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ネット証券会社の業務と財務諸表の特徴

顧客とのインターネット取引に特化したネット証券会社の財務諸表の特徴とは?

株式市場で存在感を発揮している個人投資家にとっていまやなくてはならないのがインターネット専業の証券会社です。そのインターネット専業の証券会社の業務及び財務諸表の特徴を考察します

はじめに

平成24年12月の政権交代を契機としたアベノミクス、平成25年4月及び平成26年10月の日銀による金融緩和の影響もあり、日経平均株価はこの2年半で大きく上昇し、平成27年4月に15年ぶりに2万円台を回復するなど総じて株式市場は活況を呈しています。

今回は、株式市場において一定の存在感を発揮している個人投資家にとってなくてはならないインターネット取引の状況を把握したうえで、インターネット専業の証券会社の業務とその財務諸表の特徴を考察します。なお、当該記事は執筆者の私見であり、デロイ トーマツ グループの公式見解ではないことをお断りしておきます。

1. インターネット取引の状況 (1/2)

まずインターネット取引の状況について把握します。インターネット取引の口座数およびインターネット取引(株式取引。現金取引及び信用取引を含む)の売買代金の推移を図1にまとめました。図1からわかるとおり、インターネット取引の口座数は増加し続けています。インターネット取引の口座数のうち有残高口座数についても、調査が開始された平成20年3月末以降で増加し続けています。

図1. インターネット取引の口座数及びインターネット取引(株式取引)の売買代金の推移

(出所)日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(平成27年3月末)について」「インターネット取引に関する調査結果(平成21年9月末までの過去データ)」を基に執筆者が作成

1. インターネット取引の状況 (2/2)

一方でインターネット取引の売買代金については、口座数の増加と必ずしも比例せず、市場の状況に応じて変動しています。図2では、株式委託取引の売買代金全体に占めるインターネット取引の割合の推移を示しています。

図2からは、株式委託取引の売買代金に占めるインターネット取引の割合は概ね20%超で推移しており、インターネット取引(株式)の売買代金と株式委託取引の売買代金に占めるインターネット取引の割合の推移は概ね連動していることがわかります。又、平成25年4月の日銀の金融緩和をうけ日経平均が上昇し、それに伴い平成25年4月~平成26年3月のインターネット取引(株式)の売買代金が384兆円と最高額に達し、株式委託取引の売買代金に占める割合も27.2%にまで上昇しています。この株価上昇局面においては、個人投資家が市場において存在感を発揮していることが読み取れます。同様に、インターネット取引(株式)の売買代金が減少する局面では、株式委託取引の売買代金に占める割合も減少していることから、個人投資家は市場全体の動向により敏感に反応しているという見方もできます。

このようにインターネット取引を通じて市場で存在感を発揮している個人投資家のインフラとして重要な役割を果たしているのが、インターネット専業の証券会社です。それでは、インターネット専業の証券会社の特徴とその財務諸表項目について検討します。

図2. インターネット取引(株式)の売買代金及び株式委託取引の売買代金に占めるインターネット取引の割合

(出所)日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(平成27年3月末)について」を基に執筆者が作成

2. インターネット専業の証券会社の特徴

(1)業務の特徴

インターネット専業の証券会社とは、取引の注文等の顧客との取引をすべてインターネットを通じて行う証券会社です。平成11年の株式売買委託手数料の自由化を契機に、インターネット専業の証券会社は、顧客との取引をインターネットに特化することでコストをおさえつつ手数料率を低く設定しています。この結果、デイトレーダーなどの取引回数の多い個人投資家を中心に口座数を増やすことに成功しました。インターネット専業の証券会社や、インターネット取引を取扱う大手総合証券会社の増加は、我が国での株式売買のインターネット取引の普及に重要な役割を果たしました。

インターネット専業の証券会社の最たる特徴は、顧客との取引をインターネットに特化している点にあり、いわゆる総合証券会社の対面営業とは対極に位置しています。インターネットが普及する以前は個人が株式を購入するときは、証券会社の店舗に足を運ぶか担当の営業職員に電話して取引を行う必要がありました。現在では、パソコンやスマートフォンの普及に伴い日本全国どこからでもインターネットを通じて証券会社のホームページにアクセスし取引を行うことが可能となっています。インターネット専業の証券会社では、店舗や営業職員を自社でまかなう必要がありません。店舗費・人件費といった経費を低く抑えることで、取引手数料を低く抑えることが可能になっています。大手の総合証券会社が全国主要都市に店舗を構え、多くの営業職員を配置しているのとは対照的です。

