最新動向/市場予測

宿泊主体型ホテルの経営戦略とは

~ホテルエグゼクティブフォーラム2015~

大手デベロッパーの経営戦略、グローバルブランドの対日戦略、J-REITのホテル投資戦略、国内宿泊主体型ホテルの経営戦略をテーマとした業界キーマンによるパネルディスカッションを振り返る。

2020年の東京オリンピックを見据えた2015年のホテルマーケット

2020年の東京オリンピックを見据えた2015年のホテルマーケットは、旺盛な国内および海外からのレジャー需要に支えられ、首都圏・関西圏を中心に好調に推移している。加えて、様々な観光資源を抱える国内その他の地域においても、目に見える形で外国人旅行者の増加を感じる機会が増えている。この背景には、ビザ緩和や円安の影響もあるが、アジアの中間層の爆発的な増加、およびそれに伴う海外旅行需要の急増による影響も大きく、日本のツーリズムマーケット全体において、需要構造の根本的な変化が起こりつつある。

こうした環境変化の中、デロイト トーマツ グループは2015年10月7日、ザ・リッツ・カールトン東京にホテル関連業界のエグゼクティブの方々をお招きして「ホテルエグゼクティブフォーラム2015 ~アジア大航海時代のホテル経営・投資戦略~」を開催した。参加者は300名を超え、過去最高の熱気に包まれた。

本フォーラムでは、STRグローバルのホテルマーケット状況説明やツカダ・グローバルホールディングの塚田社長による特別講演を皮切りに、大手デベロッパーの経営戦略、グローバルブランドの対日戦略、J-REITのホテル投資戦略、国内宿泊主体型ホテルの経営戦略をテーマとした業界キーマンによるパネルディスカッションを実施した。
本稿では、日本およびアジアホテルマーケットのパフォーマンス概況を簡単にご説明した上で、国内宿泊主体型ホテル3社の経営戦略に関するパネルディスカッションを振り返る。

セミナースケジュール

時間

セミナー・テーマ

講師

13:00~13:10
(10分)

開催挨拶

デロイト トーマツ グループ
コンシューマービジネスインダストリー
アジアパシフィックリーダー
パートナー 松下 芳生

13:10~13:35
(25分)

ホテルのパフォーマンス状況
(日本およびアジアマーケット) 

STR Global
Area Director Asia Pacific
Jesper Palmqvist

アカウントマネージャー(日本)
佐藤 佳奈 氏

13:40~14:20
(40分)

パネルディスカッション(1)
「大手デベロッパーによるホテル開発および事業戦略について」

 

三菱地所株式会社
代表取締役専務執行役員
合場 直人 氏 

森トラスト株式会社
専務取締役
伊達 美和子 氏 

(モデレーター)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
トラベル ホスピタリティ&レジャー
パートナー 澤田 竜次

14:25~14:55
(30分)

 

特別講演
「ウェディング業界の視点から見たホテル業界の課題および同社によるホテル事業参入戦略について」

株式会社ツカダ・グローバルホールディング
代表取締役社長
塚田 正由記 氏

(モデレーター)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
トラベル ホスピタリティ&レジャー
ヴァイスプレジデント 川井 徹也

14:55~15:15
(20分)

休憩 Coffee Break

 

15:15~15:55
(40分)

パネルディスカッション(2)
「グローバルブランドの対日戦略について」

Marriott International, Inc.
President & Managing Director – Asia Pacific
Craig S. Smith 

Hyatt Hotels Corporation
Executive Vice President, Group President – Asia Pacific
David Udell 

Starwood Hotels and Resorts Worldwide, Inc.
Senior Vice President
Acquistions & Development, Asia Pacific, excluding ChinaRajit Sukumaran 

Deloitte & Touche LLP
Vice Chairman, U.S. THL Leader
Guy Langford

16:00~16:40
(40分)

パネルディスカッション(3)
「J-REITのホテル投資戦略について」

コンソナント・インベストメント・マネジメント株式会社
代表取締役社長
福田 直樹 氏

ジャパン・ホテル・リート・アドバイザーズ株式会社
取締役 運用本部長
石戸 俊啓 氏 

(モデレーター)
デロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
トラベルホスピタリティ&レジャー
シニアヴァイスプレジデント 大谷 晃司

