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第4回 変革進む雇用と働き方の在り方(その2)

人事の新「世界スタンダード」~デジタル・イノベーションの中で変革を迫られるHR~

第3回は個人の視点で代替的労働力についてまとめてきたが、第4回はそのような環境変化に対し、企業としてどう取り組むかについて考察する。

ポイント

  1. 「必要なスキルを持った人材が社内にいない」場合、社外にマッチする人材を求めることが増えていく。今後、環境変化が加速するにつれ、人材の「ジャスト・イン・タイム」のニーズは高まるため、代替的労働力を上手に活用することが、今後の課題になる
  2. 環境変化が加速していく中で「リ・スキル」が重視され、自社に在籍しながら他社で経験を積ませる機会が増えていく。外部の企業も含めたキャリアパスを設計し、自社に閉じない知見や経験も含めて積ませることを意図したマネジメント「オープンタレントマネジメント」が重要になってくる
  3. デジタル時代は単純な仕事は機械が担うようになり、人間は創造性の高い仕事、テクニカルスキルおよびソフトスキルの双方を使う「ハイブリッドジョブ」、さらにはゼロベースで機能や仕事そのものをデザインする「スーパージョブ」にシフトしていく。
  4. 社外から確保する「代替的労働力」、社内人材の「オープンタレントマネジメント」、そして「機械」という新たなリソースを勘案し、質と量の両面から全体像を描く人材ポートフィリオが重要となる

1.デジタル時代の代替的労働力マネジメント-外部から確保するケース

第3回は個人の視点で代替的労働力についてまとめてきたが、第4回はそのような環境変化に対し、企業としてどう取り組むかについて考察する。当社が実施した「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2019」[図表1]では、代替的労働力を管理するプロセスについて「一貫性を欠き、品質・成果にバラつきがある」と答えた方が31%、「そもそもプロセスやシステムがほとんど、または全くない」と答えた方が23%に上り、今後拡大する代替的労働力のマネジメント手法整備はこれからの企業が多いようだ。特にギグ・エコノミーは、日本は規制の関係もあり欧米に遅れて拡大している状況にあるため、単発業務の外部委託をうまく活用し、企業としての生産性向上を果たす発展途上にあると考えられる。
 

図表1 デジタル時代の代替的労働力マネジメント
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そうした中で、日本国内において替的労働力をうまく活用・マネジメントしているケースを紹介したい。経済産業省の経済産業政策局産業人材政策室では、2018年7月に「企業におけるフリーランス活用事例集」を公開した。そのレポートに掲載されている事例として株式会社NTTドコモがある。同社では、ローミングサービスなど携帯電話の国際サービスを担当する国際事業部においてフリーランスを含むエンジニア10人程度、新規事業開発の専門家として女性のフリーランス1人と契約している。国際事業部は、専門性が求められる部署で「この業務をできる人が不足」という需要が明確にあり、そういった人材を探した結果、フリーランスに行きついた。また、新規事業開発では、ターゲットを女性とした海外旅行者向けの新規サービス開発のプロジェクトを立ち上げたものの、メンバーが全員男性かつ技術者のみという同質性の高い集団だったため、外部人材の登用に踏み切った。

活用のフローとして、以下の流れで実施している。

  1. まず依頼したい業務内容および人材像を明確化する
  2. 次いで、プラットフォーマーへの照会・依頼者選定を行った。同社の場合、権限委譲により人事部等を介さずにスムーズに選定できた
  3. フリーランス人材と委託する業務内容のすり合わせを実施。ここでは、最初に定義した人材像や業務内容に固執するのではなく、本人の適性に合わせて柔軟に業務や役割も変更することを視野に、業務内容は広めに設定した
  4. 勤務条件についてすり合わせ、委託契約手続きを実施。勤務形態は常駐から週1・2時間程度までとさまざまである
  5. 契約延長の有無について、部長・課長の会議にてアウトプットを精査し、決定する。

NTTドコモの取り組みの特徴は、必要な人材を委譲された現場の権限でクイックに確保できたことが挙げられる。特に比較的規模の小さい新規ビジネスを次々に立ち上げる状況とフリーランスとの親和性が高かったようだ。

