Deloitte Insights

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド 2019

ソーシャル・エンタープライズへの進化:人間中心の組織改革

世界119か国・約10,000人の人事部門責任者および管理職等へのアンケートとインタビューを基に人事部門・人材活用の課題とトレンドをまとめた「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド 2019 ソーシャル・エンタープライズへの進化:人間中心の組織改革」を発表します。今年で7年目をむかえる本調査レポートは、グローバルで継続的に実施している人事、人材、リーダーシップに関する調査としては世界最大級のものです。

ソーシャル・エンタープライズの重要性が高まる

昨年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンドでは、ソーシャル・エンタープライズの興隆について述べました。ソーシャル・エンタープライズとは、環境やステークホルダーのネットワークを尊重・支援するという使命を、成長と利益の向上に結びつける企業です。今年、ソーシャル・エンタープライズへの転換を押し進めようとする動きは、急速に強まっています。その動きに対応するために、企業は、ミッション・ステートメントや慈善事業を超えて、ソーシャル・エンタープライズへ「進化」する方法を学ばなければなりません。そして人間中心の組織改革を進めなければならないのです。

本年の調査では、今後、ソーシャル・エンタープライズの社会における役割がより重要になっていくこと(図1)と、ソーシャル・エンタープライズと財務的な業績の比例関係(ソーシャル・エンタープライズとしての成熟度が高いほど、より高い成長が予測されている)が示されました(図2)。
 

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グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド 2019 (PDF: 4.5MB)

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド 2019が取り上げる10のトレンド

では、ソーシャル・エンタープライズへと進化すべく、私たちは「何」に対して努力すればよいのでしょうか。この質問に答えるために、企業が準備すべき10の人事・組織トレンドを「労働力の未来」「組織の未来」「HRの未来」の3つの分野に整理し、それらをもとに企業がどのように人間中心の組織改革を実現できるか解説します。

 

労働力の未来

職務(ジョブ)と仕事(ワーク)の再設計、オープン・タレント・エコノミー、リーダーシップに組織がどのように対応すべきかについて述べています。

 

代替的労働力:現在の主流

長年にわたり、契約社員、フリーランス、ギグ・ワーカーは、「代替的労働力」、つまりフルタイム従業員を補助する手段とみなされてきました。今日、これらの労働力区分は、労働力の主流の1つになっており、戦略的に使いこなしていかなければなりません。必要なスキルをもった人材が不足し、出生率が低迷する中で、「代替的労働力」は、今後の事業成長のために必要不可欠なものになっていくでしょう。

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ジョブからスーパージョブへ

人工知能(AI)やコグニティブ技術、ロボティクスを活用した業務の自動化や拡張が進み、多くの分野において職務の再構築が進んでいます。今日、職務はより機械化が進みデータ主導となっていますが、同時に、問題解決、コミュニケーション、解釈、そして設計において、ヒューマン・スキルがより必要とされています。テクノロジーが定型業務を担い、人の仕事の定型性が低下すると、多くの職務は「スーパージョブ」という職務へと急速に変化するでしょう。これは、企業の仕事に対する考え方を変える、全く新しい職務カテゴリーです。

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21世紀のリーダーシップ:伝統と革新の交点

破壊的なデジタル・ビジネスモデル、拡張労働力(人間の労働を補完するテクノロジーベースの労働力)、フラット化された組織、そして、チーム主体の仕事へのシフトが続く今、組織はリーダーが一歩前へ踏み出て、進むべき道を示すよう求めています。CEOには社会問題に対応するよう圧力がかかり、経営陣には部門を超えてより協調的に仕事を進めることが求められ、現場のリーダーはチームのネットワークを通して仕事ができるようにならねばなりません。しかし、リーダーは不確実な状況の中で効果的に方向性を示し、急速な変化に対応し、組織内外のステークホルダーとやりとりすることを組織として後押ししながら彼らのスキルを伸ばし、評価しなければなりませんが、私たちの調査結果からは、組織は新しいリーダーシップの能力に望みをかけながらも、いまだに主として伝統的なリーダーシップモデルや考え方を推進している様子が窺えます。

