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ABL(アセットベースドレンディング)

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「ABL(Asset Based Lending)」について概説します。

1-1. ABLの概要

ABL(Asset Based Lending)とは、企業が保有する在庫や売掛債権等の事業収益資産を担保として、資金調達する手法である。この資金調達額は在庫や売掛債権等の担保評価額に連動して決まる。また貸し手である金融機関は、事業収益資産である担保資産の価値が事業収益の水準に影響を受けるため借り手企業の事業の業績について継続的にモニタリングを行う(図表1参照)。このようにABLは、事業活動においてキャッシュ・フローを創出する在庫や売掛債権等を担保資産としており、事業の業績が担保評価額に大きく影響するため、借り手の業績と関係なく売却処分価値を担保評価額と考える不動産担保と大きく異なるものである。
 

図表1:ABLスキーム概観

1-2. ABLの必要性の高まり

従来から直接金融市場からの資金調達が困難な中堅・中小企業にとって借入は資金調達手段として大きな役割を担っており、その担保としては主に土地(不動産)・経営者の個人保証が利用されてきた。

しかし、昨今のようにマクロ的に高度成長が期待できない時代においては、不動産需要が低迷し、担保不動産価値の上昇が期待できないため、それが企業の資金調達力を制約していた。また、個人保証は経営者の事業経営に対する取り組み姿勢を試す側面がありながらも、実質的には多額の保全力は望められず、不動産担保等を有さない中小企業等ではその担保不足が資金調達上のネックになっている面が従来より指摘されていた。こうした従来型の保有不動産を背景とした担保融資の限界が認識されると同時に、相対的に資金化される時期が短期であり、これまでその担保余力を積極的に見出されて来なかった事業性資産である在庫や売掛債権を活用したABLの必要性が高まっている。

こうしたABLの必要性の高まりについて政策的な動きが見られる。具体的には金融庁が「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム」を05年3月に策定し、そこにおいて従来の不動産担保等に過度に依存しない手法としてABLを位置づけたことや、経済産業省が中心となりABL研究会が開催され、06年に報告書が公表されたことが上げられる。また経済産業省においては「ABLの普及・インフラ構築に関する調査研究」や「ABLガイドライン」等を公表し、さらなるABLの普及活動が活発に行われている。

さらに、「平成21年度の法人企業統計」によれば、日本企業の保有する資産に占める売掛債権・棚卸資産の割合は土地のそれを上回っていることから、これらの資産を担保として活用するABLの拡大が望まれる(図表2参照)。
 

図表2:企業の保有資産の状況(平成21年度)

1-3.ABLの手続きの流れ

なお、米国においてABLは一般的な融資形態となっており全企業融資残高の約2割程度を占めているのに対し、日本では融資全体占めるに割合が0.1%程度にとどまっており今後の利用促進が重要な課題となっている。

なお、融資実行後に、貸し手である金融機関は定期的に借り手企業の事業の状況・業績等に関するモニタリングを行い、担保の再評価・貸付額の変更を行う。
 

図表3:ABLの手続きの流れ

2. 貸出基準額の算定プロセス

売掛債権及び在庫等の担保資産についてまず、これらから担保として適切ではないもの(Ex.支払遅延している売掛債権、不良品在庫等)を控除し、控除後の売掛債権・在庫等の担保価値を算出する。この担保価値算定において、主に在庫や機械設備等については外部の専門業者を用いる場合がある。その場合、在庫等については実査作業に2日~1週間程度、評価書作成作業に3~4週間程度を要する。個別動産(機械等)の場合は、新品であれば1週間前後、中古の場合実査を含め2~3週間程度で全作業が完了する。この担保価値に一定の掛け目を乗じて貸付金の基準額が決まる。なお、掛け目は実際に換価する際に発生する予想できない事象や評価時点と仮に換価が必要になった時点の時間差を考慮した安全弁であり、ABLの活用が進んでいる米国では、売掛金は通常、上限が85%程度とされており、一般的には70~80%の範囲で設定されることが多く、在庫は通常25%~60%、機械設備については上限が50%程度である。

なお、極度取引の場合、こうして算出した貸出基準額を基に担保資産の変動を考慮した極度額(クレジット・ライン)の設定が行われる。

 

3. ABL導入の影響

ABLによる融資は、マクロ環境により変動する不動産担保と異なり、貸出先企業の事業収益に大きく影響される。従って融資を行う金融機関は、貸出先企業の事業プロセスを深く理解し、事業収益資産の継続的なモニタリングを行うことが必要となる。経済産業省から委託を受けて野村総合研究所が行った「ABLの普及・活用に関する調査研究」において、ABLを導入することにより、貸し手が借り手の事業実態を深く理解することができたことや、貸し手・借り手のリレーションが深化するという効果が実例として挙げられている。

このようにABLは貸し手・借り手のコミュニケーションを促進する機能があり、その結果、貸し手は借り手の業績をより把握することができるため貸倒リスクを下げることが可能となる一方、今まで不動産担保を有していなかったために借入が行えなかった新興企業にとって資金調達を行いえる可能性が広がるという効果が考えられるため、日本においてより一層、ABLが理解され、活用されることが望まれる。

参考文献
動産・債権等の活用による資金調達手段~ABL(Asset Based Lending)~ テキスト 一般編
動産・債権担保融資(ABL)の普及・インフラ構築に関する調査研究  報告書 テキスト編
法人企業統計

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