このケースでは、既存事業の拡大や、新規事業創出を行うに当たり、不足した専門性やプロジェクトの特性に応じた適材を外部から確保する例であった。前述したように、ギグ・ワークやクラウド・ワークでは、配達やデータ入力といったさほど専門性を必要としない仕事から、デザインや新規事業創出といった高い専門性を有する仕事まで多様である。ただ、その特徴は「必要なときに、必要な量を」確保できるという柔軟性とスピードである。多くの企業において、既存事業改革・新規事業開発に向けたプロジェクトが立ち上がってもタイムリーな人材確保に難儀している。その理由は、「社内人材のケイパビリティ(企業が全体として持つ組織的な能力)が可視化されていない」こと、「必要なスキルを持った人材が社内にいないこと」が挙げられる。特に後者については、当社が実施した「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2019」の調査で、「ビジネス目的での社内タレント・モビリティの最も困難な障害は何ですか?」という問いに対し、73%の国内企業が「適切な社内人材の不足」を挙げている。多くの日本企業にとって、実は社内よりも社外のほうが、このような状況にマッチする人材を探しやすい。今後、ビジネスを取り巻く環境変化が加速するにつれ、人材の「ジャスト・イン・タイム」のニーズは高まっていくことになるだろう。代替的労働力を上手に活用することが、今後日本企業の課題になっていくだろう。

 

2.デジタル時代のオープンタレントマネジメント-社内人材に外部経験を提供するケース

当社が実施した「働き方改革実態調査2020」では、「将来、副業・兼業を従業員に積極的に推進する必要が生じると思うか」という質問に対し、59%の企業が「そう思う」「ややそう思う」と回答した[図表2]。この結果は、前回実施した2017年調査よりも20ポイント増加しており、そのニーズの高まりがうかがえる。その目的(複数回答)は「自社では体験できない多様な経験・修羅場を体験させ、本人の成長を促すため」と回答した企業が66%、「自社内にはない多様な知見・アイデアを組み合わせ、新しいイノベーションを生み出すため」が65%となっており、育成とイノベーションをその狙いに据えている姿勢が読み取れる。
 

図表2 副業・兼業を積極的に推進する必要性とその理由
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前述したとおり、ビジネスや事業環境の変化がますます加速していく中、そこで働く人が年齢にかかわらず成長することを志向し、新たなスキルを身に付けたり、経験領域を含むより広い領域で保有するスキルを活用したりすることによって、個人としての生産性や競争力を高め、より大きな価値を生み出すことができるようにする「リ・スキル」が重要になる。座学のトレーニングだけでは、新しい知識や技術を知ったり、理解できたりしても、実践を通じた体得やリ・マインドまでは難しい。ゆえに自社に在籍しながら他社で経験を積ませることによって、実践やリ・マインドを促していこうという狙いがうかがえる。また、イノベーションの源泉の一つは「既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ」にあるといわれる。これは「イノベーションの父」とも呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペーターがNew Combination(新結合)という名称で80年以上前から提示している考え方だ。この理論に照らすと、副業・兼業を通じた自社の知と他社の知を組み合わせは、理にかなった取り組みといえる。

副業・兼業に限らず、実際に社外への「レンタル移籍」や「留職」を通じて、リ・スキルやリ・マインドを促していこうという取り組みも広がりつつある。NPO法人クロスフィールズは、社会課題に取り組む新興国のNPOや企業とともに、本来のスキルを活かして課題解決に挑むプログラムを提供しており、リーダー人材育成と新興国の社会課題解決を同時に実現するサービスを提供している。また、株式会社ローンディールは、大企業の人材が12カ月程度ベンチャー企業で働き、価値創造や事業開発に取り組む「レンタル移籍」というプログラムを提供している。いずれのプログラムも、大手企業を含む多数の企業が活用しており、「社外での経験を積ませる」といった育成手法は、これから拡大しそうだ。


このように、外部の企業も含めたキャリアパスを設計し、自社に閉じない知見や経験も含めて積ませることを意図したマネジメントを、当社では「オープンタレントマネジメント」と呼んでいる[図表3]。この手法の利点は前述したようにリ・スキルやリ・マインドを促せるだけでなく、自社で成長や活躍の機会を提供しきれない状況も回避することができる、文字どおりオープンなタレントマネジメントである。なお、オープンタレントマネジメントで提供する経験は、前述したギグ・ワークやクラウド・ワークのような「特定の切り出された仕事」ではなく、例えば「経営そのもの」や「新規事業創出」といった、複雑かつ難易度の高い仕事が中心である。
 