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組織の未来

チーム、ネットワーク、そして報酬に対する新しいアプローチが、どのようにビジネスの成果を高めていくかについて述べています。


エンプロイー・エクスペリエンスからヒューマン・エクスペリエンスへ:仕事の意義の回復

企業は、職業生活をより充実させるために多くのプログラムに投資していますが、これらの投資は全て、従業員の毎日のエクスペリエンスに焦点を当てたものです。ワークライフ・バランス改善のためにやるべきことは依然としてたくさんありますが、調査が示すように、職業生活の充実にとって最も重要なのは「仕事そのもの」です。仕事を意義あるものにすること、そして人々が一体感、信頼、つながりといった感覚を持つことが何より大切なのです。企業がエクスペリエンスを検討する際には、報酬、その他のサポートにとどまらず、全ての従業員の職務適性、職務デザイン、そして仕事の意義を考えるべきである、と私たちは考えています。

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組織のパフォーマンス:それはチームスポーツだ

階層型組織から機能横断チーム型組織への移行は順調に進んでいます。私たちのデータによると、チーム制を採用した組織では組織的なパフォーマンスが向上している一方、この変化のプロセスを経験していない組織は、世の中の潮流に対して大幅な遅れをとるリスクがあることがみてとれます。これらの組織では、機能横断チーム型組織を運営するリーダークラスの教育、チームのパフォーマンスを支える報酬やパフォーマンス・マネジメントの再設定など、組織を進歩させるための方法を組み合わせて検討していく必要があります。

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報酬:新しい期待値に対するギャップを埋める

現在の企業の報酬制度は、組織内外の両方からのニーズに応えることができていません。従業員にとって、報酬とは単なるお金以上の意味を持っています。彼らは、自身のニーズに合った報酬を求めているにもかかわらず、ほとんどの組織は「従業員が何を望み、何を大事にしているのか」を把握していないのです。一方で、富の不均衡や経済成長による利益の格差拡大に起因して、組織が報酬を適切に支払うべきという社会的圧力はますます高まっています。すなわち、より多くの組織が、様々なタイプの従業員や社会からの期待に対して、給与および報酬制度をどう構築していくか、その考え方を説明していく必要があるといえます。望ましい成果をあげるためには、学習、リーダーシップ、チーム、そしてキャリア開発といった分野も考慮して、報酬とは何か、という考え方そのものを見直していかなければなりません。従業員と報酬の間には、その期待値に対するギャップがあり、それゆえに従業員からの不満が高まっています。

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HRの未来

HRや企業全体の変革を主導するために、人事機能、テクノロジー、視点の再設計にどのように取り組んでいるかについて述べています。


人材へのアクセス:採用を超えた人材獲得

過去10年間の経済成長の間、組織はビジネスの成長を促進するために適切な人材を見つけることに注力してきました。しかし、多くのテクノロジー分野での記録的な失業率の低さと人材不足によって、採用はますます困難になり、雇用ブランド、採用マーケティング・キャンペーン、および優れた採用を実現するためのAI 主導のツールをめぐる競争が激化しています。2019年から2020年にかけて、経済は減速すると予想されており、私たちは何か新しいアプローチが必要だと考えています。人材が必要になったときに考えなく求人を公開するのではなく、組織はさまざまな方法で、どう継続的に「人材にアクセス」するかを考えるべきです。例えば、社内リソースを流動化させ、代替的労働力の中から人材を発掘し、ソーシングを拡張し、採用の生産性を高めるためのテクノロジーを戦略的に活用することなどが考えられるでしょう。

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生活・生涯を通じた学習

学習(ラーニング)は、今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンドの中でもっとも優先度が高い課題としてあげられています。人々は今日、仕事を選ぶ最大の理由の1つとして「学習の機会」をあげており、ビジネスリーダーはテクノロジー、健康寿命、仕事の慣行、およびビジネスモデルの変化によって、生涯にわたって続く人材開発への巨大な需要が生み出されたことを認識しています。リーディング・カンパニーでは、よりパーソナライズされた方法で従業員に学習の機会を提供し始めています。仕事と学習をより密接に一体化し、学習に対するオーナーシップをHR部門以外にまで拡大しているほか、日常生活で使うソリューションを職場の学習環境に取り入れる方法も模索しています。

