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自治体主導ゆえの地方創生の限界を超える「産官民連携」のあり方

地方創生の実現に向けた「産官民連携」の必要性とその方向性 第1章

地方創生の現状

元総務相の増田寛也氏が座長を務める民間研究機関「日本創成会議」が2014年5月に公表した試算は、東京圏への人口流出と20~39歳の女性の減少が進めば、2040年には896の市区町村が「消滅可能性都市」になるという極めて衝撃的な内容であった。

この問題提起を受け、2014年の地方創生の大号令のもと、地方創生政策が進められてきた。

個々の自治体の創意工夫により、地域産業の活性化を通じて魅力ある雇用機会を創出し、出生率が相対的に高い地方圏への人の流れを生み出すことで人口減少に歯止めをかけるべく、人口ビジョンと地方版総合戦略の策定・実行がなされてきた。

しかしながら、各地の自治体の数多の政策努力にかかわらず、その達成は「道半ば」にあるのが現実ではなかろうか。

自治体主導ゆえの地方創生の限界

現実的に見られる以下のような事象を踏まえると、個々の自治体がその自治体ならではの特徴や資源を活かし、戦略的意図に基づく創意工夫を通じて独自の魅力を訴求する地方創生本来の取組みは、依然として限定的なものに留まっていると考えざるをえない。

  • 外形的に酷似した抽象度の高い振興・補助メニューの羅列と補助金額の積上げ合戦
  • 上記施策による、「自治体界」を境界にした隣接自治体との定住人口・交流人口の奪い合い

これらの根底にあるのは、「自治体内での機会均等を重視することによる、特定属性や固有名詞に特化した具体的なサービス提供型施策への踏み込みの難しさ(普遍性のあるお金=補助金額の大小に帰結)」、「自らの自治体界の内側での個別最適解の追求」といった、自治体の行動原理ゆえ=自治体主導ゆえの限界ではなかろうか。

結果、例えば移住促進策にしても、「その地域に住むことで具体的にどのような生活を送れるのか」、「どのようなライフスタイルを実現できるのか」といった具体的なイメージを、特定属性の対象者に強く訴求し、想起させるに至らず、よって、敢えてその地域に移住する明確な理由を提示できていないのが現実ではなかろうか(経験がある方は、マンションや建売住宅のデベロッパーによる物件販売時の物件説明との対比を想像して頂きたい)。

一部の先鋭的な自治体を除いて、自治体の政策主導で大きな移住成果をあげている自治体は現時点では相対的に数少なく、むしろ、更なる人口の流出と自然減の進行により、既存住民の中長期的な生活環境の維持が課題として重くのしかかり始めている地域が増えてしまっているのが実情であろう。

限界を超えるための「産官民連携」の必要性

前述した、自治体の行動原理ゆえの限界を超える方策として、改めて「産官民連携」の必要性を問うてみたい。

まず、単純な発想ではあるが、自治体の行動原理ゆえの弱点を補完するために、自治体とは異なる行動原理を持つプレイヤーをお互いの行動原理の理解の下で有機的に組み込み、相互補完的に政策推進することが有益と考えられる。

その最たる存在が民間企業であるが、自治体から直接的に収益を収受する受委託ビジネスを除けば、民間企業の事業推進において、自治体界は本質的な事業制約にはならない。また、自社が提供するサービスのターゲットに定めた受益者=特定属性の対象者に対する訴求と評価獲得を重視する。

自治体の行動原理と対極にあり、自治体の限界を補完しうる存在として、改めて「自治体の政策と民間企業の事業との有機的な連携」を模索すべきである。

また、上記の民間企業の行動原理を活かすことで、特定の属性や固有名詞に特化した具体的なサービス提供型施策の追求、抽象論に対する総論賛成ではない特定属性や固有名詞=「個々人」による評価の追求、その評価を踏まえた柔軟なサービス改善が可能となる。

民間企業との連携を通じて、自ずとその先にある「個々人」の評価のフィードバック獲得と施策改善への組み込みが可能になってくる。

自治体と民間企業とが連携し、個々人に訴求しうるサービス提供型施策を、自治体は政策の一環として、民間企業は通常の事業展開の一環として共同で開発・推進し、「収益的に自立した民間企業主体の事業」をもって政策課題の解決や政策テーマの実現を図っていくことが、自治体主導ゆえの限界を超える地方創生のあり方ではなかろうか。

「産官民連携」における自治体の役割と連携のあり方

民間企業(産)との連携、その先にある個々人(民)による評価の施策改善への組み込みの有用性を述べたが、自治体は、単純な受委託関係や補助金の提供を超えて、どのような連携行動を民間企業に対してとれば良いのだろうか。

