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デジタルトランスフォーメーションと日本の金融

今起きていることの本質と将来展望

デジタルトランスフォーメーションが日本の金融に与える影響を、金融システムの機能、金融機関経営、制度改革等の観点から包括的に検討します。

本稿の狙いは、デジタルトランスフォーメーションが日本の金融に与える影響を包括的に検討することにあります。金融を捉えるフレームワークとして、「金融機能を捉えるアプローチ」「金融機関の効率性を捉えるアプローチ」「消費者の選好を捉えるアプローチ」の3つのアプローチを組み合わせた独自のフレームワークに基づき分析しました。このフレームワークを活用することによって、デジタルトランスフォーメーションが、金融サービスの担い手である金融機関、金融サービスの受け手である消費者、そして、両者が交わる場である金融システムのそれぞれに与える影響を検討することができます。このように、本稿では、金融システム、金融機関、消費者の機能や活動を包括するものとして「金融」を捉えます。

金融危機後の金融において何が生じているのでしょうか。テクノロジーの発展、消費者行動の変化、規制環境の変化、マクロ経済環境の変化という4つのトレンドを念頭に置きながら、この点を考察しました。海外では、過去10年の間に、金融機関によるテクノロジーの活用が飛躍的に進むだけでなく、ビジネスモデルの変化もかなり進展しました。これに対して日本では、4つのトレンドが金融機関経営の変革を後押しする面があったにもかかわらず、金融機関の効率性やビジネスモデルの革新にはあまり繋がっていません。例えば、日本の金融機関のデジタルテクノロジーの活用段階をみると、多くの場合、業務プロセスの効率化を目指すフェーズにとどまっており、アンバンドル化やリバンドル化には達していません。また、テクノロジー企業等との連携の在り方をみても、やや閉鎖的な取組みが目立っています。

しかしながら、今後、日本の金融においても、グローバルな動向と同様に、デジタル・ディスラプティブな動きが進んでいくと予想されます。これまでの金融機関のビジネスモデルがもはや立ち行かなくなっているほか、消費者自体がデジタル化しているからです。これからの金融機関経営では、コスト構造の見直し、フィンテック企業や非金融業者との連携、顧客データの更なる活用、プラットフォームの台頭といった動きがでてくるでしょう。こうした時代を見据えると、金融機関経営としては、顧客目線を徹底した経営管理、オペレーティングモデルと金融サービスの両面でのアンバンドル化とリバンドル化、オープンなプラットフォームの構築、そして、デジタル時代のガバナンス・リスク管理を追求していく必要がでてくるでしょう。

幾つもの重要な課題が残されているとはいえ、金融庁が検討を進めている「機能別・横断的な規制体系」の動きもまた、金融機関経営の転換を促していくと予想されます。金融庁が進める新たな規制体系が完成する頃には、デジタルトランスフォーメーションが更に進化し、金融システムの機能自体の在り様も変化している可能性があります。5年後、10年後の新たな金融システムに備えるためにも、「金融システムとは何か」「金融機関の機能とは何か」を今一度問い直し、戦略的な対応に繋げていくことが必要になっています。

(PDF、1,369KB)
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