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EBPMとは?
特集 EBPM
近年、自治体を取り巻く環境が変化する中、「EBPM(エビデンスに基づく政策立案)」という考え方が注目を集めています。本記事では、EBPMの考え方やEBPMが注目を集めることになった背景について解説します。
1. EBPMの定義
EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。エビデンスに基づく政策立案)とは、内閣府によると、「政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくもの」と定義されています。
【参照】
・内閣府「内閣府におけるEBPMへの取組」(外部サイト)
2. 従来の政策立案の課題点
従来より、自治体では行政評価等の仕組みにより、PDCAサイクルの考え方自体は一定程度浸透しているものといえます。他方、実態としては、必ずしも有効に機能しているものではなく、具体的には以下のような課題が存在すると考えられます。
まずP(政策立案)段階においては、「政策の必要性の根拠が、客観的なエビデンスに基づいて提示されない」という課題が存在します。理想としては、自治体の状況を統計情報、過年度の行政評価情報、市民アンケート等の情報を活用しながら分析し、解決すべき課題を抽出のうえ必要な政策を立案することが必要と考えられます。他方、実態としては、継続するべき理由が不明確なまま前年度の政策や事業が漫然と踏襲されたり、合理的なロジックに欠ける政策立案や目標設定がされたりする場合が多いように見受けられます。
次にC(政策の効果の把握・評価分析)段階においては、「実効性のある政策評価が行われない」という課題が存在します。理想としては、政策評価は政策目的達成のための「手段」であり、政策の有効性、効率性、経済性等を測定・評価し、当該政策の継続要否判断や、継続する場合の改善点を明らかにするために使用されるべきものです。他方、実態としては、政策目的の達成度を測定するための成果指標が明確でなく効果測定に使用できない場合や、本来政策目的達成のための「手段」であるはずの評価が形骸化し、評価書を更新すること自体が「目的」となっている場合が多いように見受けられます。
自治体を取り巻く外部環境・内部環境の変化に伴い、政策課題も多様化するとともにその変化のスピードも増しています。他方、行政資源の有限性を考慮すると、より効率的・効果的な政策の立案・実行・見直しを行う必要があります。
3. EBPMの必要性
近年、自治体を取り巻く外部環境として、①生産年齢人口の減少による地域経済の衰退、②老朽化に伴うインフラを含む公共施設等の改修及び更新に係る経費の増大、③新たな行政ニーズや行政課題への対応経費の増大といった根本的な課題が生じています。
一方で内部環境に目を向けると、①職員数減少によるマンパワーの不足、②保守的な組織風土・先進性や柔軟性の不足、③厳しい財政見通し・評価システム不全といった課題が生じており、各自治体は、限られた行政資源をこれまで以上に有効に活用し、諸問題に対して迅速かつ適切に対応することを迫られています。
これらの環境変化に対応する手法として、EBPMの注目度が高まっています。具体的には、政策効果に重要な関連を持つエビデンスに基づき現状を正確に分析することで、効果的な政策が打ち出され、積極的な行政運営・事務事業に繋げることが期待されます。また、政策の立案及び実施に先立って住民や議会へ説明を行う際、エビデンスに基づき客観的かつ定量的な根拠をもって住民や議会への説明が可能であるため、合意形成上効果的な手法であるといえます。
また、近年の急速なICTの発展により、従来は入手できなかったビッグデータが活用可能になってきたことも、EBPMの推進を後押ししています。個人特定性についてはデータの取扱いに十分な配慮が必要ですが、住民基本台帳情報、マイナンバーに紐づく各種情報(税、医療、社会保障等)、位置情報や移動情報(GPS・ETC等)等、政策目的に応じて様々なデータを活用することが可能な環境整備が進んでいます。
内閣府では、EBPM推進の基本方針を示した「統計改革推進会議最終とりまとめ」(2017年5月)を策定しています。その中では、我が国では世界に類をみない少子高齢化の進展や厳しい財政状況に直面していること、政策課題を迅速かつ的確に把握したうえで、有効な対応策の選択、効果検証を行う必要性がこれまで以上に高まっていることが記載されています。この現状に対し内閣府は、EBPMに基づき、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータに基づいて政策を立案することで、政策の有効性の向上と国民の行政への信頼確保につなげられると期待しています。
【参照】
・内閣府「内閣府におけるEBPMへの取組」(外部サイト)
・EPM推進委員会「統計改革推進会議 最終とりまとめ」(外部サイト)
4. エビデンスとロジックモデル
従来型の政策立案における課題を改善するには、①エビデンス、②ロジックモデルの2つの視点が重要となります。
エビデンスとは、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等の合理的根拠を指すものであり、データに基づいて議論を出発させることで、意義の薄い事業の踏襲を防ぐことができます。
ロジックモデルとは、政策の成果に至るロジック(論理)を図式(モデル)化したものであり、「手段」がどのように「目的」につながっていくのか論理的に明示したものです。ロジックモデルを策定することで、事前又は事後的に政策の概念化や設計上の欠陥や問題点の発見、インパクト評価等の他のプログラム評価を実施する際の準備、政策を論理的に立案する等の効果が得られます。
この両者を組み合わせることで、2節で記載したP(政策立案)とC(評価)における課題を改善することができます。具体的には、P(政策立案)段階においては、「エビデンス」に基づく課題の抽出及び政策の必要性の検証、「ロジックモデル」に基づく体系だった論理的な政策立案が可能となります。また、C(評価)段階においては、「エビデンス」に基づく政策手段の有効性の検証、「ロジックモデル」に基づく仮説の妥当性の検証が可能となります。
【参照】
・佐藤徹『エビデンスに基づく自治体政策入門 ロジックモデルの作り方・活かし方』公職研出版、2021,p.13-14、47
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング『政策評価とEBPMをどう連動させるか?-基本的な考え方と実践例-』2022,p.4-5
・文部科学省「ロジックモデルについて」(外部サイト)
5. おわりに
EBPMは政策立案をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。
近年の自治体を取り巻く環境や従来の政策立案方法を踏まえると、自治体が抱える課題を限られた行政資源で解決するためには、EBPMを推進することが不可欠であると考えられます。EBPMの視点を積極的に取り入れ、これまでの政策立案における課題を解決していきましょう。
なお、次回はEBPMを取り入れる際の留意点について解説予定です。
以上
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- 地方公会計に関する最新の動向
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