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日本企業におけるAIのビジネス実装の勘所

AIビジネスを加速させるためのポイントと、AI固有のリスクへの対応、AIガバナンスの構築

ビジネスへのテクノロジー活用が求められる中、AI(人工知能)の導入による業務変革や、AIを活用した新規事業立ち上げ・サービス開発に取り組む企業は少なくありません。日本企業において、AIをビジネスに実装する際に必要となる4つの要素について概観し、AI固有のリスクとAIビジネスをさらに加速させるためのポイントを解説します。

ビジネス実装へ至るために必要な要素は

2019年6月現在、アメリカと中国を中心に、自社の業務改革や新規事業立ち上げ・サービス開発を目的としたAIの実装が進んでおり、今後もAI分野は米中二強体制で競争が進むと言われています。その中で日本企業は、実証実験を数多く行っていますが、ビジネス実装の段階まではなかなか進むことができていない状況です。

実証実験段階からビジネス実装段階へ進む上での障壁を日本企業が乗り越えるためには、何が必要でしょうか。AIのビジネス実装プロジェクトに求められることが多い「目的設定」「人的リソース調整」「プロセス提示」「予算化」の4つの要素を、まずは見ていきます。

1. 目的設定:ビジネス価値の具体化
目的設定は、AIのビジネス実装を達成するための第一歩として特に重要です。目的を設定するためには、機械学習や深層学習といったAIの仕組みを理解した上で、「どの業務に○%の精度であてはまる学習済みモデルを開発すれば、△%のコスト削減または売上向上が見込める」というレベルまでビジネス価値を具体化できるよう、分析者自身が現場の業務を知り尽くす必要があります。また、現場担当者がAIの予測・認識の判断根拠を説明できるよう、可読なモデルを選定する配慮も必要です。

2. 人的リソース調整:関係者との連携
設定した目的が達成可能となる精度の学習済みモデルを開発すれば終わりではありません。学習済みモデルをシステムに載せ、実際に現場担当者へ利用させるために、システム開発者や現場担当者を早い段階から巻き込む必要があります。そのために、事前にシステム化や運用も踏まえたスケジュールを提示することが重要です。さらに、実証実験で開発したMVP(Minimum Viable Product, 実用最小製品)を披露し、システム開発者や現場担当者の期待や参加意欲を刺激することも重要となります。

3. 業務プロセス提示:定着までのスケジュール検討
業務プロセスを提示することは、前述した人的リソース調整や後述する予算の根拠として示すために重要になります。現場担当者が意思決定や予測結果の根拠を説明できるようなユーザーインターフェースの整備、学習済みモデルの継続的なデプロイ・監視の仕組み作りや変更後の業務フローの定着化までのプロセスを想定し、スケジュールを検討する必要があります。

4. 予算化:意思決定者への提示
予算化は、前述した人的リソース調整やプロセス遂行を実現するために重要な資源となります。検討したプロセスや必要になる経費から精緻に予算を見積り、目的設定時に定めたコスト削減または売上向上効果からROIを算出し予算の意思決定者へ提示することも重要ですが、前述した通り、MVPの紹介を通じて、期待を高めることも重要です。

このように目的を定め、人的リソースを調整するためにシステム化や運用までのプロセスを提示し、予算承認まで得られれば、日本企業がAIのビジネス実装の段階に進む可能性が高まります。
 

AI固有のリスクへの対応も必要に

AIのビジネス実装を推進する際には、リスクへの対応も不可欠となります。総務省は、AI利活用のリスクを抑制して利活用を推進するため、令和元年の公開に向けてAI利活用ガイドライン(仮称)の作成を行っており、今後日本企業にはこれらのガイドラインに基づきAIの判断に対する公平性や説明責任等、新しいリスクへの対応が求められる可能性があります。ガイドラインをベースに社内ルールやプロセスを整備することで、リスクに対し、網羅的に検討して対応することができます。

また、以下のような新たなAI固有のセキュリティ課題に対しても、攻撃を検知、回避、防御する手法やツールを用いて対策を行う必要があります。

  • 悪意のあるインプットでAIの誤動作を誘引する敵対的事例
  • 訓練データに悪意のあるデータを混入させてAIの誤動作を誘引するデータ汚染
  • 学習モデルから大量のインプットとアウトプットを取得し学習データやモデルを復元して盗用するリスク

 

AIのビジネス実装をさらに加速させるためには

実証実験段階からビジネス実装段階へ進む上での障壁を乗り越えた後、さらに加速させていくためには、AIを効率的に開発・管理するガバナンスの仕組み作りが必要です。高品質な学習データを維持し続けるには、多大な労力がかかります。そのため、プロセス・ツール環境を改革してデータ利用のスピードと生産性を継続的に改善するDataOpsの仕組みを取り入れて効率化し、AIの監視や学習済モデルの管理/デプロイを自動化する仕組みを導入し、アジリティのある組織体制や環境を整備する必要があります。

これらを支援するツールやサービスはすでにSaaSを始めとしたクラウドサービスで提供されており、コスト面でもスモールスタートで、契約すれば即時利用可能な状況が整っています。ビジネス実装のスピードをさらに向上させるためには、このようなクラウドサービスの活用も視野に入れるべきでしょう。

デロイト トーマツ グループでは、ビジネス実装やリスクマネジメントなどAIに関するアドバイザリーを提供しています。実証実験からビジネス実装に求められるプロセス改善等のプロジェクトやAIのガバナンスについて課題を感じられる企業のご担当者様は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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