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秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)
ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー
ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)」について概説します。
M&A取引におけるNDAの概要
NDAは、売り手・買い手との間で本格的に取引の検討が開始される際に締結する契約書である。
M&Aの検討を開始する際に、売り手は対象会社の情報を買い手候補に開示し、買い手候補は売り手から対象会社の情報を入手することになるが、開示される情報には売り手及び対象会社における秘密情報が含まれているため、情報の開示・入手に先立って売り手・買い手間において秘密保持契約を締結する必要がある。英語表記にてNon-Disclosure Agreement(略称NDA)とする場合もあれば、Confidentiality Agreement(略称CA)とする場合もある。
NDAの意義
NDAはM&Aの検討開始前又はデューデリジェンスの開始前に締結されることが多く、これは国内案件及びクロスボーダー案件とも同様である(欧米においても、交渉の初期段階に締結されることが通常である)。NDAの締結により、例えばBid(入札)が行われる案件においては、売り手は買い手候補に対してInformation Memorandum(対象会社に関する詳細な情報を記載した書類)やプロセスレター(Bidプロセスの進め方やスケジュール等を記載した説明書)が配布される。
秘密保持契約書の締結前に秘密情報を開示すると、その情報は秘密情報として保護されないことがある点に留意を要する。
NDAの一般的な記載事項
■「秘密情報」の定義
■ 秘密情報の使用及び開示に関する当事者の義務(秘密保持義務)
■ 秘密保持義務を負う当事者及び関係者の範囲
■ 案件に関する交渉の存在及び経緯に関する秘密保持義務
■法令により秘密情報の開示が義務付けられる場合の措置
■ 一定の場合の秘密情報の返還及び破棄に関する当事者の義務
■ 個人情報保護関連法令によって保護される情報その他プライバシーに関する情報の扱い
■ 開示当事者の連絡担当者(情報伝達の経路を限定するため)
■ 従業員や顧客等に対する勧誘禁止条項
■ 最終契約に関する交渉・締結義務の不存在
■ 開示情報に関する表明保証の不存在
■ 秘密保持義務違反に対する法的救済措置
■ 秘密保持義務の有効期間
■ 準拠法・裁判管轄または仲裁条項
NDAにおける主要な条項の解説-その1
以下、NDAにおける一般的な条項に関して、クロスボーダーM&A取引において留意すべきポイントを中心に説明を行う。
■ 秘密情報の使用及び開示に関する当事者の義務(秘密保持義務)
通常、開示される情報量は買い手よりも売り手から開示される方が多いため、秘密保持契約のドラフトは売り主側から提示され、売り手は開示情報の全てを秘密保持の対象とするよう秘密情報の範囲を極めて広く定義する。一方、買い手は秘密保持契約に基づく義務の対象を明確にするために秘密保持の範囲を極めて限定的にしたいと考える。これらの考え方は国内案件及びクロスボーダー案件とも同様である。
買い手としては、秘密保持契約に基づく義務の対象を明確にするために、秘密保持契約のドラフトにおいて以下について明確にすることが肝要である。
(1) 情報の範囲
(2) 情報の伝達方法(口頭により伝達された情報を含むか、等)
(3) 情報の管理方法
売り手等の事業に係る情報とは別に、M&A交渉を行っている事実に関する事項も秘密情報として漏れなく契約に織り込むことが重要である。
■秘密保持義務を負う当事者及び関係者の範囲
秘密保持契約の当事者は誰にすべきなのか、案件毎に考える必要がある。
特にクロスボーダーM&Aやファイナンスを伴う案件の場合には関連当事者が広範になるため、秘密保持義務を負う当事者の範囲を明確に定め、必要な当事者に対して秘密情報を開示出来るよう秘密保持契約に定める必要がある。
■一定の場合の秘密情報の返還及び破棄に関する当事者の義務
世間一般的にはM&A案件の多くは成就しないことが多いため、当該条項の運用が重要となる。売り手及び買い手における留意点は以下の通りである。 ◦売り手は、秘密情報の破棄・返還方法が、実効性があり、かつ、現実的な手続きとする(e.g. 紙媒体の資の他に電子データを開示する場合、全てのデータの返還を求めることは現実的でないため、買い手に対して秘密情報を全て破棄したことを宣誓させる)
・買い手は、秘密情報の破棄・返還方法が、不必要に煩雑にならないようにする。
■秘密保持義務違反に対する法的救済措置
秘密保持違反が行われた場合の法的救済措置は、以下の二つの方法が考えられる。
・義務違反につき生じた損害についての賠償請求
・義務違反の秘密情報の開示を阻止するための差止請求
売り手にとって、法的救済措置として効果的なのは差止命令であるが、多くの国において差止命令を出すか否かは裁判所の裁量であり時間が掛かることがある。また、差止命令は秘密情報が漏れる前に実行されるべきであり、情報漏洩後では意味が無くなる。 更に、秘密情報が漏洩した場合に回復不能な損害が生じる可能性があり、事後的な損害賠償では適切な救済措置にならない場合、その旨を条項に入れる必要がある。 これらの法的救済措置に関して、現地の法律を熟知した弁護士へ確認を行うことが肝要である。
NDAにおける主要な条項の解説-その2
■秘密保持義務の有効期間
各国において特段の差異は無く、当事者間の力関係によって1年~5年程度に収まることが多い。
売り手としては秘密保持契約の終了後も秘密保持義務が継続するようにし、買い手としては秘密保持義務の期間を制限するインセンティブがある。
有効期間を最終契約書が締結された時点までと定めることが見受けられるが、その趣旨は、最終契約書において、最終契約書締結後及びクロージング後の当事者の秘密保持義務を改めて定めることが一般的であるためである。
■準拠法・裁判管轄または仲裁条項
クロスボーダー案件で問題になるのは、裁判地または仲裁地を具体的に何処に設定するかという問題である。新興国の準拠法に依る場合、M&A判例の積み上げが少なく裁判の結果が全く予測出来ない事態も生じ得るため、第三国の仲裁地を選定する等の留意が必要である。
紛争解決手段として仲裁を選択するメリットとしては、非公開で行われるため同業他社への情報漏洩を防ぐことが可能となる。デメリットとしては、仲裁では有効な差止が困難であることがあるなど、原告側になる可能性が高い売り手にとって救済手段としての使い勝手が悪い面がある。
最後に、秘密保持契約書の締結に際しては、必要に応じて弁護士と協議することが肝要である。