(2)財務諸表の特徴

ここでは(1)で取り上げたインターネット専業の証券会社の業務の特徴が財務諸表にどのように反映されているのかを検討します。以下の分析でとりあげるインターネット専業の証券会社の財務諸表に関連する比率等は、SBI証券、岡三オンライン証券、カブドットコム証券、GMOクリック証券、松井証券、マネックス証券、楽天証券の7社の平成27年3月期の財務数値の合計額を基に算出しています。比較対象は日本証券業協会が公表している平成27年3月期の全国証券会社の財務数値の合計額を基に算出しています。

【損益計算書】

まず「人件費」の「販売費及び一般管理費」に占める割合は、インターネット専業の証券会社の12.56%に対して全国証券会社平均は39.70%となっており、インターネット専業の証券会社の「人件費」が低く抑えられていることがよくわかります。経費が低く抑えられていることが収益性の高さにも繋がります。インターネット専業の証券会社の売上高営業利益率(営業利益/営業収益)は43.47%であるのに対して、全国証券会社平均は23.92%です。売上高総利益率(当期純利益/営業収益)は、インターネット専業の証券会社が27.90%であるのに対して、全国証券会社平均は17.44%です。現在のマーケット環境下では、顧客取引以外に引受・募集・売出し業務や自己勘定取引など多様な業務を営んでいる総合証券会社を含む全国証券会社平均と比べて、顧客とのインターネット取引に特化しているインターネット専業の証券会社の収益性の高さがよくあらわれています。収益性の高さは別の指標からも読み取れます。インターネット専業の証券会社はトレーディング資産や店舗等の固定資産をもたないため少ない資本で営業をおこなうことが可能です。インターネット専業の証券会社のROE(当期純利益/株主資本)は15.57%であるのに対して、全国証券会社平均は9.90%です。総資本利益率(当期純利益/総資産)はインターネット専業の証券会社が1.15%であるのに対して全国証券会社平均は0.52%となっています。一方で、インターネット専業の証券会社の「委託手数料」の残高は、全証券会社ベースの「委託手数料」の残高の14.11%を占めるにとどまっています。同時期の株式委託取引の売買代金に占めるインターネット取引の割合が20%超(図2参照)であることを考慮すると、インターネット専業の証券会社では手数料を低くおさえ、個人顧客との取引量(回転数)で収益をかせぐモデルとなっていることが推察されます。

【貸借対照表】

証券会社の貸借対照表の「総資産」に占める「流動資産」の割合は、インターネット専業の証券会社が98.89%であるのに対して、全国証券会社平均は98.74%です。また全国証券会社平均の「流動資産」は主に「有価証券担保貸付金」や「トレーディング商品」から構成され、この2科目で流動資産の81.60%を占めていますが、インターネット専業の証券会社は、顧客とのインターネット取引に特化しているので、これらの科目の流動資産に占める割合は0.61%とほぼ残高がありません。一方で「信用取引資産」および「預託金」の合計額がインターネット専業の証券会社の貸借対照表の「総資産」に占める割合が86.53%、「流動資産」に占める割合が87.50%となっているのに対して、全国証券会社平均は6.39%、6.47%です。「信用取引資産」とは顧客の信用取引に係る買付代金相当額をあらわす科目です。インターネット専業の証券会社の「信用取引資産」の残高は、全証券会社ベースの「信用取引資産」の残高の52.67%を占めています。また、インターネット取引(株式取引)の売買代金に占める現金取引と信用取引の比率の推移をみると、平成20年度以降は信用取引の割合が60%を超過しています(表2)。個人投資家の信用取引の多くがインターネット専業の証券会社を通じておこなわれていることが推察されます。「預託金」は複数の科目から構成されますが、残高の大部分は「顧客分別金信託」が占めています。「顧客分別金信託」とは、金融商品取引法の規定に基き、証券会社が廃業等した場合に顧客に返還しなければならない額に相当する金銭を信託銀行に信託しているものをいいます。インターネット専業の証券会社の「顧客分別金信託」の残高は、全証券会社ベースの「顧客分別金信託」の残高の59.06%を占めており、「顧客分別金信託」の残高の総資産に占める割合や残高が大きくなっているのも、顧客とのインターネット取引に特化しているインターネット専業の証券会社の特徴といえます。

執筆者: 有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ
野池 毅

表1. インターネット専業の証券会社と全国証券会社の財務数値の比較

(出所)インターネット専業の証券会社:SBI証券、岡三オンライン証券、カブドットコム証券、GMOクリック証券、松井証券、マネックス証券、楽天証券の「業務及び財産の状況に関する説明書(平成27年3月期)」を基に執筆者が作成。全国証券会社:日本証券業協会「全国証券会社主要勘定及び顧客口座数等」及び「会員の26年度決算概況(証券業法)(確報値)」を基に執筆者が作成

表2. インターネット取引(株式)の売買代金に占める現金取引及び信用取引の割合

(出所)日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(平成27年3月末)について」「インターネット取引に関する調査結果(平成21年9月末までの過去データ)」を基に執筆者が作成

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