り場所としての機能も果たしている。

(執筆者:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 籏野あい)

世界の小売業ランキング2016(PDF版)

本レポートは、左記よりダウンロードが可能です。

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