中小M&Aガイドラインの改訂 ブックマークが追加されました
ナレッジ
中小M&Aガイドラインの改訂
M&A仲介ではない、FAを活用したM&A取引の有効性について
2023年9月22日に経済産業省 中小企業庁財務課より公表された「中小M&Aガイドライン(第二版)」の改訂のポイントを解説する。
中小M&Aガイドラインについて
2023年9月22日に経済産業省 中小企業庁財務課より「中小M&Aガイドライン(第二版)」が公表された。中小M&Aガイドラインとは後継者不在の中小企業を対象とする中小M&Aの当事者となる中小企業や、中小M&Aをサポートする各種支援機関の手引き・行動指針を示すことを目的として、2020年3月に中小企業庁が策定したガイドラインであるが、当ガイドラインが公表されてから3年が経過し、その間にも中小M&Aの市場は飛躍的に拡大し、事業承継の解決策としてのM&Aは我が国において大きく浸透したといえるだろう。
その一方、急速に拡大した中小M&A市場において成長痛とも呼べる課題も認識されるようになってきた。特に、似て非なる存在であるM&A仲介業者とFA(ファイナンシャルアドバイザー)の違いや、各担当者による支援の質のばらつき、手数料体系のわかりにくさ等、特に支援を受ける側である後継者不在の中小企業が十分にその支援内容を理解できないままにM&Aが進行し、予期せぬ事態に遭遇することが散見されるようになった。
これらの課題に対応するため、当該ガイドラインの改訂に当たっては、後継者不在の中小企業向けにはM&A仲介業者とFAの業務・契約内容違いやセカンドオピニオンの活用、手数料に関する整理等が拡充され、また、特にM&A仲介業者やFA等の支援機関向けの基本事項においては、支援対象者に対する重要事項の説明等が盛り込まれている。(図1参照)
主要な改訂点について
筆者の視点から、特に興味深いと捉えた改訂箇所について抜粋して解説する。
1) 仲介業務・FA業務の特徴等の見直し
改訂前では明確ではない記述であったM&A仲介業務とFA業務の違いについて、より明瞭な記載となっている。具体的には後継者不在の中小企業、すなわち売り手の利益最大化には、両者から報酬と受領する仲介業者よりも売り手を専属で支援するFAがより適していることが明記された。
また従前は、FAは規模の大きい案件に適しているとの記載がなされていたが、中小M&Aの市場の実態に即して、当該記載は削除されており、規模によってFAを起用する場面が限定されないことが示された。
2) 書面に記載して説明すべき重要事項の項目の見直し
おそらく本改訂における目玉のひとつであると考えられるのが、重要事項の説明項目の見直しであろう。仲介・FAの違いとそれぞれの特徴をはじめ、後述する直接交渉の制限に関する事項など、重要度が高いと考えられつつもこれまで、特に売り手の十分な理解が得られていなかったと考えられる項目が補強されている。
3) 直接交渉の制限に関する条項の留意点
M&Aの交渉窓口をM&A専門業者に一本化することで交渉が円滑化し得る等の観点から、依頼者がM&Aの相手方となる候補先と、M&A専門業者を介さずに直接、交渉または接触することを禁じる旨(直接交渉制限)の条項が設定され、さらにこれらの対象となる候補先は当該M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先以外にも適用されるケースも散見されていた。
これらの直接交渉制限は売り手企業の適切な事業活動の妨げになるのみならず、ともすれば売り手企業の適切な承継先候補探索の機会を奪うことになりかねないため、これらの制限を受ける候補先は当該M&A専門業者が紹介した先に限定し、かつ、依頼者と候補先のM&Aに関する目的で行われる協議に限定すべきであることが明記された。さらに、これらの直接制限の期間はM&A仲介契約やFA契約が終了した以降も数年に渡って効力が残るケースが多かった。これらはM&Aの依頼者の自由な経営判断を損なうおそれがあること等を踏まえ、当該仲介契約・FA契約が終了するまでに限定すべきであるとの内容が明記された。
終わりに
今後も中小M&Aの取引拡大が継続すると見込まれており、本改訂においては、M&A仲介とFAが混在する中小M&Aの実務、および後継者不在企業をはじめとしたM&A当事者の理解を整理し、我が国における事業承継問題の解消を加速するために行われたものであると捉えられる。本改訂の趣旨が適切に理解されたうえで、当該ガイドラインが浸透し、事業承継が円滑に進み日本の経済社会の発展に寄与することを祈念して本稿のむすびとする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートファイナンシャルアドバイザリー
パートナー 熊谷 元裕
マネージングディレクター 阿部 浩二
(2023.10.2)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
その他の記事
コーポレート ファイナンシャルアドバイザリー
~M&A関連業務、非公開化、グループ再編、資金調達等に対し総合アドバイスを提供~