ナレッジ

新型コロナウイルスの影響から考える海外拠点のローカライゼーション

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2021年4月6日)

COVID-19の発生から1年以上が経過した今、アジアパシフィック地域に拠点を構える日系企業では、当初の暫定的な対応を現在では「ニューノーマル」と捉え、改めて今後の態勢について検討をする段階に差し掛かっています。特にCOVID-19の影響を受けてこれまでに構築してきた業務態勢について、今後いかにガバナンスを利かせるかという点が論点として浮上しています。

COVID-19の影響による態勢の変化のひとつに、リモートワークがあります。リモートワークへの移行によるコミュニケーションや勤務状況、監督態勢の質の低下等はすでに語り尽くされているテーマですが、あまり語られない海外拠点や海外子会社の課題として、リモートワークを契機とした駐在員とローカルスタッフのギャップの拡大、という話を耳にすることがあります。

企業文化等にも拠るため一概には言えず、またサーベイ等のデータに基づくものではありませんが、駐在員の出社率はローカルスタッフより高くなる、という傾向があるように感じられます。別の言い方をすれば、ローカルスタッフにはリモートワークが定着している一方、駐在員ばかりが出社している状況です。これは特に駐在員が業務の中核を担ってきた海外拠点・子会社に顕著なようです。

このギャップより派生する負の事象としては、以下が考えられます。これらの負の事象は悪循環を招き、ガバナンスの低下の原因となります。

  • ローカルスタッフの業務の一部を駐在員が肩代わりする等、業務量の偏りが生まれる、あるいは強まる
  • 出社中の駐在員同士での日本語の会話で方針決定が進められる等、ローカルスタッフの関与が減る
  • ローカルスタッフの当事者意識ややる気の低下
  • ローカルスタッフの業務品質の低下
  • ローカルスタッフの流出、等

また、COVID-19のもうひとつの影響として、駐在員の帰任・後任駐在員の廃止があります。前述の通り、駐在員とローカルスタッフの間にギャップが生まれた状態での帰任は、駐在員の担ってきた業務を引き継ぐ人材の不在、およびローカルスタッフの管理・監督のますますの難化を意味します。リモートワークの利点を活かし、海外拠点や海外子会社を日本から管理することもひとつの方針ですが、従前のガバナンスと全く遜色ないレベルで子会社管理を実現できている日系企業がどれほど存在するかは疑問が残ります。

むしろニューノーマルの時代におけるガバナンスに求められているのは、海外拠点や子会社における業務態勢・監督態勢のローカライゼーションではないでしょうか。従来、駐在員が担ってきた業務をローカルスタッフに受け渡し、ローカルスタッフを通じて必要な管理を行う態勢にシフトしていくことが必要です。

上記を達成するためには、ローカルスタッフから次世代のリーダーとなる中核人材の輩出が必須です。そしてこれを実現することで、他のローカルスタッフのモチベーションの向上、リクルートの活性化、業務品質およびガバナンスの向上等が期待できます。

ここまで駐在員とローカルスタッフを区別する形で文章を記載してきましたが、あくまでそれらは人事体制上の違いに過ぎず、業務上においては区別のない関係性であることが組織としてのあるべき姿と言えます。

デロイト トーマツ グループでは、各職位や担当業務に対するトレーニングや、リモートガバナンス高度化の支援を行っています。詳細については当グループのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:前田 章吾
※本ニュースレターは、2021年4月6日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

お役に立ちましたか?