その地域ならではの特徴に応え、政策課題の解決や政策テーマの実現に貢献する、収益的に自立した民間企業主体の事業の実現に向けた自治体の連携アクションとして、筆者個人の支援経験も踏まえつつ、以下を提示したい。

なお、特定の民間企業に対して以下の一連の連携アクションをとることについて、前述の自治体内での機会均等や公平性の観点から抵抗感を抱く自治体の方々も想定されるが、例えば「連携協定」を締結している民間企業とまずは着手してみてはいかがだろうか。連携協定は、その締結の主旨やその一般的な協定文言の含意から、下記アクションの共同推進のために存在すると言っても過言ではないと考えられる。

①民間企業の参画に向けた「特定属性」の課題把握とサービス構想

民間企業による事業構想やその先の提供サービスの構想にあたっては、総論的・抽象的な政策課題の羅列ではなく、その言葉の下で現実的に起きている特定属性の住民等の日常行動と生活上の具体的な課題、特定属性の移住者の移住後の生活実態の把握など、より具体性の高い粒度での実態把握が必要となる。

また、その実態も、同一自治体内で画一的なものではなく、地形特性や経済環境等の地区差が存在するため、例えば「校区単位」でのきめ細やかな把握を必要とするケースが存在する。
その把握における基礎情報の提供、既に把握している課題の共有において、自治体の果たすべき役割は大きく、特徴あるサービス提供型施策の実現に向けた第一歩となる。
 

②民間企業と共同での「特定属性との対話」を交えたサービス構想の検証

上記①で把握した外形的な事象を裏付ける、「実感値」の把握に向けた住民等との対話機会の設定と、その対話における仲介者としての役割が自治体に期待される。

外形的な把握を通じて仮説的に構築されたサービス構想の検証を通じて、その政策的な貢献可能性の検証と事業としての受容・収益化の可能性の検証とを、民間企業と共同で実施し、お互いの見地からサービス構想のブラッシュアップを図る。

その際にも、前述の「連携協定」の存在が有効であり、その存在によって「政策協力者」の立場を特定の民間企業に与え、対話の相手となる住民等の受容性を高めることが可能となる。
 

③新たなサービス導入の「政策的意義」に関する住民等への訴求

上記プロセスを経て、共同構想したサービスを自地域内に導入する際に、その正当性を住民へ訴求する役割が自治体に期待される。
民間企業単体での訴求は純然たるセールス活動と位置付けられるが、そのサービスが政策課題の解決や政策テーマの実現に貢献しうる点=政策的意義を合わせて訴求することで、住民等の受容性は大きく変わると想定される(特に、自治体の存在感が相対的に大きい、比較的人口規模の小さな自治体ではその効果も大きいと考えられる)。
 

④広域事業展開の許容と政策横断による民間企業の収益機会の極大化

前述の通り、民間企業の事業活動は本質的には自治体界に制約されない。収益性の確保が不可欠なため、自治体界を超えた最適な活動規模の実現に動いていく。

徒に自らの自治体界に民間企業の事業活動を制約しようとすると、市場総量の不足による収益悪化と撤退を招きかねない。あくまで、自らの自治体の課題解決に貢献するという、良い意味での「個別最適」意識をもって、自治体は民間企業の広域展開の追求を許容すべきである。

また、対象とするサービスの、自治体内の複数の政策部局間における「転用発想」が有効である。例えば、地域における移動手段確保のために「地域版MaaS」を民間企業が導入した場合、既存住民の移動手段確保の側面を「民生政策」として、移住・定住促進のための提供サービスの側面を「移住・定住政策」として、観光来訪者に対する移動手段の提供を「観光受入環境政策」として位置付けることも可能である。

複数の政策部局が、同一サービスの域内推進に複数の政策的な意義を与え、前述の①~④のアクションを推進することによって、地域内における「収益密度」を高め、提供される民間企業のサービス=政策施策の長期安定的な収益確保と継続提供の実現に近付くだろう。

本章のまとめに

収益的な自立を目指した民間企業によるサービス提供に政策的な意義を与え、その地域内における開発と推進を支援し、民間企業主体の事業展開を通じて自治体が企図する政策効果を実現しようとする本取組みは、自治体独自の特徴を特定属性の対象者に具体的に訴求し、地方創生を実現していくには、不可欠な要素ではなかろうか。
 
次章では、視点を転じ、民間企業から見た、地域課題解決に資する事業の創出のポイントや自治体との連携のポイントを提言したい。

著者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社    
アソシエイトディレクター
高柳良和

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