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公営企業における内部統制とは
公営企業の経営改革シリーズ(5)
公営企業における内部統制とは何か?について、内部統制の基礎知識から、公営企業におけるリスクとリスク対応まで、地方自治法の改正により求められる内部統制制度との関連を含めて解説します。
1.内部統制とは
内部統制とは、4つの目的が達成されないリスクを一定の水準以下に抑えることを確保するために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、6つの基本的要素から構成されます。4つの目的と6つの基本的要素は図表1、図表2の通りです。
図表1:4つの目的
図表2:6つの基本的要素
2.地方公共団体における内部統制制度
(1)導入の背景
地方公共団体における内部統制制度は、地方自治法等の一部を改正する法律(平成29年法律第54号。以下「改正法」という。)により、監査制度の拡充強化及び地方公共団体の長や職員等の損害賠償責任の見直し等ともに一体的に導入されるものです。その背景には、人口減少社会においても行政サービスを安定的、持続的、効率的かつ効果的に提供していくため、その要請に対応した地方行政体制を確立することが求められています。
出典:総務省「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」(平成31年3月)P1より抜粋(外部サイト)
(2)地方公共団体に求められる内部統制
改正法の施行日である令和2年4月1日以降、都道府県知事と政令指定都市の市長に以下の事項が求められています。
- 財務に関する事務等の管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な体制を整備すること
- 上記方針を定め、または変更したときは、遅滞なく公表すること
- 毎会計年度、方針及びこれに基づき整備した体制について評価した報告書(内部統制評価報告書)を作成すること
- 上記報告書について、監査委員の審査に付したうえで議会に提出し、公表すること
つまり、行政サービス提供等の事務に係る執行主体である長自らが、住民の福祉の増進を図ることを基本とする組織目的が達成されるよう、事務の適正な執行を確保するための方針を定め、体制を整備し、内部統制を評価した報告書を作成して公表することが求められています。
(3)内部統制の取組の概要
内部統制のプロセスは、組織目標達成を阻害する要因をリスクとして識別、評価して対応を行う一連の流れです。改正法の内部統制におけるリスクは主に業務遂行上のリスクです。このうち、財務事務に関するリスクが最低限評価すべき重要なリスクとされていますが、その他のリスクも含めて取り組む団体もあります。
図表3で示した通り、最初に、各部署でリスク評価を実施し対応策を策定し、必要に応じて「リスク評価シート」を作成します。
次に、各部署が「リスク評価シート」等を元に自己点検を実施、その結果を内部統制評価部門が評価して「内部統制評価報告書」を作成し、監査委員の審査を受けます。
その上で、監査委員の審査結果を受けて、議会に「内部統制評価報告書」を提出するとともにHP等で公表します。さらに、地方公共団体自らが評価した内容に加えて、監査委員や外部からの意見も踏まえて改善に取組むことになります。
図表3:内部統制のプロセス
3.公営企業における内部統制
(1)公営企業に求められる対応
公営企業における内部統制について、管理者に内部統制に関する方針および内部統制体制の整備に関する義務は求められていませんが、自主的に内部統制に取り組むことが望ましいものと考えられます。ただし、管理者を置かない都道府県および政令指定都市の公営企業においては、内部統制に関する方針及び内部統制体制の整備の対象となります。公営企業における内部統制制度の対象は図表4の通りです。
図表4:内部統制に関する方針及び内部統制体制の整備の対象
出典:総務省自治行政局「地方公共団体における内部統制制度導入・実施ガイドライン」に関するQ&A P18 より筆者作成(外部サイト)
(2)公営企業におけるスク管理及びリスク対応
公営企業においては、地震や災害の発生、人口減少に伴う料金収入の減少、施設の老朽化、大量退職に伴う職員数の減少といったリスクが年々高まっており、各公営企業は、将来にわたって安定的に事業を継続していくために、「BCP(事業継続計画)」の策定や中長期的な経営の基本計画である「経営戦略」を策定し、これらのリスクに対応しているところです。今後は、地方自治法の内部統制制度開始にともない、従来から求められている災害等リスクや経営戦略リスクに加えて業務遂行上のリスク管理強化が求められると考えられます。内部統制は各部署でのリスクを評価して対応策を講じるPDCAサイクルであり、様々な経営上の課題が浮かび上がります。この課題を現場レベルの問題とせず、経営戦略等と連携しながら抜本的な解決を目指すことが望まれます。
例えば、図表5の通り水道事業においても、豪雨や大地震等の災害リスク、施設老朽化やベテラン職員の減少等による業務遂行上のリスク、人口減少に伴う将来的な水需要の減少への対応といった戦略リスクが年々高まっており、リスク対応においては内部統制が中核的機能を果たすと考えられます。
図表5:水道事業におけるリスクとリスク対応の例
4.トーマツのサービス
トーマツでは、公営企業における様々なサービスラインと連携した支援により、地方自治法による内部統制制度導入の支援だけでなく、BCP策定支援等災害リスクへの対応、業務改善等による業務遂行上のリスクへの対応、経営戦略策定支援による戦略リスクへの対応等、幅広く支援します。単に法令等に準拠した規制対応とするのではなく、課題の解決のための「実のある取組」となるように、内部統制制度の導入支援を行います。
公営企業の経営改革シリーズ
公営企業が直面している財政や人的資本に関する問題解決の手法を紹介および解説するシリーズです。
- シリーズ1:公営企業(上下水道事業)の広域化について
- シリーズ2:公営企業の官民連携について
- シリーズ3:公営企業の料金のあり方①総括原価とは?
- シリーズ4:公営企業の料金のあり方②料金の見直しプロセス
- シリーズ5:公営企業における内部統制とは
- シリーズ6:公営企業におけるシステム導入のポイント
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