16:45~17:35
(50分)

パネルディスカッション(4)
「宿泊主体型ホテルの成功要因について」

株式会社三井不動産ホテルマネジメント
代表取締役社長
足立 充 氏 

ロイヤルホールディングス株式会社
経営企画部 ホテル事業統括部長

兼アールエヌティーホテルズ株式会社
取締役 業務本部本部長
串田 覚 氏 

株式会社阪急阪神ホテルズ
執行役員 広域事業本部 開発事業部長
井上 良継 氏 

(モデレーター)
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー 杉本 将隆

17:35~17:45
(10分)

閉会挨拶

デロイト トーマツ グループ
執行役 インダストリー担当
パートナー 手塚 正

1.ホテルのパフォーマンス状況

グローバル経済のボーダレス化に伴い、グローバルホテルマーケットは拡大傾向が続いている。アジアパシフィック全体では需要と供給両方が伸びているが、クーデター危機から落ち着きつつあるタイや、インバウンド需要で沸く日本におけるRevPAR(販売可能一室あたり収益)の伸び率が大きくなっている一方で、シンガポールやインドネシアにおけるRevPARの伸び率はマイナスに転じている。

日本のホテル市場に目を向けると、客室稼働率が83.3%という過去最高の水準となったことに加え、ADR(客室平均単価)が+11.9%となった結果、RevPAR成長率が2012年以降最高の+15%を記録するなど、歴史的なハイパフォーマンス状況にある。さらに細かく見ていくと、ゴールデンルートの一端である関西(特に、大阪)のADRと稼働率の伸び率が高くなっている。

世界でのお取り扱い数(ホテル&客室)

出所:STRグローバル「日本および世界のホテルパフォーマンス(フォーラム資料)」より抜粋

主要国の中で唯一成長を維持している国

出所:STRグローバル「日本および世界のホテルパフォーマンス(フォーラム資料)」より抜粋

2015年日本 -Japan 2015 Records-

出所:STRグローバル「日本および世界のホテルパフォーマンス(フォーラム資料)」より抜粋

日本全国のパフォーマンス- Japan performance -

出所:STRグローバル「日本および世界のホテルパフォーマンス(フォーラム資料)」より抜粋

日本全国 上位11位 都市別 RevPAR成長率 -Japan Top 11 City RevPAR Growth -

出所:STRグローバル「日本および世界のホテルパフォーマンス(フォーラム資料)」より抜粋

2.宿泊主体型ホテルの成功要因について(パネルディスカッション(4))

今回フォーラムの中でも特に注目度が高かった「宿泊主体型ホテルの成功要因について(パネルディスカッション(4))」について振り返る。宿泊主体型ホテル業界の中で独自のポジションを築いている3ホテルブランド(三井ガーデンホテルズ、リッチモンドホテルズ、レム)の運営会社キーマンにご登壇いただき、現在の好況マーケットに対する重点戦略、将来に向けた経営戦略などを話していただいた。本稿では、Q&Aディスカッションの中からキーワードを中心に要約してご紹介する。

写真
左から、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 杉本将隆(モデレータ)、
株式会社三井不動産ホテルマネジメント 代表取締役社長 足立充氏、
ロイヤルホールディングス株式会社 経営企画部 ホテル事業統括部長 兼アールエヌティーホテルズ株式会社 取締役 業務本部本部長 串田覚氏、
株式会社阪急阪神ホテルズ 執行役員 広域事業本部 開発事業部長 井上良継氏

現在の業況

杉本(モデレータ)
拡大基調が続く国内外需要に支えられ、宿泊主体型ホテルは首都圏、関西圏を中心に好調に推移しているが、現在の業況は?

