事例紹介

データドリブンなROIC経営で企業価値向上と経営の迅速な意思決定を実現

1. はじめに

昨今、企業におけるコーポレートガバナンス改革において企業価値向上が注目を集めています。企業価値を測る一つの重要な指標として、ROIC(Return on Invested Capital)1 を採用する企業が増加しています。ROICが高いほど、事業活動に投じた資本により効率的に利益を生み出していることを示すため、経営層は事業の運営状況を容易に把握することができます。そのため、各社はROICをモニタリングし、その改善に向けて様々な施策を実施することで、継続的に企業価値の向上に取り組んでいます。しかし、事業が多様になり複数の部門を抱える企業においては、ROIC改善に結びつく要因の特定が難しく、有効な改善施策につなげることが困難になってきています。

Deloitte Analyticsは、財務会計や各業種の業務知識、およびアナリティクスの専門性を用いて、管理会計領域における課題解決を支援してきました。ROIC経営の推進においても、財務会計データや社内業務データを活用した効果的な業務改革の実績を豊富に有しています。データドリブンなアプローチで客観的な結果を提供することで、複雑になった管理会計を分かり易く解きほぐし、経営の迅速な意思決定につなげることが可能になります。

 

1ROIC(Return on Invested Capital):事業活動に投下した資本に対してどの程度利益を得られているかを示す指標

2. クライアントの課題

ある製造業では、事業運営に関わる意思決定の迅速化が重要な経営課題でした。ROICを用いて現在の「稼ぐ力」を正しく認識し、採算性の強化に向けた意思決定を迅速にするROIC経営の推進に注力していました。一般的にROIC経営の推進においては、ROICへ与える影響が大きいドライバーを特定し、改善することが有効です。しかし、複数の事業部門が協力して多種多様な品種を製造する上記クライアントには、その現場活動において事業活動に関わる管理会計の指標が数多く存在していました。そのため、どの指標を改善すれば全社ROICが向上するのかが不明瞭で、投資やコスト削減の意思決定に時間がかかっていました。また、その指標を改善するために施策を打った場合、各施策がROICに対してどの程度影響を与える可能性があるか、見通すことが難しいという声もあがっていました。

つまり、ROIC経営推進のための骨格となる指標整理と全体像となるROICツリー2の設計から、日々の現場活動における詳細な施策検討まで、End-to-Endでの実行支援が必要とされていました。具体的には、定性的および定量的観点から指標を精査し、ROICへの影響が大きい指標を明らかにするとともに、重要指標についてはさらに詳細なデータを用いて有効な施策の洗い出しが望まれました。そこで、Deloitte Analyticsは膨大な指標の分解・可視化、各種変化に対する影響度分析、施策効果シミュレーションなどを活用し、定量的な結果をもとにROIC経営の実現に向けたアドバイザリーを提供しました。

 

2ROICツリー:最上位概念であるROICを投下資本と税引後営業利益、さらに詳細な科目等へ要素分解していった樹形図

3. 提供したソリューション

(1) 定性的・定量的観点からのROICツリー構築支援

ROIC経営において管理すべき指標を決定するために、指標の体系化と重要指標の精査を実施しました。まず第一に、クライアントの各事業部とディスカッションを重ね、現場層が考える指標と経営層が考える指標を洗い出し、さらにはデロイトの経験から重要と考えられる指標を加え、膨大な数の指標をロングリストとして体系化しました。このロングリストは、留意すべき可能性のある管理指標を含んでいます。実際に重要指標かどうかは、現在の事業運営に依存します。クライアントの会議体においても、このリスト内の数多くの指標が報告されていましたが、参加者からは形式的になっているという意見もありました。そこで、管理指標を絞り込むために、各指標が適切な粒度・頻度で計測可能な指標かどうか、その数値は制度会計上の数値と一致しているか等の複数観点での評価や、ROICツリー上の上位指標との関係性を定量的に検討することで、膨大な数の指標の中から重要指標の精査を実施しました。これにより、事業の改善に大きく貢献する指標のみを抽出することができました。

ROICツリー イメージ
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図:ROICツリーイメージ

 

