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量刑ガイドライン
ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー
ファイナンシャルアドバイザリーに関わる用語を分かり易く解説。本稿では「量刑ガイドライン」について概説します。
1. 量刑ガイドラインとは
米国の連邦量刑ガイドライン(United States Organizational Sentencing Guideline、以下「量刑ガイドライン」)とは、米国において企業犯罪に対して高額の制裁金を課す一方で、裁判所が量刑を判断するにあたり、一定のコンプライアンスプログラムを備えていた企業には、量刑上の軽減を認める指針を示したものである。つまり、企業のコンプライアンス体制の存否を制裁金額の決定の考慮要因としている。量刑ガイドラインでは、コンプライアンス体制を、「法律違反を予防し発見する効果的プログラム」と表現している。
2. コンプライアンスプログラムとは-その1
量刑ガイドラインは、1991年に制定後2004年に詳細に改正がなされたが、さらに実効性を高めるための改正が今回の改正である(2010年4月7日に量刑ガイドライン委員会により採択、2010年11月1日に施行)。
「法律違反を予防し発見する効果的プログラム」とは、一般的に違法行為の予防及び発見に効果的なものとして、合理的に設計、実施されているプログラムを意味し、合理的というために、企業に7原則を規定している。
(1) コンプライアンス規準及び手続の作成
企業は、違法行為の可能性を合理的に減少するような、従業員その他の代理人が従うべきコンプライアンスの規準及び手続を作成しなければならない。
(2) 遵守状況の監視責任者の任命
企業内の高い地位にある特定の個人(1名ないし複数)が、かかる規準及び手続の遵守状況を監視する責任を有しなければならない。
(3) 裁量権の制限
企業は、違法行為に関与する可能性があると知り、もしくは、合理的な努力の結果、知りうべきであった者に対して裁量権を与えないような注意を取らなければならない。
(4) コンプライアンス規準の従業員への周知
企業は、かかる規準及び手続について全従業員その他の代理人に対して効果的に周知する手段、例えば、教育プログラムへの参加、実際的な方法で説明する出版物の配布等の措置を講じなければならない。
2. コンプライアンスプログラムとは-その2
(5) コンプライアンス違反行為の報告システム
企業は、当該規準の遵守を達成するため、合理的な手段を講じなければならない。例えば、従業員その他の代理人の違法行為を合理的に発見する監視及び監査システムの利用、従業員その他の代理人が企業内の他の者の違法行為を報復の恐れなく報告できる通報システムの実施及び周知等の措置を講じなければならない。
(6) コンプライアンス違反者等に関する適切な懲戒
規準は、適切な懲戒手続によって常に施行されなければならない。適当な場合には、違法行為を発見できなかったことに責任ある者の懲戒を含めるべきである。
(7) コンプライアンス違反行為に対する適切な対処
違法行為が発覚した場合には、企業は、それらに対して全ての合理的な処置を講じて適切に調査し、また、将来の同様の違法行為を予防しなければならない。これには、コンプライアンス違反の予防及び発見のために必要なプログラムの変更を含めるべきである。
3. 今回の改正点
今回の改正趣旨は、上記の「 (7) コンプライアンス違反行為に対する適切な対処」の強化によって量刑ガイドラインの更なる実効性を担保にすることにあると考えられる。改正前においては、上級役員が違法行為に関与していた場合には、いかに有効なコンプライアンスプログラムを備えていても量刑上の軽減を受けることはなかった。しかし今回の改正においては、以下の条件を満たすコンプライアンスプログラムを備えていれば、上級役員が違法行為に関与していた場合であっても軽減が認められることとなっている。
■コンプライアンスプログラムの責任者は、企業の取締役会または適切な下位組織に対する直接の報告義務がある
■コンプライアンスプログラムにより違法行為を社外の者よりも前に合理的に発見できる
■企業は、取締役会または適切な下位組織に対して適時に違法行為を報告している
■コンプライアンスプログラムの責任者は、違法行為への関与、黙認、意図的な無視がない