足立氏(三井ガーデン・セレスティン)
三井不動産グループ。今年7月に合流したセレスティンと合わせ首都圏、関西圏、政令指定都市を中心に全国19店舗を展開。訪日外国人の取り込みも積極的に実行している。稼働率は90%強で推移。

串田氏(リッチモンド)
ロイヤルホールディングスグループ。2015年12月で33店舗を展開。昨年対比ではインバウンド増加の影響を受ける首都圏、関西圏を中心に堅調に推移。ゴールデンルート上にない地方ホテル(約6割)の底上げが課題である。

井上氏(レム)
阪急阪神第一ホテルグループ。宿泊主体型「レム」ブランドは4店舗を展開している。好況持続で東京2店のADRは13,000円前後、稼働率90%台半ば、新大阪店のADRは12,000円前後、稼働率90%台後半で推移している。

写真:株式会社三井不動産ホテルマネジメント 代表取締役社長 足立充氏)

差別化戦略

杉本(モデレータ)
シティホテルやグローバルチェーンとのボーダレス競争が激化する中、競争に勝っていくための差別化戦略と重点投資領域は?

足立氏(三井ガーデン・セレスティン)
ハード面でのリニューアル投資はデベロッパーである三井不動産のノウハウを活用し安定的に実施している。マネジメント会社である当社はオペレーション強化に専念しており、会社の理念・コンセプトである「記憶に残るホテル」「感性豊かなお客さまの五感を満たすホテル」実現のために人財育成に重点を置いている。スキル向上等を目的とした階層別研修の実施のほか、全ホテル参加型の「全国応対コンテスト」や実績・CS評価を基準とした表彰制度「MGHアワード」などを実施している。

串田氏(リッチモンド)
減価償却相当額にてリニューアル投資を実施。お客様満足度の向上のために、JCSI(日本版顧客満足度指数、サービス産業生産性協議会実施)、J.D.POWER調査の順位ではなく、その評価の内容から解決策を見出すことに注力している。今後は顧客ターゲットを拡張し、シングル・ツインの割合を変えていく。さらに、地域ごとに店舗戦略を変えつつ、食を取り扱う企業グループとして朝食を強化する予定。オーナー、従業員、お客様、株主などすべてのステークホルダーの満足度を追及する経営を志向している。

井上氏(レム)
店舗名に「ホテル」という単語が含まれていない、バスタブがない等ですでに他社施設との差別化が叶えられており、リピート客の支持を得ている。ハード面での投資のほか、今後はスマートフォンなど最新技術を活用したさらなる差別化を検討。人材投資と同時に、機械化にも取り組んでいく。省力化としてではなく、お客様への接客により多くの時間を充てられるようにする。コア人材の育成と固定化がカギ。

写真:ロイヤルホールディングス株式会社 経営企画部 ホテル事業統括部長 兼アールエヌティーホテルズ株式会社 取締役 業務本部本部長 串田覚氏

インバウンド対応

杉本(モデレータ)
急増するインバウンド客に対する取り込み方針や、顧客満足度を高めるための接客・サービス強化に向けた取り組みは?

足立氏(三井ガーデン・セレスティン)
当社は長く国内のビジネスユースをメインターゲットとしてきたが、昨今は訪日外国人の観光利用が増えている。これまでは、3B(朝食、ベッド、風呂)戦略が重要であったが、今後はそれらは当然のこととし、さらなる新しいニーズに応える必要性を感じている。三井不動産グループだから可能な商業施設「ららぽーと」との連携などはその一つ。ターゲット顧客の変化に対応してマーケティング手法が変化しているため、デジタルマーケティングの強化についても検討中。

串田氏(リッチモンド)
数年前まで平日はビジネス客、週末はファミリー客が中心であり、ターゲット顧客に合わせた設備・サービスを強化することでリピート客を増やしてきた。現在は、ビジネス・観光ともにインバウンド客が増加しているため(全社平均10%、大阪は30%程度)、クロークスペースを拡大して対応している。また、コミュニケーション能力を向上させるために、“おもてなし”のための英会話教育を強化中。インバウンド客の文化的背景を理解した上で、円滑なコミュニケーションが取れるように全社的な人材投資を実施中。従業員が海外ラグジュアリーホテルの見学や体験ができるよう、社内補助制度を整備し、CSとESの両立を目指している。

