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農地売買取引に関する論点

農地取引の特殊性、取引にあたって留意すべきポイント

農地は日本の国土のうちで山林に次ぐ面積を占めており、農業保全のための農地集約や、まちづくり計画に基づく賑わい形成のための規制緩和、民間による開発計画などの動きが各地で見られます。一方で、農地の不動産取引は宅地やビル・住宅とは異なった論点が存在し、不動産会社でも取り扱いが少ない状況です。本記事では、農地の売買取引を取り上げ、留意すべきポイントを記載します。

全国農地を取り巻く動き

農地は日本の国土のうち約11.6%を占め、わが国の食料供給を支えています。一方、農業従事者の高齢化、担い手不足、鳥獣被害への対応などから維持に課題があり、土地所有者による農業従事者への売却、宅地や雑種地への地目変更、また遊休や耕作放棄などの動きが見られます。

農林水産省や自治体でも、遊休地や耕作放棄地の発生防止と解消を重視している傾向であり、担い手への農地集積・集約化の試みや、自治体のまちづくりの方針に基づき計画的な整備のもとで農用地(農業用の利用を図るべき土地)の規制を緩和しようとする試み等が行われています。

農林水産省統計部『耕地及び作付面積統計』によると、令和5年次の農地面積約429万7,000haのうち、拡張(荒廃農地からの再生等による農地面積増加)は8,630ha、かい廃(地目変更等による農地面積減少)は約37,000haと、農地を取り巻くダイナミックな動きが確認できます

出典:国土交通省「令和5年度土地白書(令和4年度土地に関する動向・令和5年度土地に関する基本的施策)」(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001613550.pdf)を加工して作成
脚注:*1 牧草放牧地を含む。 *2一般道路・農道及び林道を指す
。 

出典:農林水産省 令和5年耕地面積(7月15日現在)(https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/menseki/r5/kouti/index.html)を加工して作成

農地の不動産売買取引の複雑さ

不動産としての切り口から見ても、農地に対して、個人・法人、官民で様々取引がなされていますが、宅地や雑種地とはまた違った取引の複雑さがあるように思われます。今回は売買取引を取り扱いますが、大きくは下記のような点が考えられます。

1. 取引ができる対象者が限定されている

市街化調整区域内の農地を農地のままで売買取引できるのは、原則農業従事者のみになります。新規参入の農業従事者等の場合は、農業委員会が求める要件をすべて満たした場合に限り許可されます。

  • 買主が個人の場合
    ① 農地のすべてを効率的に利用すること
    ② 必要な農作業に常時従事すること
    ③ 周辺の農地利用に支障がないこと
  • 買主が法人の場合
    個人の①~③の要件に加え、農地所有適格法人であること
    ※農地所有適格法人とは、農業を営む法人が農地法第2条第3項に定める一定の要件を満たし、農業委員会の許可を得た、農地を取得できる法人のことを指します。

市街化調整区域内の農地を開発用地等、別の地目に変更する目的で売買取引するのは、農業従事者でない場合が多いと予想されますが、こちらの場合も農業委員会へ申請をし、都道府県知事または指定町村の長による許可が必要となります。

農地の売買は農地法で管理されているため、農業委員会に申請し都道府県知事または指定町村の長の許可を取らなかった場合には農地法違反となります。

また、対象農地が農業振興地域の農用地区域(青地)に指定されている場合、転用許可を受けるためには、厳しい規制の中、農用地区域から除外するに足りうる合理的な理由が求められ、さらに取引のハードルが高くなります。

 

出典:農林水産省 農業振興地域制度、農地転用許可制度等について(https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/tenyou_kisei/270403/pdf/sankou1.pdf)を加工して作成
脚注*¹:農振法とは「農業振興地域の整備に関する法律」 、農振除外とは「農用地区域からの当該農地の除外」のことをさす。

2. 取引に関わる関係者が多い

農業委員会や農林水産振興課(※自治体によって呼称が異なります)や都道府県等の行政組織への届け出・申請の他に、農地がある地域に応じ、農地の維持管理に関連している組織との調整が発生します。売主は毎年各組織に費用を支払っている場合があり、それらの内容の確認や承継、もしくは転用による変更手続が必要となります。

一例

① 農地が属するエリアの生産組合
農振除外・農地転用の申請にあたり、所管エリアの生産組合長により、地目変更して差し支えない旨の意見書の取得が必要です。また、転用にあたり所定の費用が掛かる場合があります。

② 農地が属するエリアの農業協同組合
農振除外申請にあたり、所管エリアの農業協同組合による農振除外を行って差し支えない旨の意見書の取得が必要です。

③ 農地が利用している用水等にかかる土地改良事業区
農振除外・農地転用の申請にあたり、農地に引き込みを行っている用水等を管轄する土地改良区による地目変更して差し支えない旨の意見書の取得が必要です。なお、転用時には所定の費用が掛かる場合があります。

④ (農地所有者が営農を委託している場合)耕作委託者
農業委員会による農業台帳をもとに、耕作の形態がどのようになっているか契約の確認および、耕作委託を終了させる場合には営農に支障が無いように適切な時期に通知を行います。耕作権(小作権)が設定されている場合は、移転・解除のために原則として農業委員会または都道府県知事の農地法第3条の許可を要します。また、小作契約が賃貸借の形態をとっている場合には、その解除についても原則として都道府県知事の許可が必要となります。

3. 農地に対する適正な価格設定の難しさ

農地の周辺取引事例は一般的に少なく、また周囲が純粋な農地なのか他の用途にも使われうるのか、生産力や日当たり・土壌や周辺農道の出入りのしやすさ等、その地域固有の要因も売主買主が考える土地の価値に絡んでくるため、多角的な視点からの価格設定が求められます。

不動産アドバイザリーでのワンストップサービス

このように、農地に対して保全や開発の試みがある一方で、当事者や利活用の担い手にとっては手続においてやや煩雑な面がある傾向です。

複合的な視点が必要となるケースにおいては、各領域の専門家を揃え、総合的な観点からサポートを提供することができるコンサルタントに相談することが重要です。

不動産アドバイザリーでは、開発にかかる検討項目の洗い出しや方向性支援、農地をはじめ様々なアセットの不動産評価・鑑定、売買仲介等の実績を有しており、総合的な観点から、中立的な立場で一貫して支援を行います。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
マネジャー 藤武 健一
コンサルタント 本多 美乃里

(2024.6.5)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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