ナレッジ

私募REIT

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「私募REIT」について概説します。

私募REITの概要

私募REITは、非上場のオープンエンド型不動産投資信託であり、日本においては2010年以降に有力デベロッパーにより組成が開始された金融商品である。(表1参照)

不動産運用商品は、一般的に株式や債券等の伝統的な運用資産との相関性の低さ、賃料による安定的なインカム収益等に着目したオルタナティブ(代替)投資として機関投資家や年金基金に採用されている。日本において上場REITの運用が開始されて10年以上を経過し、機関投資家による上場REITや不動産私募ファンドへの投資も一般的になったといえるが、2007年のサブプライムショック、2008年のリーマンショックによる金融収縮局面において、上場REITや不動産私募ファンドのパフォーマンスは必ずしもオルタナティブ投資として機関投資家等の期待に応えられるものではなかったこともあり、後述する現在の不動産投資マーケットの状況や機関投資家等のニーズを踏まえ、私募REITの組成が相次いでいるものと考えられる。

なお、本文中の見解にかかわる部分は、いずれも筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。 

図表1:投資法人登録一覧(私募REIT)

私募REITが注目される背景

私募REITへの投資が想定される投資家は、地方銀行、生命保険会社等の所謂機関投資家及び年金基金であるが、これらの投資家が不動産を含むオルタナティブ投資を行う際には、以下の要件を求めることが多い。
1.絶対的な利回りの確保(債券を超える利回り)
2.伝統資産との相関係数の低さ(投資リスクの分散)
3.投資に対する資金流動性の確保

これに対し、一般的に上場REITや私募ファンドは、商品特性上これらの要件の一部を満たさない点があり、運用成績が悪化したリーマンショック後において、特に上記の要件を重視する年金基金からの不動産投資残高は順調に推移していたとはいえないものと考えられる。

私募REITにおいても、各要件を全て満たすことは現実的とはいえないが、鑑定評価ベースの基準価格設定により株式マーケットの影響を受けず、一定の条件は付されるがスポンサー(投資法人)による払戻しを前提とした商品設計により流動性を一定程度確保していることを踏まえ、長期的な不動産投資の商品として私募REITを採用する機関投資家、年金基金が増加しているようである。1

1 大和総研「金融法人及び年金基金におけるオルタナティブ投資・バーゼルⅢ実態調査」(2011年11月24日)によると、国内不動産私募ファンドへの投資は、アンケート回答のあった金融法人において前年比▲15.2%、年金基金において▲20.3%であったのに対し、2011年より回答の選択肢となった国内私募REITへの投資は、金融法人の12.5%、年金基金の3.6%に採用されているとの回答があった。
また、ARESの実施した第12回「機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査」においても、実物不動産・不動産証券化商品投資を行っている投資家のうち「私募リート」投資を行っている投資家の割合は一般機関投資家で17.8%、年金基金で17.9%との回答があったとのことである。 

図表2:上場REIT・私募REIT・私募ファンドの特徴

将来への期待

私募REITは、投資法人に運用期間の定めがないこと、長期安定収益を好む機関投資家や年金基金による投資が中心となることから、「コア型」といわれるインカムゲイン中心の不動産投資において今後の中心になりうるスキームと考えられる。現在組成されている私募REITのトラックレコードができることにより、投資家からの認知度も高まり、今後においても成長するポテンシャルがあるものと考えられる。現在はオフィスビル、レジデンシャル等の上場REITでも運用されている資産タイプが中心で、投資家のニーズもこれらの資産タイプに集中している感があるが、将来的には必ずしもメジャーとはいえないインダストリアル不動産、ヘルスケア不動産等の多様な資産タイプの私募REITへの組み入れを含め、私募REITの拡大を起爆剤として、不動産投資マーケットに「深み」が出ることを期待したい。

参考文献
大和総研(2011/11)「金融法人及び年金基金におけるオルタナティブ投資・バーゼルⅢ実態調査」
一般社団法人不動産証券化協会(2012/9) 第12回「機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査」
日経不動産マーケット情報Webサイト 

不動産業界に関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

不動産:トップページ

お役に立ちましたか?