井上氏(レム)
インバウンド客が増えることで一時的にお預かりする荷物の量が2倍~2.5倍になっており、ロビーなどの共用部に大量の荷物を置くケースも発生しているため、今後もクロークスペースは拡大させていく予定である。また、インバウンド客も多国籍になってきており、言語コミュニケーションの問題が大きくなってきているため、12ヶ国語対応のインフォメーションタブレットを導入し、多言語での周辺情報案内等も含めたお客様満足度の向上に取り組んでいる。販売面ではグループ49ホテルの国際セールス部隊と連携しつつ、海外旅行代理店やOTA(インターネット旅行代理店)経由でのインバウンド客の取り込みを強化している。

写真:株式会社阪急阪神ホテルズ 執行役員 広域事業本部 開発事業部長 井上良継氏

顧客基盤の強化 

杉本(モデレータ
OTA(インターネット旅行代理店)経由での予約が拡大している中、ターゲット顧客の固定化やリピート化を強化するための顧客戦略は?

足立氏(三井ガーデン・セレスティン)
当社はOTAや旅行代理店との中長期的視野での取引関係を重視している。昨今は特に個人客はOTA経由の予約が多い。一方で当ホテルのファンを増やし、リピート化を促進するためのロイヤルティプログラム(自社公式サイトからの予約獲得)も強化していく。少子高齢化が進むにつれ就労人口は減少するが、アクティブな高齢者による旅行需要が増えることが想定される。新たなターゲットとして取り込むための独自のサービス設計を模索している。

串田氏(リッチモンド)
OTA経由一辺倒ではなく、自社公式サイトへの誘導を強化したい。最終的には顧客の選択に依存するが、現在の公式サイト予約のメリット設計が弱いと感じている。お客様が蓄積したポイントの利用範囲を拡大するなど、公式サイト予約のメリットを拡大させ訴求していく。

井上氏(レム)
OTAシェアは拡大しているが、その分仲介手数料が増加している。会員化による自社公式サイト予約(ベストレート価格提供)を促進しているが、まだインパクトが弱い。国内外OTAとの関係性は維持しつつ、会員を優遇するためにも、顧客セグメント別に提供可能客室数のコントロールを強化している。

 

今後の成長戦略 

杉本(モデレータ)
今後の事業ポートフォリオ強化の中で、新規エリア出店、新業態開発、海外展開等の事業多角化を睨んだ取り組み方針は?

足立氏(三井ガーデン・セレスティン)
三井不動産グループは今年5月に策定した中期経営計画において「ホテルリゾート事業拡大」を大きな柱の一つとして位置付けている。具体的には「事業領域の拡大と運営ホテル1万室体制構築」を謳っているが、当社はその実現の中心としての役割を担っていく。三井不動産のスマートシティ戦略のフラッグシッププロジェクト「柏の葉スマートシティ」内の「三井ガーデンホテル柏の葉」に代表されるような都市開発(街づくり)一体型、オーナー提案型など、新たな事業機会は豊富にあると見ている。

串田氏(リッチモンド)
年間1~2ホテルの新規出店を進めながら、お客様の利便性を向上させる。実質的に運営コストが上がることであっても投資だと捉え、グループ連結でのROA向上に取り組む。これまでにないスキーム開発や研究開発に投資する。

井上氏(レム)
新規出店が最大の投資である。当社はホテル資産を持たずオーナーからの賃借にて出店する形式が主流だが、昨今は賃料提示のハードルが高くなっているため、出店交渉が成立しないケースが多くなっている。都市開発を連動した複合開発への出店についても柔軟に考えていく。

 

3. おわりに

今回フォーラムを通して感じたのは、空前の好景気に沸くホテル業界全体の熱気と、好況期をチャンスとして捉え、さらなる成長機会を狙う各社の戦略性だった。一方で過去10年の業界トレンドを振り返ってみたときに、例えば5年前、今の好況を誰が予測できただろうか。2020年東京オリンピックを見据え、訪日外国人の利用は引き続き増加すると予想されているが、5年後・10年後にホテル業界のトレンドが大きく変わっていたとしても、利用者に支持され愛されるホテルであり続けるためには、現状に満足しない不断の努力が求められる。今後の各社の取り組みに着目していきたい。

著者情報

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー 杉本 将隆
(2015.10.31)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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