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地方創生の推進に向けた民間企業による政策テーマ貢献型事業創出アプローチ 

地方創生の実現に向けた「産官民連携」の必要性とその方向性 第2章

地域における事業構想のフレームワーク

民間企業が地域を事業フィールドとして事業開発を行う際に、自治体との連携を視野に入れた事業機会を見出すためのフレームワークとして、デロイト トーマツが提唱する『Regional Innovation Framework』を提示したい。

『Regional Innovation Framework』の考え方

① 『政策テーマ・地域課題』に基づく事業テーマの導出

まず、政策テーマや地域課題を基に、対象地域において事業化を通じて貢献・解決を図るべき事業テーマを導出する。
その際に、自社内で単一事業に求められるおおよその「事業規模感」を意識することが重要である。
具体的には、国内他地域や世界への展開による事業スケーラビリティの確保を意識した共通性の高い政策テーマや地域課題を選別する、あるいは、複数の政策テーマや地域課題への貢献可能性により、特定地域におけるトランザクション頻度・収益密度を高める方策を見出していく。
 

② 『Assumption Smashing』による前提の打破と転換

Assumption Smashingとは、字の如く「前提破壊」により新たな発想を生み出す思考法である。

地域においては、人口密度の低さやその低下により、一定エリア内における顧客集積が「粗」な状況に陥っているケースが多く、また高齢化の進展や交通インフラ維持の限界もあいまって、今まで提供されていた様々なサービスの維持が大きな課題となっている。それらサービスの前提となっている、人々の行動や活動を大きく変える必要が生じ始めている。

地域における人々の行動や活動に関する前提や固定観念を排除して、逆の行動パターン・活動パターンはありえないか、全く異なった前提での活動は成り立ちえないかを「空想」し、人々の行動や活動に関する新たな前提を「再設計」する必要がある。
 

③ 『先端テクノロジー』を通じた新たな前提創出と経済的な成立可能性の追求

導出した事業テーマに適用可能性があり、かつ、Assumption Smashingを通じて得た「新たな前提」を成立させうる先端テクノロジーを抽出もしくは構想し、その適用イメージと経済的な成立可能性をラフスケッチする。

その一つの着眼点として、「粗を粗のままで(=顧客集積が粗のままで)経済的に成立させうる技術」もしくは、「粗を疑似的・仮想的に密に転化し、収益密度を高めうる技術」が有力な導入技術の候補となりうるのではないか。

前述の通り、人口密度に基づき、顧客集積が「粗」であることが、自立的な収益事業としての成立可能性を阻害する大きな要因となるケースが多い。

例えば、地域における分散型電源の導入議論が散見されるが、これは、顧客密度が「粗」のままでも経済的に成立させうるエネルギーグリッドの小型化テクノロジーに位置付けられるだろう。
 

④ 『規制緩和』を通じた事業実現と社会実装

上記を通じて得た構想を事業として地域実装するために、必要に応じた規制緩和策を講じる。

Assumption Smashing✕先端テクノロジーによって、現在の常識とは異なる行動や活動を現出させるため、既存の規制に抵触する可能性があり、政府が定める規制緩和策への申請を通じた事業実現と地域実装を図っていく。
 

図1:デロイトトーマツが提唱する『Regional Innovation Framework』
※クリックまたはタップして拡大表示できます

これら①~④を、相互の連動性に配慮しつつ、反復検討することで、事業構想の具体性とその精度を高めていく。

フレームワークに基づく事業構想イメージ

上記フレームワークを活用した事業構想のイメージを掴んで頂くべく、ケース設定を行ってみたい。

ある自治体における政策課題・地域課題として、「医療の受診困難者の発生」が存在する。自治体との協議・連携を通じ、その原因として、過疎化の進展に伴う人口密度の低下に起因する患者数の減少を通じた医療機関の採算悪化と、交通インフラの脆弱化による通院制約の更なる上昇が挙げられたと仮定する。

この課題の前提として、「医療は患者自身が病院や診療所に出向いて受診するもの」、「医師や医療設備は地点固定化された病院や診療所で患者の来院を待つもの」という医療受診という行動や活動に対する固定観念が存在する。

この固定観念を排除すると、「医師や病院・診療所自体が自宅をはじめとする患者のいる場所に出向く」形での医療サービスの提供方法はありえないのか?という発想が生まれる。

そのような医療サービスの提供方法を、経済的な成立可能性を含めて実現する「イネーブラー」たりうる技術を抽出・構想する。

課題の原因が、前述の通り過疎化の進展に伴う人口密度の低下による患者数の減少を通じた採算悪化と交通インフラの脆弱化による通院制約の上昇にあるとする場合、例えばMaaSの導入による医療提供エリアを大幅に拡大した移動型診療所サービスが構想される(=「粗」を疑似的に「密」へと転化して顧客密度を高める)。

そして、そのサービスの実現においては、既存規制の検証に基づく規制緩和が必要になると想定され、その緩和を通じて地域実装がなされ、政策テーマや地域課題の解決に貢献する新たな事業がローンチされることになる。

また、複数の政策部局が、同サービスの域内推進に複数の政策的な意義を与え、前述の①~④のアクションを推進することにより、地域内における「収益密度」を高め、提供される民間企業のサービス=政策施策の長期安定的な収益確保と継続提供の実現とに近付きうる。

本章のまとめに:地域における事業実現に向けた、改めての自治体の役割

これら一連の事業化アクションを、前章で提示した自治体-民間企業間の連携を通じて推進し、政策課題や政策テーマに貢献する民間企業主体の収益事業として構想・推進していくことが、「自治体主導」、「民間企業主導」という単一主導を超えた、レバレッジの効いた成果の追求につながる。

特に、Assumption Smashingに基づく新たな行動・活動への転換を伴うサービスを住民に浸透させていくには、自らの政策課題や政策テーマへの貢献という大義の下、自治体がその意義や必要性を共に訴求し、受容性を高めていくことが重要である。

以上に述べた民間企業による事業化のアプローチを自治体側も理解した上で、共に事業を起こすべく連携推進していくことが不可欠である。

著者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社    
アソシエイトディレクター
高柳良和

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