ターゲット・スクリーニング ブックマークが追加されました
ナレッジ
ターゲット・スクリーニング
ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー
ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「ターゲット・スクリーニング)」について概説します。
ターゲット・スクリーニングの定義/意義
スクリーニングとは「ふるいにかける」「条件に合うものを選別する」という意味である。M&Aでは、実際に買収(売却時は買い手)候補先として相応しいターゲット(企業または事業)はどこか、ということを検討・明確化するプロセスを指す。
M&A戦略においては、どのような領域において、どのような企業(事業)を、何のために買収(売却)するのかを明確化しておく必要がある。このとき、M&A戦略の成功確率を上げるためには、ターゲットとしていかに相応しい企業を選定することが重要であり、そのためには、精緻なスクリーニングを実施することが有効である。
また、ターゲット・スクリーニングを実施しておくことで、金融機関等を通じて案件を紹介された場合や、再生案件などにおける公開入札案件が生じた際に、対象となる業界におけるプレーヤーの状況や概要を事前に把握しておくことで素早く意思決定するための材料となる。
ターゲット・スクリーニングのプロセス
(1) スクリーニング基準の策定
買収したい事業領域だけではなく、例えば、特定の製品ポートフォリオを充足したい場合は当該製品を有すること、特定の地域で販売力を強化したい場合は当該地域で営業ネットワークを有することが選定の基準となる。
また、想定買収(売却)価格という意味でのターゲットの規模や、財務指標における収益状況や成長性に関するハードルレートを設定する。
(2) ロングリストの作成
ロングリストとは、M&Aの目的に合致している企業を緩やかなスクリーニング基準に基づき幅広めにリストアップしたものを指す。買収目的の検討であれば、獲得したい経営資源を有している企業はどこかという観点で、売却目的の検討であれば、売却対象への買収意欲があり十分な資金力を持つ企業はどこかという観点でリストアップを行う。一般的には企業情報データベースを用いて、選定基準に従い、産業分類(SIC Code: Standard Industrial Classification Code等)や財務指標からの選定を行う。
このとき抽出された企業について、選定基準における指標に加えて、主に公表されている情報を情報源として、それ以外に必要な経営指標データを入手し、簡易なカンパニープロファイルを作成する。
(3) ショートリストの作成
ショートリストとは、簡易なカンパニープロファイルを基に、実際のターゲットとして優先度の高い企業を数社から10社程度に絞り込んだリストを指す。
このとき、抽出された企業について、業界や専門家からの内部情報を取得したり、より詳細な分析を行い、詳細なカンパニープロファイルを作成する。
(4) ターゲットの優先順位付け
詳細なカンパニープロファイルを基に、自社との戦略適合性やシナジー、株主構成を勘案した買収(売却)可能性等を検討し、どの企業からアプローチをしていくかの優先順位付けを実施する。
図表1:ターゲット・スクリーニングのプロセス
ターゲット・スクリーニングにおける留意事項
企業情報データベースを用いた一般的なスクリーニングを実施する場合、大企業において子会社・一事業部・一部門等の単位で実施されているノンコア事業や、ベンチャー企業等の新興企業や未上場の中小企業等そもそもデータベースに情報が掲載されていない企業については、網羅性は担保できず、抜け漏れが生じることになる。また、産業分類や事業概要、財務指標による選定基準も、データベースによる情報や記載方法での違いによりバイアスがかかることに留意する必要がある。
また、製造業等において技術獲得を目的としたM&Aを検討する場合、特許データベースを用いたスクリーニングを行うことも有効である。一般的にどのような企業においても研究開発の成果である新しい技術は特許出願される場合が多く、かつ公開情報となることからグローバルに検索することができるため、上記の網羅性の担保や抜け漏れに対する補完という意味で、スクリーニングの際の情報源として活用することができる。具体的には、特許データベースから目的とする技術領域における特許(以下、特許出願も含む)を抽出し、当該特許の出願人(譲受人)を確認することで、実際に当該領域において研究開発を行っているプレーヤーを抽出することができる。
さらに、特許情報からはスクリーニングの選定基準として、特許登録件数、特許出願推移(頻度)、引用・被引用の分析による特許の強さ(注目度)や応用可能性、共同出願によるアライアンス状況等を用いることもできる。
ただし、どのようなスクリーニング手法を駆使しても、世界中に存在する数多の企業を遍く抽出することは困難であることを理解しておく必要がある。なぜならば、網羅性を追い求めすぎると調査自体が目的化し、M&Aの当初の戦略や目的を見失ってしまう虞があるからである。