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最新動向/市場予測
大学等における産学官連携
大学等における産学官連携の最新動向
社会情勢やCOVID-19による影響もある現状を踏まえつつ、最新の動向や課題、産学官連携に関する政策の方向性について解説します。
執筆者: 公認会計士 吉田 直道
社会情勢やCOVID-19による影響を踏まえた現状
産学官連携施策の経過としては1995年に制定された科学技術基本法をもとに、現在第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021~2025年)に入っています。
その間日本においては、COVID-19により実質GDP成長率はリーマンショックと同程度のマイナス水準となるといった社会環境にあります。リーマンショック時には、日本企業のみが研究開発投資の回復に時間がかかった結果、イノベーション力が相対的に低下したとの指摘もあり、日本は長期間に及ぶと予想されるCOVID-19の影響により先進国に更なる遅れが生じないようにする必要があります。その中において、近年、大学発ベンチャーの数は回復傾向にありましたが、長期に渡る投資の停滞によりベンチャー数が減少するかどうかが将来のベンチャー創出の分かれ目になるような状況にあります。
リーマンショック後に、大学等における企業からの研究資金等の受入額は約700億円の規模にまで回復しましたが、COVID-19の影響による企業からの共同研究費の減少がリーマンショック時と度比率であると仮定しても、今後10年間で少なくとも2,000億円以上の投資縮減が生じる恐れがあると想定されています。
出典:文部科学省 科学技術・学術審議会 産業連携・地域振興部会第1回配布資料2-1「産学官連携の最近の動向について」
産学官連携の現状と課題
日本の大学等における産学官連携活動の規模は、全体として確実に拡大してきていますが、民間資金導入額を比較すると、英国やアジアの理工系大学とは同程度であるものの、米国の大学とは格段の差が出ています。この要因として、日本においては教職員や学生の起業意欲やベンチャーへの関心の低さや薄さが影響しており、大学発ベンチャーとして設立される数はアメリカよりも極端に少なく、民間企業としても投資対象となるベンチャー企業が見当たらないといった状況から、民間企業からの投資額の規模が伸びていかない要因となっています。
出典:文部科学省 科学技術・学術審議会 産業連携・地域振興部会第1回配布資料2-1「産学官連携の最近の動向について」
また、産学官連携における課題も大きな要因となっています。主な要因としては、以下の3つが挙げられます。
①専門人材や、研究者のインセンティブ、研究者の研究時間が不足しているといった人材に関する課題
②大学ミッションとの関係や知財マネジメント・グローバル対応への体制、プロジェクトチームを組成することの困難さといったマネジメントに関する課題
③外部資金の獲得や、共同研究実施のための研究スペース・施設設備の制限、法人全体のルールや組織の規程による制約がかかり、柔軟かつ迅速な対応が出来ないといった資金に関する課題
産学官連携に関する政策の方向性
産学官連携においては従来から進められてきていましたが、これまでは大学の組織としてではなく個人同士での繋がりによる小規模な共同研究であったり、大型の共同研究になるほど費用不足により大学経営に悪影響を及ぼすこと、また知財マネジメントの複雑化・多様化への対応やリスクに対するマネジメントへの欠如、組織の壁を超えた人材の流動化が限定的であるなど課題が多く存在しています。
出典:文部科学省 科学技術・学術審議会 産業連携・地域振興部会第1回配布資料2-1「産学官連携の最近の動向について」
しかし、国内外を問わず技術を広く取り込むことが企業にとってもますます重要となり、オープンイノベーションに対する期待がかつてないほど高まってきており、産学官連携を円滑に推進するため、これまでの課題に対する処方箋や考え方を取りまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を平成28年11月に策定しました。また、更なる取組の加速に向けて大学等が考える産学官連携を進める上での課題への処方箋と、新たに企業に対する意識改革のための処方箋を「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】」として令和2年6月に取りまとめています。
出典:文部科学省 科学技術・学術審議会 産業連携・地域振興部会第1回配布資料2-1「産学官連携の最近の動向について」
【参考】
- 産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン(外部サイト)
- 産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】(外部サイト)
おわりに
産学官連携について、これまでも各事業による取組や制度改正等が行われてきましたが、依然として大学等の現場には様々な課題が存在しています。また社会情勢やCOVID-19といった状況下で不確実な経済環境が続いている中でも、各大学にふさわしいミッションを明確化することで、多様な大学群の形成を目指し、産学官連携を推進していくことが期待されます。
当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。