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Beyond5Gの知財動向
Financial Advisory Topics 第6回
5Gの次世代となるBeyond5Gは、Society5.0の実現において欠かすことのできない通信基盤であり、その市場規模は今後大きく成長していくことが予想されています。既にグローバルでの開発競争が進む中、日本においてもBeyond5Gの主導権を握るための開発・知財戦略を検討することが重要です。ここでは、国別・機能別の特許出願分析に基づきBeyond5Gの知財動向を明らかにします。
Beyond5Gの概要
第五世代移動通信システム(5G)が社会基盤としての実装に向けて世界中で開発されている中、社会の目は既にその次の世代である「Beyond5G」に向けられている。Beyond5Gは、いわゆるSociety5.0の実現において欠かすことのできない通信基盤と考えられており、コロナ禍によるニューノーマル時代への突入によりDXへの推進圧力が高まる現在においては、より一層注目を集めていくものと考えられる。
※Society5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会と定義され、内閣府により提唱されたもの
Beyond5Gを構成する機能
総務省が発表した資料によれば、Beyond5Gは次の7つの機能を備えるものである。
① 超高速・大容量
アクセス通信速度は5Gの10倍、コア通信速度は現在の100倍
② 超低遅延
5Gの1/10の低遅延、CPSの完全同期の実現、補完ネットワークとの高度同期
③ 超多数同時接続
多数同時接続数は5Gの10倍
④ 超低消費電力
現在の1/100の低消費電力
⑤ 自律性
ゼロタッチで機器が自律的に連携、有線・無線を超えた最適なネットワークの構築
⑥ 拡張性
衛星やHAPSとのシームレスな接続、端末や窓などあらゆるものを基地局化、機器の相互連携によるあらゆる場所での通信
⑦ 超安全・信頼性
セキュリティの常時確保、災害や障害からの瞬時復旧
このように、Beyond5Gでは、5Gの特徴的な3つの機能(上記①~③)に加えて、持続可能で新たな価値の創造に資する4つの機能(上記④~⑦)が求められるものである。
Beyond5Gに関する国内外動向
日本では、令和2年に総務省が公表した「Beyond5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」に基づき、Beyond5G推進コンソーシアムやBeyond5G 新経営戦略センターが設立され、産学官が連携してBeyond5Gを推進していく体制が構築されている。Beyond5G推進コンソーシアムではBeyond5Gの早期かつ円滑な導入、国際競争力の強化が推し進められる一方で、Beyond5G 新経営戦略センターでは知財戦略の検討(知財取得・標準化)が進められる。また、総務省はBeyond5G実現に必要な最先端の要素技術等の研究開発を支援するため、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)に公募型研究開発のための基金を創設するとともに、テストベッド等の共用施設・設備を整備し、企業や大学におけるBeyond5Gの研究開発を促進している。
Beyond5G開発の動きは、当然日本のみでなくグローバルにおいて活発となっている。
海外ではとくに欧州が先行しており、EU内の欧州委員会主導のもとでBeyond5Gの研究開発に関するパートナーシッププログラムが立ち上げられる等の動きが見られる。米中においても、政府が支援する形でBeyond5G開発が進められており、Beyond5Gの主導権を握るための熾烈な開発競争が繰り広げられていると考えられる。
市場予測
図1に示すのは、5G・Beyond5Gのグローバル市場規模の予測である。5G・Beyond5Gのグローバル市場規模は年平均成長率で40.7%と急激に成長していくことが見込まれており、2025年には32,373百万USDとなることが予測される。
このような市場の成長性を見越した活発な特許出願が行われていることが、次の特許調査結果から明らかとなっている。
特許調査
図2は、Beyond5Gに関連する特許出願の日米欧中における合計件数を算出したものである。Beyond5G関連出願件数は、2017年以降堅調な伸びを見せており、グローバルでの開発が拡大していることが推測される。
図3は、Beyond5Gの7つの機能別に特許出願件数の推移を示したものである。いずれの機能も、2017年以降継続して出願が出されていることが確認される。とくに超安全・信頼性の出願件数が2017年以降大きく伸びている他、超低遅延、自律性、拡張性についても増加傾向にあると考えられる。
図4は、Beyond5Gの機能別の特許出願件数(2017年以降の出願件数合計)を国別に示したものである。全体的な傾向として、米中の出願が日欧と比較して大きいことが確認される。機能別にみると、超高速・大容量、超多数同時接続、超低消費電力では米国が、超低遅延、自律性、拡張性、超安全・信頼性では中国が最も出願が多い結果となっている。日本は、米中と比較していずれの機能においても出願件数が劣勢にある状況となっている。
以上に記載したとおり、Beyond5Gの将来的な巨大市場を目指して、各国ともに官民が連携して積極的な技術開発を進めていることがわかる。しかしながら、日本においては米中と比較して出願件数が少なく、技術力において劣勢にある可能性がある。Beyond5Gに向けた技術競争は既に始まっており、グローバル市場における主導権を握るためには、将来予測をふまえた開発ロードマップに基づく具体的な知財戦略の立案が急務であると思料する。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
知的財産アドバイザリー
シニアアナリスト 山田 渡
監修
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
知的財産アドバイザリー
パートナー 國光 健一
(2022.1.12)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。