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第20期共産党大会後の中国経済

Financial Advisory Topics 第19回

2022年10月16日~22日に、中国共産党第20期全国代表大会が開催されました。党大会は党の中央人事を決定する事実上の中国の最高機関であり、5年に一度開催されます。今回も2,000人を超える各地・各業界の党代表が参加し、今後5年間の内政・外交政策の方向性が公表されています。本稿では、第20期党大会後の中国経済の展望と想定される日本企業への影響について考察します。

I. はじめに

中国共産党第20期党大会(以後、“第20期党大会”とする)開幕式における党大会報告において、習近平総書記は既往の10年を振り返り、共産党創立百周年の奮闘目標の一つである小康社会*1 の全面的完成を果たしたことを歴史的勝利として称えた。そして、今後はもう一つの奮闘目標である社会主義現代化強国の全面的完成を実現することを党の中心的任務として定めた。その手段として新たに強調されたのが、「中国式現代化」という概念である。

「中国式現代化」とは、製造業中心の産業ポートフォリオ構造を維持することで、雇用損失・貧富の格差といった資本主義の課題を回避しつつ、GDP成長を推進する中国独自の発展モデルである。1978年に鄧小平が改革開放政策を開始して以来、中国はイデオロギー色を抑え、国内外の資本を活用して近代化を目指す経済優先路線を推し進めてきたが、2012年に習近平が共産党総書記に就任すると、経済成長を最優先とする路線からの軌道修正が相次いで行われ、マルクス主義の中国化*2 という毛沢東時代に強調された思想への原点回帰がなされた。その流れを受けて生み出されたのが「中国式現代化」である。

第20期党大会では様々なトピックが取り上げられたが、本稿では前期(第19期)党大会から更新された政策を中心に取り上げるべく、「経済の質的発展」と「経済安全保障」という2つの側面から、「中国式現代化」に基づく今後の中国の政策動向および想定される日本企業への影響について解説したい。

前期・今期党大会報告の比較
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II. 経済の質的発展

中国の一人当たりGDPは2019年に1万ドルを超えたが、第20期党大会で習近平総書記は「一人当たりGDPを中進国レベルの新たな大台に乗せる」ことを2035年までの目標として新たに掲げた。一人当たりGDPが1万ドルに達した後に経済成長の停滞期に陥る、いわゆる「中所得の罠」を回避するために、経済の高速成長よりも経済の質的発展を重視する方針を打ち出した。

以下では、経済の質的発展を達成するために中国国内で進められるイノベーション戦略と国外で進められる双循環戦略ついて詳述する。

中国における一人当たりGDPの推移
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i. 中国国内で進められるイノベーション戦略

中国国内では、質の高い教育体系の構築によってイノベーション人材を育成し、デジタル等の項目に戦略的投資を拡大することでハイテク領域での新興産業や企業の発展を推進する。関連動向として、集積回路をはじめとする国家安全領域にかかわる企業・研究所を集約する製造業イノベーションセンターの設置を推進。2022年11月7日には成都・南昌・寧波にて「メタバース」「超高精細動画」「炭素系素材」領域でのイノベーションセンターの新規設立を決定した。また、2022年11月4日に国務院(住宅・都市農村建設部)はスマート建設の分野において自国企業の成長を促すべく、24都市でのスマート建設施行の事業計画を発表した。

デジタル化が急速に進む中国マーケットにおいて、日本企業のイノベーション投資や先端技術の開発・活用が進まない場合、中国市場における競争力が低下するリスクが予想される。現地企業とのアライアンスも活発化する中、自前主義のみで競争力を強化できるか、リスクテイクが必要なのか、中長期的な視点からの検討が重要となる。また、積極的な投資を行い、中国市場で磨いた製品・サービスを他地域へ積極展開する等の発想も重要となる。
 

ii. 海外との関係における双循環戦略

経済発展を巡る海外との関係においては、2021年に発表された第14次5か年計画に引き続き、国内大循環*3 を主体としたうえで国内と国際の二つの循環を相互に促進する双循環戦略を掲げた。双循環戦略の背後には、サプライチェーン全般における海外依存度の引き下げの意図が見られる。川上では、米国の半導体輸出規制によるエレクトロニクス産業への打撃に直面した反省から、半導体の自給率向上および自主技術開発に注力する。川下では、貧富の格差を縮め「全国統一の大市場」*4 の整備を進めていく。

新たに発表された投資奨励リスト
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一見すると、双循環戦略は内需主導型の経済成長戦略のようにも見えるが、今後中国が海外市場との交流に消極的になるとは考え難い。第20期党大会において習近平総書記は貿易・投資協力の促進を掲げており、大会終了直後には新たな外資の投資奨励リスト(外商投資奨励産業目録)を発表し、製造業・東北地区を中心に新たに239項目が追加された。また、「一帯一路」においては、新興国へのインフラ投資を進めつつ、中国企業の輸出拡大・生産移転を加速していく予定である。つまり、双循環戦略とは、14億人の人口を擁する巨大な国内市場のポテンシャルを最大限に生かしながら、制度・市場において中国主導のビジネスプラットフォームを構築したうえで、グローバリゼーションを推し進める戦略だといえる。

