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EBPMの事例解説(神奈川県横浜市)

特集 EBPM(エビデンスに基づく政策立案)

前稿では、EBPMを導入する際の6つの留意事項を解説しました。本稿では、それら留意事項への対応策のうち、主にEBPMの導入初期段階に生じる実務上の問題点やその解決策について、先行する自治体事例を踏まえた提言を実施します。

1. EBPM導入時に起こること

実際にEBPMを推進する際には、誰が実施主体となるべきなのか、誰がリーダーシップを取るべきなのか、専門知識をフォローしてくれる人はいるのか、そもそもEBPMを推進すべきという組織風土は醸成されているのか、といったことが自治体職員の皆様にとって特に気になるポイントになるのではないでしょうか。

また、多くの自治体では、これまでも何らかのEBPMの取組を実施してきたと思いますが、取組の事例はそれほど増えておらず、推進のためのデータ整備もそれほど進んでいない、といった状況にあるのではないでしょうか。

EBPMの重要性は認識しているものの、日々の業務が忙しく、時間を割くのが難しいという現実もあるように思います。

本稿では、これら問題の解決に参考となる自治体事例を紹介することで、これからEBPMの導入を本格化させる自治体の皆様に参考となる考え方等を提言します。

 

2. 横浜市の事例

「横浜DX戦略 アクション編」(令和4年9月)では、データ活用分野における推進アクションが示されています。

出所:「横浜DX戦略」アクション編 P.61を基に加工(外部サイト)

 

全庁的な観点から、データを重視した政策形成を推進するために、徐々に事例の創出や庁内データ集を拡充し、それらと並行して、政策立案等にデータをより活用できる仕組みが検討されています。

「令和5年度の市政運営の基本方針と予算案について」(令和5年2月7日)では、持続可能な市政運営として、EBPMの文脈の中で、データ・ストラテジー担当が設置されたことが示されています。

出所:令和5年度の市政運営の基本方針と予算案についてより引用(外部サイト)

 

データ・ストラテジー担当が、「データサイエンス」を活用する、新しい行政運営の推進のために設置されたものであり、全庁的にEBPMを浸透させることを重視した重要な役割として位置づけられていることがわかります。

出所:政策局組織図(令和5年5月22日)を基に加工(外部サイト)

 

政策局「機構及び事務分掌」(令和5年5月)では、横浜の持続的な成長・発展に向けた政策の推進の中で、データ利活用の推進として、以下の2点が示されています。

 

出所:政策局「機構及び事務分掌」より引用(外部サイト)

 

事例の創出の観点が示されていることや、職員一人ひとりの意識の向上という全体的な底上げを目指していることが見て取れます。特に、外部の教育研究機関等とも連携しながら新たに「体系的」な職員研修を企画・実施する点は大きな特徴だと思われます。

なお、上述のデータを重視した政策形成の推進におけるデータ基盤の構築に関連するものとして、「行政運営の基本方針」(令和5年1月)において、データに基づく財政運営・政策展開の組織への定着と人材育成の推進として、以下の2点が示されています。

出所:行政運営の基本方針より引用(外部サイト)

 

このように、横浜市では、EBPMに関連する多くの取組がなされており、データを利活用すること、EBPMを推進すること等への組織風土がより醸成される環境にあると理解できます。

横浜市では、データ利活用の専門性ある人材が増えつつあり、そのような方々がリーダーシップを発揮し、さらに人材を育てることで、EBPM推進のための好循環を作り出せているのではないでしょうか。

 

3. 他団体への提言

EBPM導入時には、その推進に当たり、前提となる環境や人材・基盤等に関する多くの問題に直面するものと思われます。これら問題の程度は、自治体によって異なるため、本稿で紹介したような事例を参考として、取組方針や具体的な施策を検討・改善していくことが重要です。

例えば、横浜市では、「データサイエンス」を活用する、新しい行政運営の推進のためにデータ・ストラテジー担当を設置しています。データ利活用やEBPMを推進する主役は事務・事業を実際に担当する各部署担当者になることが多いように思いますが、その際に、庁内に専門知識をフォローしてくれる担当者がいることは、取組推進を加速する大きな要素になるのではないでしょうか。

事務・事業の現場では気づかないデータの利用方法の発見やロジックモデルの改善提案等に結びつくことで、これまでは認識できていなかった需要が掘り起こされるかもしれません。

これらの取組は、全庁的で持続的であることも重要です。横浜市では、外部の教育研究機関等とも連携しながら新たに「体系的」な職員研修を企画・実施しています。

多くの自治体では、EBPMに関連した何らかの研修は実施されてきていると思います。ただし、それが今後のEBPM推進のための好循環の確立といった明確な方向性まで見据えていない場合には、研修実施部署等により区々のメニューになっていたかもしれません。

例えば、初級・中級・上級といった形で職員の皆様を成長させていく体系的なメニューを開発することで、全庁的で持続的な仕組みを構築していくことは有用です。

なお、庁内を見渡すと、EBPM等の専門性を有する人材が意外と多く存在しているのに、それを明確に認識できていなかったということもあるかもしれません。このような方々を把握することで庁内資源を有効活用することも有用です。

以上のように、様々な取組が考えらえますが、いずれの取組においてもEBPMを強力に推進することへの後押しとなる組織風土が醸成されていることが特に重要です。一朝一夕では達成できないため、例えば、組織の長がリーダーシップを強く発揮することや、または、最初は小さなことから初めて徐々に大きくしていく発想を持つこと等が必要になってくるのだと思います。

有限責任監査法人トーマツでは、データ利活用やEBPMに関する多くの自治体様への業務提供実績を有しています。外部の専門家を利用することで効率的かつ迅速に検討を進めることも可能です。お気軽にご相談ください。

 

以上

 

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