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医師売上按分における不良設定問題を解決する新アプローチ(特許7429327)
製薬会社における医師売上按分問題について、最適化手法のフレームワークで解を導く
Life Science Commercial advisory service “Sales Indication Split Analysis” by Deloitte Analytics.
1. はじめに
医薬品は製薬会社⇒医薬品卸⇒医療機関⇒患者という経路に従って流通しています。日本の製薬企業では、医療機関から患者への経路(三次消化)のデータを取得する方法がなく、医薬品卸から医療機関への経路(二次消化)の施設売上データしか把握できない状況です。そのため、ある医薬品に対してどの医師がどの適応症に対しどのくらい購入(処方)したかは把握することができず、二次消化のデータ等から推測するしかありません。しかし、二次消化のデータのみでは情報が不足しており三次消化のデータを一意に定めることができません。この三次消化のデータのように、確かな解(処方数)は存在するが情報が不足しているため解(処方数)を1つに定めることができない(解けない)問題を不良設定問題といいます。
本稿では、これまで製薬会社のコマーシャルデータを用いて様々なデータ分析に取り組んできたデロイト トーマツが、特許[1]を取得した「医師売上按分における不良設定問題を解決する新アプローチ」をご紹介します。
2. 医師売上按分の現状と課題
医薬品には複数領域に効能・効果がある場合が多く、複数の診療科の医師が同一医薬品を処方することが多い現状です。しかしながら、MR毎の売上や適応別売上を把握することができないため、プロモーション活動の成果評価が難しいことが課題視されています。この現状を解決するためには医師別適応別の売上按分が必要になります。
売上按分手法として多くの製薬会社では予測モデル(機械学習)を用いた按分方法が実施されています。しかしこの手法には3点課題があり、売上按分に対して予測モデルを用いた手法は十分ではないと考えられます。
課題①:予測精度の低下要因(学習用データの定義域外の精度が担保できない外挿問題、時間経過とともにインプットデータの分布の変化が生じるデータドリフト、正解データとなる定義が変化してしまうコンセプトドリフトなど)を補うための仕組みを取り込みづらいこと
課題②:売上按分に有効と思われる現場のビジネス知見(定性情報)を予測モデルに取り込みづらいこと
課題③:施設ごとに精緻な予測モデルを作成することが困難であるため1つの予測モデルですべての施設の売上按分を実施することになり、施設ごとのパラメータ調整が難しいこと
3. デロイト トーマツのアプローチ
デロイト トーマツ手法(以下デロイト手法)では、「仮説」を基に情報を補う最適化アプローチにより、不良設定問題である医師×適応別売上按分問題を解決可能な課題に持ち込むことができます。(特許7429327)
デロイト手法による売上按分のイメージ
デロイト手法には3つの強みがあり、予測モデルを用いた従来手法より柔軟性高く高精度の按分が可能になります。
強み①:従来手法である予測モデルに加え、様々な売上按分手法を組み合わせることで予測精度低下の要因を補い合うことができること
強み②:デロイト手法の売上按分モデルには定量的・定性的な仮説を共に組み込むことが可能であること
強み③:施設ごとに売上按分モデルを構築するため、施設個別の特徴を加味することができること
次にデロイト手法のアプローチ方法をご説明します。
Step1:定量的・定性的な売上按分に関する仮説の設計
Step2:売上按分モデルの構築・計算処理の実施
Step3:按分結果の評価・考察
Step1からStep3の処理を繰り返し実行することでより精度の高い売上按分を実現することができます。
4. 本アプローチによる成果と展望
医師×適応別の売上を従来手法より精度高く算出できるため、製品のプロモーションを実施した結果、処方数がどのように変化したかを適切に把握できます。この高精度な売上按分実現の波及効果は、大きく6つあります。
①医師ターゲティングの精緻化
処方実態の把握実現により、処方意欲に課題のある医師や継続的に処方を実施している医師を明確化できるため、ターゲティングの精緻化につながります。
②活動最適化
ターゲティングの精緻化により、MRにとって注力すべき対象が明確になり、プロモーション活動を効率的に行うことができます。
③施策効果測定の実現
医師別適応別の売上を施策実施前と実施後での変化を確認することで、施策効果を測ることができます。この結果をもとに、医師・施設の属性などに応じて今後どういった施策がより有効かを検討することが可能となります。
④処方要因の探索の詳細化
医師別または適応別に処方開始や処方継続、増加状況を把握できるため、処方に至った要因をより詳細に分析することができ、プロモーション活動において重要なファクターを特定するなどのMRのプロモーション戦略に対する有用な示唆が得られます。
⑤インセンティブプランへの活用
これまでは、施設内に同じ製品担当のMRを領域別に複数人配置すると施設の売上しかわからないため、MR毎の営業活動を適切に評価できませんでした。しかし、担当医師×適応の売上を把握できるようになれば、MRの営業活動を適切に評価できます。適切な評価はインセンティブへも活用できMRの営業活動の動機付けにもなると考えられます。
⑥組織体制の強化
医師別の売上把握により、売上または収益などの最大化が望めるリソース配分をシミュレーションすることも可能となり、最適な営業組織を構築することができると考えられます。
このように売上按分実現の期待効果は大きく、MR個人へのプロモーション活動のフィードバックへの利用のみならず、組織全体への体制や施策の変革の一助となると考えています。
5. 最後に
プロモーション活動の成果を精緻に把握できないという日本の製薬会社における長年の根本問題を解決できる手法を開発できたことは、今後の日本の製薬会社のプロモーション活動変革のきっかけとなることが期待されます。また、この取り組みによって製薬企業における経済活動を詳細かつ正確に把握することができたという点でも大きな成果であるといえます。企業にてDXを推進していく上では、その経済活動を正確に把握することこそがデータ活用の根幹とも言うべき重要な要素です。本事例は、データが持つ情報を適切に引き出し、それを企業活動へと応用できた好事例として今後さらに発展していくと考えられます。
[引用文献]
[1] 有限責任監査法人トーマツ. 中西研介, 広瀬俊亮, 岡本麻里, 本田保貴, 趙楊. 情報処理システム、及びプログラム. 特許第7429327号. 2024-02-07.
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