日本企業においては、投資奨励リストと照らし合わせ、優遇政策を享受できるよう中国における投資・事業計画を再検討することは重要である。また、ファッション、美容、自動車等の日系ブランドは中国において依然人気が高いとはいえ、国産品に対する誇りの高まりや対日感情の変化等の影響を受けやすいため、「全国統一の大市場」でのブランド価値・シェアを維持し続ける努力がより一層求められる。

 

III. 経済安全保障

「中国式現代化」の実現のため、国内のリスクマネジメント強化や、国外の権益強化・資源確保といった経済安全保障の強化が推し進められている。

中国国内では、経済・金融・インターネット・データ・資源等の安全に関する政府の統制強化を相次いで実施。2017年以降、サイバーセキュリティ法・データセキュリティ法・データ越境安全評価法といったデータ管理に関する法律が継続的に整備され、国家による統制力が強化された。アリババ創業者ジャック・マー氏への圧力や、DiDiを米国市場上場廃止に追い込み処罰を与える等、民間企業への統制強化も勢いを増している。2022年3月には、「インターネット情報サービスアルゴリズム管理規定」を施行し、TikTokなどの優秀なレコメンドアルゴリズムをもとに拡大を続けているプラットフォームに対し、党の価値観を守るよう指導を図っている。

規制が日々強化され複雑化する中、中国に進出する日本企業は必要に応じて専門家を起用し、各種法規制等の遵守が引き続き重要となる。特に国家安全・情報活用に向けた法規制等が整備されていくにつれ、技術情報の管理や中国国内で保有する情報の移転が困難になるリスクが顕在化するため、適切な対処が求められる。

中国国外においては、重要産業のサプライチェーンの強化と権益保護を進める。直近では、2022年9月に中露ガスパイプラインの稼働を開始し、ロシアからの天然ガス輸入を拡大。また、「一帯一路」のプロジェクトの1つである、中国雲南省からラオスの首都ヴィエンチャンまでをつなぐ中国ラオス鉄道を2021年12月に開業し、将来的にはタイ・マレーシアを経由してシンガポールまでを結ぶ構想である。海路と比べて運送量が少なかった陸路を強化し、ラオスからは鉄鉱石などの戦略物資を輸入する予定である。一方で「一帯一路」を破棄した豪州に対しては石炭の輸入停止という報復措置に踏み切った。

日本企業にとっては、安定的な調達、生産体制の構築や物流網の整備等、グローバルな変動要素が複雑に絡み合う中で中国事業をどのように位置付けるかも含め、検討の必要性は今後も高まっていくものと考えられる。

 

IV. おわりに

米国では技術革新に伴い、サイバー・金融・サービスと医療などの高付加価値サービス領域が製造業に代わり成長を牽引するようになった。一方で、産業構造の変化の結果、雇用損失と貧富の差の拡大が生じ、これを中国は資本主義の限界と位置付けた。共同富裕を掲げ、労働者の代表と謳う共産党にとって雇用損失・貧富の差は絶対に回避しなければならない課題であり、そのために編み出されたのが「中国式近代化」という概念である。製造業中心の産業構造を堅持しつつ資本主義の課題を回避し、GDPの成長を目指していくという中国独自の発展モデルを第20期党大会は示したといえる。

日本企業にとって、価値観の多極化が進む市場で勝ち残るためには、事業ドメインからの視点のみならず、地域・国ごとのリスクを把握し、中長期的にリスクテイクを図ることが必要となる。そのため、全社的なリスクマネジメントの重要性は高まっており、地政学的観点からビジネスを捉え、成長戦略の策定や経営判断を下すことが重要である。他方、日本の本社から各地域・国ごとのリスクを詳細に把握することは困難と想定されるため、グローバル本社・地域本社・事業会社間で役割と責任を明確にし、経営リソースを適切に配分することが望ましいと考えられる。

 

*1 小康社会とは、人間本位主義の立場から社会全体の持続的均衡発展を続けることで達成される、ややゆとりのある生活を維持できる社会を指す。

*2 マルクス主義の中国化とは、中国の実態に合わせてマルクス主義の原理を解釈する考えを指す。

*3 国内大循環とは、技術革新、生産、分配、流通、消費等の循環による中国国内の経済活動を指す。

*4 全国統一の大市場とは、全国統一の市場制度・ルール構築の加速、地方保護と市場分割の状況打破、経済循環の制約の解消によって、商品・要素・資源のより広範囲におけるスムーズな流通促進と高効率で規範化された公平な競争が行われる、十分に開放された中国市場を指す。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートファイナンシャルアドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 陳 真(北京駐在)
シニアアナリスト 井本 健太
ジュニアアナリスト 小村 揚子

 

(2023.3.8)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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