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タレント・モビリティ:人材獲得は内部から

これまで組織は、外部採用中心に、新しい役割を担う人材を見つけてきました。しかし、スキルを持った人材自体の不足と低失業率により、外部採用だけで自社のニーズを満たすことは難しい状況になっています。成長促進に向けて、組織は、必要なスキル、能力、モチベーションを持ち、組織と内部インフラおよび文化に精通した人材の特定・配置を通じて、内部人材をより効果的に活用することが求められています。内部人材の流動化の活性に有効なプログラムをつくることで、事業と組織の成長、そして従業員のエンゲージメントなど、様々な分野での効果が期待できます。

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HRクラウド:終着点ではなく出発点

ここ数年、人事領域におけるクラウドへの移行は急速に進んでいます。一般的に、クラウドコンピューティングを活用したプラットフォーム自体は広く成功したといえますが、多くの人事クラウドシステムベンダーは、革新的なタレント・マネジメントプラクティスに取り組み、ベストなソリューションを採用しようとする企業のニーズに応えていくことに課題を抱えています。また、クラウドベースのヒューマン・キャピタル・マネジメント(HCM)システムを取り入れている企業の多くは、オペレーティングモデル、データの基本設計、そしてユーザー・エクスペリエンスの再設計といった、クラウドシステム導入を補完するような人事改革アクションを必ずしも重要視していません。これではテクノロジー導入による恩恵を十分に受けることができません。とはいえ、クラウドベースのHCMは、変化とイノベーションの基盤を築き、企業が差し迫った課題により多くの力を注げることを可能にします。

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将来を見据えて:改革はどこに向かうのか?

改革の優先順位を決めるために、私たちは、まずは一歩引いた視点(「ズーム・アウト」)から、10年後の組織やその課題、そして社会における企業の位置づけを見定めること、また目指す組織のあり方のみではなく、その実現の助けとなるもの、障壁となるものを考察することを、リーダーに勧めています。「ズーム・アウト」の視点から、「労働力」「組織」そして「HR」の3つの改革領域のそれぞれが、10 年先にどのような姿になりうるのか、もしくはなるべきか、ということを、私たちと一緒に考えてみましょう。その後に、次は「ズーム・イン」して、これらの領域の中から、直近6~12か月の間で着手すべき2-3の主要な取り組みを選び出します。これら短期的な問題を解決するためにデザインされている取り組みが、長期的なゴールの実現に向けた改革の加速化につながるはずです。

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Introducing Deloitte 2019 Global Human Capital Trends

過去のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド

2018

企業はもはや財務的なパフォーマンスといった伝統的な指標や、製品・サービスの質だけでは評価されません。企業がもたらす社会全体へのインパクトだけでなく、むしろ従業員、顧客、コミュニティとの関係性によって評価されるケースが増えています。すなわち、営利企業からソーシャル・エンタープライズへの転換です。

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2017

私たちは、2017年のレポートに「デジタル時代の新たなルール」という表題をつけました。なぜなら、この時代の特徴は、単なる変化ではなく、ビジネスとHRの新しいルールを創り出す「加速的」変化だからです。組織は、労働力や職場、そして仕事そのものの前提の大きな転換に直面しています。

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2016

2016年度のメインテーマ「新たな組織-デザインの転換 The New Organization – Different by Design」には、本調査の主要な結果が反映されています。過去3年の調査では「従業員のエンゲージメントとリテンション」「リーダーシップ」「組織文化」が一貫したトップの課題でしたが、当年度は「組織デザイン」が最優先課題として圧倒的な票を集めました。

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2015

人事・人材分野における2015年の課題としてデロイトが捉える「リーダーシップ開発」「グローバルな人材管理の実現」「人材育成」「IT活用」など15のトレンドについて重要度と対応度、対応の緊急性などについて回答を得ています。本報告書では、世界的に重要度の高い10+1のトレンドについて紹介します。

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2015を読む (PDF: 1.05MB)
 

2014

世界が不況から抜け出すにつれ、労働市場はかつてないほど若く、要求が厳しく、そしてダイナミックになっており、企業はこうした新たな人材と向き合う必要に迫られています。本レポートでは、今後、企業が優先して取り組むべき人事関連の諸課題を明らかにする、12の主要なトレンドを提示しています。

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2014を読む (PDF: 1.29MB)

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