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アジアに進出した自動車産業を取り巻くリスクの変化
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2021年6月21日)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下において、アジアの国々を取り巻く環境は大きく異なる。中国は急速な経済回復を背景に、前年実績を超える新車販売を記録しているのに対し、インドでは急激な感染増で、生産を停止している企業もある。本稿では、これらの環境も踏まえ、COVID-19で特に顕在化した日系自動車産業を取り巻く「サプライチェーンリスク」について考察する。
サプライチェーンリスクというと、昨今では半導体の供給不足による混乱や、COVID-19による国のロックダウンによる生産停止などが頭に浮かぶ。ここでは、サプライチェーンリスクとその直近の変化についてまとめる。
- 安全衛生面
サプライヤーの供給する部品・サービスが、自動車産業が最優先として掲げる「品質」を確保していないリスク。サプライチェーンが複雑化するにつれて、見えない「品質」リスクは増加しつつある。 - 犯罪・金融犯罪
サプライヤーが反社会的な活動、犯罪を起こすリスク。 - 財務健全性
サプライヤーの財務体質が悪化し、品質の低下、倒産が起こるリスク。COVID-19により直接的に影響を受け、財務健全性が大きく損なわれた企業もある。 - 集中化
特定のサプライヤーに発注が集中し、少数のサプライヤーの問題が生産停止につながるリスク。半導体に見られるように、一部のサプライヤーへの部品の集中発注が、世界中での混乱を招いた。また、最近では、マレーシアのロックダウンの影響が懸念される。 - データプライバシー
サプライヤーが供給する部品がプライバシー保護に配慮していない場合、その部品からプライバシー情報の漏洩につながるリスク。コネクティッドカーが普及するにつれて、部品自体に求めるセキュリティ要件が高まり、昨今リスクが急激に高まりつつある。 - 事業継続性
財務状況の悪化や、後継者や人材の不足等により事業が継続できないリスク。財務健全性にも関連し、COVID-19により顕在化した。 - 労働者の権利
昨今注目されている人権問題や、労働組合との問題を解決できないリスク。米中の対立の理由のひとつでもある中国の新疆ウイグル自治区に見られるように、欧米を中心として、急激に高まっている。 - 地政学
米中関係に見られるようなサプライヤーの所在する場所に関係するリスク。バイデン政権後も米中関係に大きな変化がなく、今後ますます深刻化するおそれがある。 - コンダクト
サプライヤー やその役職員による行動により、企業を取り巻く幅広いステークホルダーの利益を侵害するリスク。 - 情報&サイバーセキュリティ
サプライヤーがサイバー攻撃を受け、サプライヤーの保持する機密情報のみならず、OEM側が提供した情報が漏洩するリスク。自動車本体のみならず、エンタープライズ、工場等に対するサイバー攻撃が急増しており、最重要のリスクのうちのひとつとなりつつある。 - 制裁措置&輸出
サプライヤーが所在する国の安全保障等に関連する制裁措置を受け、輸出ができなくなるリスク。国家間の緊張を背景に、安全保障上のリスクがサプライチェーンに大きなインパクトを与えつつある。 - 4thパーティリスク(二次請リスク)
前述のリスクに関して、サプライヤーが下流のサプライヤーを管理把握できず、下流サプライヤーの問題により、サプライヤーの生産が困難となるリスク。
上記の通り、サプライチェーンリスクには様々なリスクがある。この中でもCOVID-19を直接的な原因として発現したリスクには、「3.財務健全性」「4.集中化」が挙げられる。現在、多くの自動車産業では、これらのリスクへの対応に追われていることが想定されている。
また、今後大きく発現するであろうリスクには、「5.データプライバシー」「7.労働者の権利」「8.地政学」「10.情報&サイバーセキュリティ」「11.制裁措置&輸出」が想定される。CASE(Connected / Autonomous / Shared & Services / Electric)の世の中においても、日本の自動車産業が存在感を示していくためには、これらの広範囲なリスクに対してもきめ細かく配慮する必要であると考えている。
現在多くの自動車産業は、半導体の不足や、コンテナ不足による輸送の問題、ロックダウンによる供給問題等、直近の「物」に対する対応で手一杯であることは想像に難くない。しかしながら、その後に待ち受けるのは、「物」だけではなく、「データ」や「人権」、「地政学」など幅広いリスクの発現が想定される。今一度、自動車産業は、サプライチェーンに関するリスクを棚卸し、現状のリスクを認識することに加え、日常的にこのようなリスクを収集できるような仕組み(システムを利用した自動収集システム等)を構築することが必要である。
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著者:赤尾 聡
※本ニュースレターは、2021年6月21日に投稿された内容です。
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