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世界のM&A事情 ~インドネシア~

移り行くインドネシア

新政権の舵取りによりインドネシア政府がこれまでに掲げている2045年までの先進国入りに向かうのか、あるいは「中所得国の罠」にはまるのかが注目されます。本稿では、これまでのインドネシアの経済成長の歩みを振り返るとともに、今後のインドネシアで重要となる年や数字と共に注目されるセクターについて解説します。

本稿が公開される3日後の2024年10月20日には、Pranowo新政権が発足し、インドネシアは新たな門出を迎えることとなります。これまでの報道によると、新政権はJokowi政権の政策を概ね引き継ぐとされていますが、新政権の舵取りによりインドネシア政府がこれまでに掲げている2045年までの先進国入りに向かうのか、あるいは「中所得国の罠」にはまるのかが注目されます。本稿では、これまでのインドネシアの経済成長の歩みを振り返るとともに、今後のインドネシアで重要となる年から注目セクターについて解説します。

I. インドネシアのマクロ経済環境

インドネシア経済は、1998年のアジア通貨危機以降、2020年のコロナ期を除いて、継続的に5%程度の成長率で右肩上がりに成長を続けていますが、インドネシア政府が目標として掲げる2045年までの先進国入りを達成するためには、一層の経済成長率が必要になります。今後、一定規模にまで経済発展した後に成長が鈍化し、高所得国と呼ばれる水準に届かくなる現象である、いわゆる「中所得国の罠」を回避できるかに注目が集まります。

この鍵を握るのは、インドネシアの産業構造です。2023年度の産業別GDPは、一次産業が約23%、二次産業が約19%、三次産業が約52%を占めています。とりわけ、石炭を含めた鉱業、プランテーションおよびパーム油といった一次産業が比較的大きな割合を占めている一方で、製造業やサービス業が占める割合は、先進国や近隣諸国と比べて比較的小規模な割合となっているように、インドネシアの産業構造は、資源の産出や輸出に多くを頼っています。海外からの投資は近年不動産や情報・通信、あるいは食品加工や化学・医薬品の製造に増加傾向であり、これらの二次産業・三次産業をいかにして伸ばしていくかが重要な課題となります。

データソース: World Bank Groupウェブサイト(GDP (current US$) - Indonesia | Data (worldbank.org)
 

 

データソース: Kementerian Investasi/BKPM (Badan Koordinasi Penanaman Modal)ウェブサイト Ministry of Investment/BKPM - Investment Realization Report Page of the Ministry of Investment/BKPM
 

キーとなる数字と投資動向の予測

ここでは、今後のインドネシアの投資を考える上で重要となる3つの数字を挙げます。 

一つ目は、「3億人」です。インドネシアの現在の総人口は約2億8,800万人ですが、2030年代前半には総人口が3億人に達するとされています。また、労働力増加率が人口増加率よりも高くなり、人口に対する労働力が豊富な状態となる人口ボーナスも2040年頃まで続くとされています。市場としてのインドネシアの一番の魅力は、この豊富な労働力と経済成長に伴う中間層を含めた購買層の拡大にあるとされています。

次にあげる数字は、「2045年」です。2045年はインドネシア政府が先進国入りの目標として定めている年であると同時に、新首都がフルスケールで供用開始とされている年となります。新首都建設の総額は約330億ドルともされており、そのうちの8割を民間の直接投資や官民連携(PPP)事業により充当する計画とされています。新首都建設は2022年から着工し、2024年までは、大統領宮殿や公務員等の宿舎、VIP空港、道路建設等が直轄事業として行われています。今後これらの基礎インフラが整備された後、新首都が行政施設としてのみの機能となるか、または住民が根付く街として機能していくかに注目されます。また、2045年は2025年から始まる次期中期開発計画(2025-2045)の最終年となります。現行の中期開発計画においても、例えば有料道路整備の目標を達成すべく、ここ数年道路整備が盛んに促進されているように、次期中期開発計画において示されるインフラ事業等は、他に優先して促進されると考えられます。したがって、特にインフラ事業を展開する企業は、次期の中期開発計画における重点施策に着目して、事業拡大方針を検討することが重要となります。

最後に挙げる数字は、「2060年」です。インドネシア政府は2060年までにネットゼロエミッションを達成させるとした公約を掲げています。現状、インドネシアは自国で産出される安価な石炭を背景として、石炭火力発電に大きく依存したエネルギー構造が特徴となっています。近年では、例えばガス火力等の導入が進みつつあり、再生可能エネルギーについては、地熱発電や水力発電、また近年は太陽光発電等を推し進める政策が取られていますが、依然として石炭火力が占める割合は大きく、脱炭素を図る上でもエネルギー構造をどのように変遷させていくのかに注目されます。この上でも、AZEC(Asia Zero Emission Community: アジアゼロエミッション構想)は強力なドライブフォースになるものと考えられ、ここで合意されるイニシアティブや覚書(MOU)等は、脱炭素に関連するビジネスを考えるうえで、非常に重要なものとなります。

データソース:Ministry of Energy and Mineral resources, Republic of Indonesia, Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia, 2023

II. 最後に

本項では、インドネシアの過去の経済成長を振り返るとともに、新政権や今後の節目となる年および国際動向に着目して解説しました。

インドネシアはこれまでに行われているJETRO等のアンケート調査においても、常に投資候補先の上位にランクインしており、マーケットのポテンシャルや魅力は高く評価されています。一方で、インドネシアの市場ポテンシャルについて語られることは多いものの、実際の進出や事業拡大に結び付いていないといった声もよく聞かれます。投資を判断するにあたっては、インドネシアの将来の方向性を見定めることが重要です。2030年代前半に3億人に達する市場規模、2045年を目標とした新首都建設や次期インフラ計画、2060年にネットゼロエミッションを達成するための脱炭素が、現在見えている大きなトレンドとなります。世界銀行グループの所得水準分類で高中所得国に達したインドネシアですが、歳入の不足から、インドネシア政府は国際的な支援も引き続き重要視しています。したがって、投資を検討するにあたっては、インドネシア国内のニーズと共に、国際的な取り組みや枠組みについても併せてみていくことが重要と考えられます。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インドネシア駐在員 原 崇志

(2024.10.17)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

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