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タッピング(Tapping)
ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー
ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「タッピング(Tapping)」について概説します。
概要と目的
タッピング(Tapping)とは、M&A等の検討段階において、買収検討(または、売却検討)している企業側が、買収対象(または、売却先)の候補企業側に対しその興味度合いを量るために能動的に行う、初期的なアプローチ行為を指す。タッピングされる企業側にとっても、タッピングする企業の買収または売却の意思を初めて知るタイミングであるため、その後の交渉の継続可否に影響を与える重要な事項である。なお、タッピングする企業とされる企業は既存のビジネスリレーションを保持しているケースが多いため、M&A等の意思開示により既存ビジネスに影響を与えないよう、タッピングする企業は外部のM&Aアドバイザー等を用いてノンネーム(社名を開示しない)でアプローチすることも多い。
タッピングの目的は、検討しているM&A等の方向性や、タッピングされる企業側の株主や事業・財務状況等の個別事情により多少の相違があるため、本稿では、一般的な企業買収の場合について言及したい。
目的意識
買収を想定したM&A戦略を策定している企業(以下、買収企業)が、複数の買収対象の候補企業(以下、候補企業)に対しタッピングを行う際、主に以下の目的を意識する必要がある。
目的(1) 買収提案への興味度合いの把握
一般的に、買収の成立可能性は高くなく、買収を想定した成長戦略を実現するためには、複数の候補企業を想定した上で、優先順位をつけて買収交渉等を同時並行的に検討・実施していくことが多い。各候補企業側の買収提案への興味度合いを把握しておくことは、優先順位付けにおける重要なインプットであり、これを把握することがタッピングの一義的な目的となる。
目的(2) 候補企業との継続した提案機会の確保
一回の買収提案の提案機会のみで候補企業側が興味を示すケースは少なく、複数回の提案機会を経ることが多い。ただし、候補企業は一般的に競争力のある製品・サービス等を保有している企業であり、買収企業の競合他社からも同様(または、業務提携 等)の提案をうけている場合も少なくない。タッピングは、買収提案を伝える最初の機会であり、想定される競合他社よりも魅力的な買収提案を提示することにより、候補企業側からも魅力的な会話先として意識され、継続した提案機会を設けてもらえるような関係性を築くことが、その後のプロセスを進めていく上でも必要になってくる。
目的(3) M&A戦略の調整
買収企業側がM&A戦略を策定する過程において、候補企業を絞り込む際に行う企業調査は、一般的に外部情報(候補企業の外部公表資料、調査会社の市場レポート 等)に依拠するところが多い。しかし、市場・事業環境は常に変化をしており、それに伴い候補企業の戦略・課題が変わっているケースも少なくないため、継続的な会話を通して、直接的かつリアルタイムの情報収集を行い、M&A戦略の調整を絶えず行う必要がある。
実行段階における留意点
タッピングの実行段階においては、適切なタッピング先に適切な提案を提示することが肝要である。意思決定に関与するステークホルダー(株主、候補企業のマネジメント、金融機関 等)を特定し、各者に対して提案のメリットを説明できなければ、正確な興味度合いの把握や継続した提案機会の確保が困難だからである。また、継続した機会が得られないがために候補企業の戦略・課題等が確認できず、買収企業側においても、当該候補企業の買収要否や可否が判断できず、結果、M&A戦略全体が硬直化する事態を招くケースも少なくない。
タッピングは、それまで策定してきたM&A戦略の実効性を検証するうえでも非常に重要であり、買収という文脈で候補企業にアプローチをかける最初のアクションでもある。したがって企業調査や提案内容の作り込み等、相応の事前準備も要するため、必要に応じて、外部のM&Aアドバイザー等も活用しながら効果的に進めていくことを推奨したい。