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データセンターの未来と日本企業
Financial Advisory Topics 第2回
Financial AdvisoryのHot Topic解説や事例紹介、新規サービスなどを紹介するシリーズ。今回のテーマは、データセンター。デジタル社会を支えるデータセンターは、昨今、不動産事業者による業界への参入が活発で、金融機関から投資対象としての注目も集めています。
I.はじめに
ITや製造業はもとより小売、教育、医療、農業など全ての産業のデジタル化やDXを支える根幹にデジタルインフラが存在する。それはデジタル社会を支える国家の大黒柱ともいわれており、なかでもデータセンターは中枢を担っている。さらに昨今では不動産事業者によるデータセンター業界への参入が活発で、金融機関から投資対象としての注目も集めている。
データセンターとは、各フロアに配備されたラックの中にサーバーなどの機器が設置されている建物を指す。一般的な建物に比べて、電力使用量が多く、耐荷重が大きい点が主な違いとしてあげられ、空調管理のために冷却機能が備わっており、水を用いない消火方法を採用する点もデータセンターの大きな特徴といえる。
II.データセンター市場
日本のデータセンター市場は、2020年には69億ドルと評価されており、2026年には102.3億ドルに達すると予想され、CAGRは6.8%の成長が見込まれている。また、日本におけるインターネットトラヒック*1 は前年同月比平均+21%で2019年まで推移していたところ、COVID-19の影響で在宅勤務によるインターネット利用が増えたことに伴い2020年は前年同月比+57%と急増している。
グローバルにおけるデータセンター拠点数は2020年の5,000拠点から2026年には7,800拠点へと1.5倍以上増加することが予測されており、日本のみならず世界的に規模が拡大していくことがうかがえる。
同時に懸念されることとして環境への負担が挙げられるが、設備や機器などにおける低消費電力技術の開発および導入が進んでいくことにより、従来と同程度の役割を果たすために必要となる電力量は軽減していく見通しとなっている。結果として2020年には210,000 GWhであったデータセンター電力消費量は2026年における見込値が252,000 GWhと1.2倍の増加に留まっている。
*1 インターネットトラヒック:インターネットを通じて送受信される情報量のこと
III.M&Aの動向
グローバルにおけるデータセンター関連(データセンターおよび関連サービスや機器の提供を含む)のM&Aは件数および案件総額ともに過去3年間で増加しており、新設データセンターへの投資額も増加傾向にある。加えて不動産会社および金融機関による投資額の比率も増加しており、投資対象としての注目度の高さがうかがえる。2019年の国内新設データセンター投資額は2,714億円で、データセンター事業者単独の投資と不動産会社および金融機関投資による投資の割合は凡そ半々であったが、2025年には計3,500億円の投資額全てが不動産会社および金融機関による投資となることが想定されている。
2018年からこれまでに公表された日本企業が買手であるデータセンターを対象としたM&A案件(データセンター自体のみを対象とした資産買収は除く)は計3件あり、当社はそのうち2件に関与している。2018年以前から当社はデータセンターM&Aに複数件関与しており、多岐にわたる知見を蓄積している。当社がデータセンターM&Aをサポートする際には、通常のファイナンシャルアドバイザリー業務に加えて、デットを用いた最適な買収方法やリースの活用を含めたビジネスストラクチャーをご提案することも可能である。また、データセンター事業者への業務提供実績を活かし、データセンターへの投資を検討されている不動産会社や金融機関へアドバイザリー業務を提供するケースも増えている。
IV.おわりに
データ流通量の増加は留まるところを知らず、データセンターの必要性が今後も増していくことが想定されるため、国内では印西市などを中心にデータセンターの新規建設が進められている。データセンター事業者以外の投資が活発化する中で、利用する側に留まらず、土地や建物などの遊休資産を保有する事業者が新たなビジネスとしてデータセンターへ活用することも一案であろう。
一方でデータセンターを運営する事業者はM&Aにより集約する方向へと向かっている。今後更なる環境への配慮が求められる中で純粋にデータセンター拠点数や規模を拡大するだけではなく、より効率的かつ環境にやさしい方法で運用していく必要がある。さらに年々個人情報の取り扱いやデータ保護に関する規制が厳しくなり、セキュリティ面での信頼も必要不可欠となっている。データセンター運営には事業上のノウハウに加えて環境に配慮している安全性や厳格な情報管理を実施している信用力が求められている。家電や日用品を中心に日本品質が既に世界から高い評価を得ているように、持続可能で高品質なデジタルインフラを提供しつづけることで日本企業がグローバルシェアNo1を獲得する日も近いかもしれない。
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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートファイナンシャルアドバイザリー
シニアバイスプレジデント 友永 亮一
シニアアナリスト 塩田 澄子
(2021.10.8)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。