事例紹介

「人間的洞察力」と「AIが提供するインサイト」により実現される高度なアナリティクス - 投資判断におけるオルタナティブデータ活用事例

Translate unknowns into knowns. - Articifial. It's actually quite human.

1. はじめに

機械学習の技術が近年急速に発展したことにより、ビッグデータを利用したモデリングは信頼性が向上し、容易にもなりました。金融業界でも、アルゴリズム取引の導入が進み、銘柄選択や投資比率の変更や新たな投資戦略の導入等によって追加的に得られるリターン(アルファ値)獲得などのための新たな情報源として、オルタナティブデータの利用が積極的に行われるようになっています。

オルタナティブデータとは、投資家が投資判断に使うデータのうち、伝統的に用いられてきた市場価格データや財務数値などの情報以外のデータを指します。例えば、ニュースの記事、SNSの投稿、POSデータ、クレジットカード決済情報、気象情報、人工衛星からの画像情報などがあり、従来投資判断に使うことが難しかったデータが、海外の金融機関を中心に利用が広がっています。

 

2. クライアントの課題

経済の変動は経済指標や株価に代表されるようにファンダメンタルズと投資家の投資行動における心理的な側面の両方が影響し、多数の市場参加者の膨大な情報が相互に作用しあって決定されるため、非線形な挙動を示します。そのため、数値情報の分析結果のみで長期的な投資判断を下す事は難しいとされています。その理由として、人間が解釈を行えないほど複雑な最適化が生じることや、数値以外の情報が欠落してしまっていることが挙げられます。

そこで正しい用字用語で事象を的確に伝え、しかも裏付けのあるファクト(事実)を発信しているテキスト(新聞記事等)を用いて経済の変動を分析する研究が、自然言語処理技術の発達と共に近年盛んになってきています。なお、テキストを用いる利点として解釈が容易であること、数値に含まれない情報も分析できることの2点が挙げられます。

そのため、あるクライアントは高度なテクニックや知識を持たない人でもオルタナティブデータが活用できるかどうかを実証するべく、新聞記事に対して自然言語処理などの技術を用い、市場や投資先、経済動向に関するトレンド分析の実証実験を行うこととしました。

3. 提供したソリューション

Deloitte Analyticsは上記クライアントの課題を踏まえ、新聞記事のテキスト情報を用いて、企業の海外事業展開の現況や課題・今後の展望から、長期的な経済動向の分析を行いました。さらに膨大な情報の中から投資に有益な情報を抽出し、その情報間の関連性を明確にすることで投資活動に役立つ情報の抽出を試みました。

4. 成果

  • 自然言語処理技術は、高度なテクニックを持たない人材にもわかりやすく定性的なインサイトを与えることを実証
  • 従来人間が認識し得なかった意思決定に資する情報をデータから的確に発見
  • 分析を始める前の「目標設定(AIの洞察への期待値コントロール)」と「AIの洞察を人間が解釈する」部分に人の関与が不可欠であることを確認

5. まとめ

人工知能の発展により、今まで対応できなかったスピード感で大量かつ粒度の細かい情報を処理することが出来るようになってきました。例えば、複数のソーシャルメディア上の情報を統合して、日次でS&P500指数の買い売りシグナルを提供する企業やニュース・サイト、プレスリリース 、その他Web上の多数のテキストを統合して、為替、国際、コモディティ取引に関わるセンチメントデータを提供する企業も台頭してきています。

このように企業価値に占める無形資産、特にテキストデータの重要性が近年高まってきており、それに伴い財務情報などからだけでは得られない情報をあらかじめセンシングする需要が高まっています。しかし、人間の認知に迫る数々の記録を出している最新のディープラーニングを駆使したとしても、今回のプロジェクトで改めて明らかになったように、依然として「人間的洞察」が必要とされる問題定義がビジネスにおいて重要な点には変わりはありません。

一方で、高度なアナリティクスを用いたパターン認識と機械学習(ディープラーニング)は、従来人間が認識し得なかった要素をデータから意思決定に資する情報を的確に発見することが出来ます。Google が発表した言語処理モデルBERTは、GLUE (General Language Understanding Evaluation)と呼ばれる代表的なベンチマークテストにおいて、当時、すべてのタスクにおいて非常に高い精度を発揮し、一部のスコアは人を超えるなど、自然言語処理研究で大きなインパクトを与えました。BERTが話題になった2018年10月から4ヶ月後にGPT-2がOpenAIから発表され、その半年後にCarnegie Mellon University からXLNet、また2019年7月に早くもBERTの改良版がMicrosoftの共同設立者の一人であるポール・アレンが設立した「アレン人工知能研究所(Ai2)」からRoBERTa、さらに2020年2月にGoogleが発表したT5が発表されました。このようにめまぐるしく記録が更新されていくこの分野の発展に驚かされるとともに、最近は様々なタスクで人間超えを主張するモデルが多数登場しており、「機械の言語能力をどうやって測るか」という問題を再定義することが必要になっていると筆者は感じています。

「人間か機械か」という二者択一ではなく、「人間的洞察力」と「AIが提供するインサイト」を融合した高度で新しいアナリティクスにより問題解決に貢献することが重要ではないでしょうか。

 

執筆者プロフィール

大場 久永
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス

金融機関を主軸として、アナリティクスに関わるアドバイザリー業務に従事。信用リスクやAML領域、不正検知における機械学習及び深層学習の活用などを強みとする。また、サイバーセキュリティにおけるアナリティクス活用なども推進しており、金融機関における幅広い領域での業務経験を有する。

毛利 研 (もうり けん)
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス
マネジャー

国内トップシェアの事業サービス企業にて、機械学習および自然言語処理に関する研究開発を経て現職。人工知能関連の実装能力、業務経験が豊富だけでなく、Bitcoin/Blockchainを含む最新技術に関する調査・戦略立案・投資実行の経験も有する。大手メーカー時代は、防衛事業関連部署にて各種解析サービスを提供する情報システムの開発や事業戦略立案に従事。米国拠点にて、国防省・諜報機関における先端技術動向調査と事業戦略立案なども経験を有する。

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