図表3 オープンタレントマネジメントへの進化
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3.デジタル時代の「人と機械」の役割

ここまで、代替的労働力に社内の一部の仕事を担ってもらいながら、社内人材は育成やイノベーションを目的に外部企業へ異動させるマネジメント方法について触れてきたが、社内の仕事は代替的労働力だけでなく、機械が担うようになるのがデジタル時代である。

英オックスフォード大学でAI(artificial intelligence:人間の「知覚」「予測・判断」「実行」の一部または全部をテクノロジーを活用し実現させる)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授は、人間が行う仕事の約半分が機械に奪われるとの調査結果を公表した。定型的な業務や、大量のデータ処理(ビックデータ解析)を通じた認知・分析業務が、RPA(Robotic Process Automation:ヒトが実施している業務の一部を代替して行うアプリケーションであり、さまざまなアプリを扱いながら、決まったことを繰り返し動作できる)やAI、IoT(Internet of Things:従来インターネットに接続されていなかったさまざまなモノ[センサー機器、駆動装置、住宅・建物、車、家電製品、電子機器など]が、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組み)によって自動化されていく。多くの企業においてはDX(Digital Transformation:最新のデジタル技術を駆使して、企業が戦略やプロダクト、業務フローなどを変革させていくこと)を推進する中で、業務プロセスを標準化し、このようなデジタル技術を活用することで自動化を進めている。例えば、契約書からエクセルシートに情報を入力する必要があったものを、RPAが自動的に契約書関連ファイルから情報を読み込み自動転記する仕組みや、製造現場において、センサー(IoT)を活用し挙動のデータを収集・分析し不良発生動向・傾向を推定(AI)、予知保全につなげるといった取り組みが行われている。

このように、従来人が担っていた仕事の一部を代わりに機械が担っていくこととなるが、連載の第1回で掲載したように、「人材は代替困難である(機械化する仕事は増加するが、人間が行うべき創造性の高い仕事は替えが効かない)」ことがデジタル時代の前提となる。

では、人間が行うべき創造性の高い仕事とは何か。それは、特定・限定されたスキルを活用する標準的なジョブではなく、テクニカルスキルおよびソフトスキルの双方を使う「ハイブリッドジョブ」、さらにはゼロベースで機能や仕事そのものをデザインする「スーパージョブ」である[図表4]

図表4 職務の進化

・標準的なジョブ:特定の限定されたスキルを使う仕事。一般的に、定型業務と標準化された業務プロセスで構成される

・ハイブリッドジョブ:テクニカルスキルおよびソフトスキルの双方を使う仕事。これまでは、これらのスキルは一つの職務の中で組み合わせて使われることは必ずしもない場合があった

・スーパージョブ:テクノロジーを利用して、遂行する業務の範囲を拡大、拡張し、従来の職務を複数組み合わせつつ、特定分野のスキル、テクニカルスキル、ヒューマンスキルの複雑な複合を必要とする仕事

 

ハイブリッドジョブは、まさに前述したようなデジタル技術を活用し、業務プロセスを効率化・自動化していくような仕事や、予知保全の事例で示したようにAIが推定した分析結果を活用し、次の対策の検討や判断・意思決定を行う仕事である。どこかの部門が専門的にハイブリッドジョブを担うのではなく、全社的にどの部門であっても何らかデジタル技術を活用しながら仕事を行うことで、生産性を向上していくことが肝要である。なお、新型コロナウイルスの影響によって強制的にテレワークになり、チャットツールやRPAをはじめとしたデジタルツールが急速に普及・浸透する(ハイブリッドジョブ化)ことによって、期せずしてDXが加速した企業も多いのではないかと推察する。