(2) 重要指標改善のための施策分析

事業の重要指標をどのように改善していくかを考えるうえで、現場のオペレーションにおいて、どこに改善の余地があり、またどの程度の改善効果が見込まれるかを明らかにするため、詳細なデータを用いて施策に対する効果分析を行いました。

例えば、営業活動においては、多品種を多くの取引先に販売する中で、値引きの効果が売上や利益にどの程度貢献しているかは現場活動の見直しにおいて非常に重要な論点となります。Deloitte Analyticsでは値引き効果が低い品種・取引先の把握を行うとともに、その改善効果を試算することで、経営層の意思決定をサポートしました。

また生産活動においては、工場の設備稼働率を上げるための生産配分や、品種ごとに異なる需要変動に対応した在庫管理や生産管理の実現が重要な論点としてあげられます。在庫管理においては、品種別の回転率や交叉比率、保管費や運送費等の指標をもとに、特定の在庫数の削減や終売に関する提言を行いました。安定した生産活動の実現においては、各生産ラインの理論生産量に対する実績生産量などの指標を用いて無駄な部分の評価を実施し、非効率な生産ラインの特定を行いました。

値引き分析イメージ
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図:値引き分析イメージ

 

(3) ROIC関連指標の定常的モニタリング支援

ROIC経営の実現には、経営層だけでなく現場層にも浸透が必要であり、現場活動の見直しと改善を経営と一体感をもって継続的に行っていくことが肝要です。そのため、クライアント自らがROIC関連指標の把握と問題点を定常的にモニタリングし、課題把握ができるよう、分析支援ツールを提供しました。このツールを活用することにより、生産本部では生産品質の改善、営業・マーケ本部では、製品カテゴリごとの採算性の強化、ロジスティクス本部では在庫コストの削減などの、継続的にオペレーション改善ができるようになりました。そして、現場の従業員が経営に影響を与える現場指標を認識し、データにより導き出された業務改善点に対して、日常業務の枠組みの中で自律的かつ継続的に取り組むことが可能となりました。

4. 成果

  • 重要指標(KPI)の整理とROIC経営の基盤となるROICツリー の設計
  • 各現場活動における詳細なモニタリングとデータに基づくボトルネックの特定
  • 施策改善効果の試算による意思決定材料の提供
  • クライアント自ら実施できる分析支援ツールの提供

 

5. 経営意思決定の更なる迅速化に向けた打ち手

ROIC経営に限りませんが、より望ましい管理会計体制においては、流動的なビジネス環境の変化をとらえ、適時適切な行動をすることが重要です。刻々と変わる状況の中で、経営者の意思決定は迅速であることが求められます。つまり、現状の確認、問題点の把握から打ち手の検討まで、変化の検知とその後の意思決定に必要な検討材料がいつでも取得可能な状況にあることが望ましい環境であると言えるでしょう。そこでDeloitte Analyticsは、データを活用し下記の要件を備えるビジネスインテリジェンス環境を整えることで、変化に応じた意思決定の加速化を図ることを提案しています。

  1. 日々の経営状況を自動的に集約し、週次・月次単位でのモニタリング
  2. 何らかの変化が見受けられた場合、ビジネス要素を分解し個別問題点を識別
    (例:特定の事業部、ブランド/製品、地域、取引先などの分解・特定)
  3. 問題解決に向けて必要な打ち手を提示

これらを一連のサイクルとして事業計画や日々の実績データ管理へ反映させることにより、俗人的な分析作業を軽減でき、更なる意思決定の迅速化が可能となります。

6.まとめ

コーポレートガバナンス改革の一つとして注目を集める「ROIC経営」。各企業がROIC経営に取り組み始めていますが、その過程には多くの課題が存在し、推進プロジェクトにおいて議論の収拾がつかなくなる場面も多くなるでしょう。そのような状況の中で、アナリティクスの活用は、人の経験・知見に数理・計数アプローチを掛け合わせることにより高度な比較・評価を実施できるため、理解しやすい経営、事業部運営に道筋を示すことができると考えます。これにより、意思決定の迅速化と一歩進んだROIC経営が期待できます。

 

 

 

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