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技術を保有する中小企業の知財課題とその課題を簡易に診断する方法について

Financial Advisory Topics 第28回 中小・ベンチャー企業が持つコア技術を起点に事業を優位に進めるために知財戦略を取りこむ

中小企業やベンチャー企業の中には、無形資産として価値のある技術や知財を保有しているにも関わらず、それらを生かせていない企業がたくさんある。知財課題の診断をすれば、今後の事業を優位に進めるために必要な、自社の貴重な資産を生かした知財戦略を考えることができる。

1. はじめに

近年では、知財情報を意思決定に取り込む「IPランドスケープ」への注目や、AI技術の発展等により、大企業だけでなく中小企業やベンチャー企業でも、経営における知財の重要度が高まっている。

特許庁の調査(図1)によれば、中小企業では30%以上が、ベンチャー・スタートアップにいたっては60%が、IPランドスケープを実施あるいは実施意欲ありと回答しており、経営の意思決定に知財情報を活用する動きがあり、中小企業やベンチャー企業は知財に課題意識があることが見て取れる。

図1:経営の意思決定に知財情報を活用するIPランドスケープへの注目の高まり
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参考:令和2年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 「経営戦略に資する 知財情報分析・活用に関する 調査研究報告書」 2021/3(2020_07_yoyaku.pdf (jpo.go.jp)
 

ここでは、中小企業がよく抱えている知財課題、中小企業の知財課題を簡易に診断する方法を紹介する。

 

2. 中小企業がよく抱えている知財課題

中小企業も、経営における知財の重要度を認識し始めているものの、どのような課題があるのか、その課題に対して何をすれば良いかわからず、結果何も対応がとれていない中小企業が散見される。

下記は中小企業がよく抱えている課題になる。

  • 企業全体
    ① 経営層や社員が知財の重要性を認識・理解していない
  • 事業戦略関連
    ② 自社技術・知財を活用できる新しい事業を探索したい
    ③ 新規事業領域への展開のためにどのような技術開発をすればよいか知りたい
    ④ 技術観点における業界マクロトレンド、競合他社動向を把握したい
    ⑤ 自社技術を活用して、他社とシナジーのある提携を実現したい
  • 知財戦略関連
    ⑥ 海外展開をするにあたり対応すべき知財論点が分からない
    ⑦ 他社特許による知財リスクを把握したい
  • 知財管理関連
    ⑧ 知財戦略を実行できる体制や業務フローを確立したい

中小企業が持つ課題に対して、下記のような打ち手(例)が考えらえる。

課題①:経営層・社員に対して、知財教育研修の実施

課題②③:技術・知財を起点とした事業や研究開発のテーマ探索

課題④:市場調査・ベンチマーク企業調査

課題⑤:技術・知財を起点としたアライアンス候補先探索

課題⑥:海外市場・主要プレーヤーの調査

課題⑦:特許侵害調査

課題⑧:知財業務フローの検討、知財関連規程類・マニュアルの検討
 

次の章では、中小企業の知財課題を簡易に診断する方法について紹介する。

 

3. 中小企業の知財課題を簡易に診断する方法

ここでは特許情報を活用して「中小企業の知財課題を簡易に診断する方法」を紹介する。自社内で知財活用の方向性が定まっていないなど、まずは自社の知財課題を把握したい場合には【A.知財課題の簡易診断】を、一方で、知財活用の方針が決まっている場合や、テーマが決まっている場合には、【B.知財課題の詳細な診断】を実施することが考えられる。
 

【A.知財課題の簡易診断】

簡易的に知財課題の簡易診断することで、自社の強みだけでなく、競合より評価点が下回っている課題が可視化され、自社にとって今後取り組む必要がある改善点をチェックできる。

図2:知財課題の簡易診断結果のイメージ
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【B.知財課題の診断(詳細版)】

  • 事業方向性の初期的仮説構築
    公開情報からクライアントの事業方向性に関する仮説を構築したうえで、事業方向性ごとに自社および周辺環境を簡易に調査する。
図3:事業方向性の初期的仮説のアウトプットイメージ
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  • 国内における初期的調査
    国内における自社および競合他社の特許出願や訴訟状況を把握したうえで、クライアントが有する課題の仮説を構築する。
図4:国内における初期的調査のアウトプットイメージ
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  • 海外における初期的調査
    事業展開を目指す国における技術トレンド、出願上位プレーヤー等を調査することで、海外参入に向けた技術・知財戦略の必要性を把握できる。
図5:海外における初期的調査のアウトプットイメージ
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  • 貴社課題(仮説)の整理
    事業方向性ごとの課題仮説を整理したうえで、当該課題を解決するためにどのような打ち手が適切であるかを検討できる。
図6:貴社課題(仮説)の整理のアウトプットイメージ
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4. おわりに

アフターコロナ・DXの時代に事業を優位に進めるためには、知的財産の活用が重要と考える。今回は「中小企業の知財課題を簡易に診断する方法」を紹介させていただいたが、会社によってニーズや外部環境・内部環境は様々であり、課題や打ち手の形も変わってくる。

デロイト トーマツでは、知的財産や各業界の専門家が多数所属しておりますので、少しでも自社の知財の在り方に疑問を感じていたら是非ご連絡いただきたい。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
知的財産アドバイザリー
ヴァイスプレジデント 沼田 岳
 

監修
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
知的財産アドバイザリー
パートナー 國光 健一

 

(2023.12.14)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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