そして、前述した予知保全の例において、例えばIoTを活用した設備や施設を製造・販売し、そのデータ分析とコンサルティングを通じて、顧客の設備故障リスク低減という価値を提供する仕事を行うようになれば、それがスーパージョブである。テクノロジー(IoT)を利用して、遂行する業務の範囲を拡大、拡張し(業務改善から顧客へのコンサルティング)、従来の職務を複数組み合わせつつ(分析・判断+製造・販売+コンサルティング)、特定分野のスキル、テクニカルスキル、ヒューマンスキルの複雑な複合を必要とする仕事へシフトすることによって、標準的なジョブやハイブリッドジョブの延長にはない新しい価値を提供するのである。多くの企業で取り組まれているDXはハイブリッドジョブが中心となっているが、デジタルディスラプション(デジタル技術とそのビジネスモデルによる、現時点におけるモノ・サービスの市場価値や企業の地位を大きく変化させるような影響。Appleによるレコード業界の破壊、Uberによるタクシー業界の破壊といった例が挙げられる)に対抗していくためには、このようなスーパージョブへチャレンジしていくことも肝要だ。


 

4.人材ポートフォリオのNext Normal

デジタル時代における人材ポートフォリオは、従来のフルタイム正社員だけで構成されるものでは不十分だ。社外から確保する「代替的労働力」、社内人材の「オープンタレントマネジメント」、そして「機械」という新たなリソースを勘案しなければ、もはや質と量という視点で全体像をカバーすることはできない。[図表5]は、これら新たなリソースが担う仕事と、社内人材が担う仕事やキャリアパスを可視化した、いわば人材ポートフォリオのNext Normal(次なる日常・価値観)ともいえるものである。
 

図表5 人材ポートフォリオのNext Normal
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仕事の複雑性・拡張性(複数のジョブを組み合わせた仕事かどうか)と、専門性の2軸でリソースを整理したものだ。「自社ではここまできれいに整理されてない」と思われるかもしれないが、今後急激に機械・代替的労働力が拡大していく中で、整理されていなくとも実態として[図表5]のようなポートフォリオに収斂(しゅうれん)していく可能性がある。大事なことは、成り行き的にリソースの質・量が変化していく状況を見守るのではなく、事業の要請やビジネスの方向性に整合させながら、戦略的・計画的にポートフォリオを構築していくことだ。また、スーパージョブやハイブリッドジョブを担い得る人材を育成するために、積極的・計画的に社外経験の場を提供することも求められる。

このようなポートフォリオを構築していくに当たり、人事のミッションや役割、これまでとは異なる対応について幾つかポイント([図表5]中の番号と対応)を示した。

①新たなリソースの生産性の把握・分析

機械や代替的労働力の生産性を把握し、可視化することで、従来人が担っていた状態からどのような改善がなされているかを分析すること。生産性とは、「処理作業数 or アウトプット数 ÷ 投資・委託コスト」である。通常機械や代替的労働力への投資・委託は人事というより各事業部やIT部門の判断で行われることから、これら部門との連携が必要となる。

②代替され解放された人材への役割の提供

定型/限定的作業から解放された人材に対する役割の与え方を検討すること。一般的に、これまで定型/限定的作業を行っていた人材にいきなり複雑性の高い業務を与えることは難しい。まずは現在、複雑性の高い業務を担う人材から、それほど高スキルが要求されない仕事をはがして集約し、これを解放された人材に与えることが現実的であろう。

③自社におけるハイブリッドジョブ・スーパージョブの特定と必要なケイパビリティ(組織的な能力)の定義

前述したように、もはやデジタルなくして生産性向上や新しい仕事の創出を成し遂げることは難しい。自社の仕事においてデジタル技術がどのように組み込まれるかを再度検討し、これに必要なケイパビリティを定義することが肝要だ。これがなければ、人事のミッションである「人材育成」を果たすことができない。

④定義したケイパビリティを身に付けられる外部企業・職務機会の探索

定義した新たなケイパビリティは、当然ながらこれまで自社にはなかった業務での経験を通じて身に付くものも多いだろう。ゆえにオープンタレントマネジメントの考え方が重要である。そういった機会を外部に求めるに当たり、自社だけで探索することは難しい。前述したような、オープンタレントマネジメントに関するプログラムを提供する企業を活用することも一法である。

テクノロジーの進化によって、個人の価値観もビジネスの在り方も大きく変化し、従来の人事の在り方ではもはや対応できなくなりつつある。ここまでに示した考え方を取り入れ、デジタル時代に適応した人事のNext Normalを実現していくことが望まれる。

執筆者

デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー 小出 翔

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。
※本コラムは、労務行政研究所の許諾を得て、労政時報 jin-jour(ジンジュール)の記事(2020年8月14日掲載)を転載したものです。

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