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危機を乗り越えるリーダーシップ - BCP/BCMで経営者に求められる役割とは

内閣府発行の「事業継続ガイドライン第三版」の内容を踏まえつつ、熊本地震への各企業の対応から読み取れるBCP(事業継続計画)およびBCM(事業継続マネジメント)のあり方を、有事の際に経営者に求められるリーダーシップという視点から考察する。

有事の際に経営者に求められるリーダーシップ

2016年4月14日、熊本地方を中心に最大震度7を観測する地震が発生、4月16日にも震度7の揺れが記録された「平成28年(2016年)熊本地震(以下、熊本地震)」。1カ月以上が経過した現在も余震が続いており、地元住民や企業の経済活動に大きな支障をきたしている。一方で、2011年の東日本大震災での経験や教訓を活かし、今回の地震に際しながらも事業継続に積極的に臨んでいる企業も少なくない。本稿では内閣府発行の「事業継続ガイドライン第三版」の内容を踏まえつつ、熊本地震への各企業の対応から読み取れるBCP(事業継続計画)およびBCM(事業継続マネジメント)のあり方を、有事の際に経営者に求められるリーダーシップという視点から考察する。

危機的事象にいつでも対応できる備えが求められている

地震、津波、台風、洪水、火山噴火、土石流など、日本という国は自然災害の脅威につねにさらされていると言っても過言ではない。とくに2011年3月に発生した東日本大震災は地球の自転に影響を与えるほどの強い揺れと巨大な津波でもって東北地方を中心に壊滅的な打撃を与え、多くの人命が失われただけでなく、我が国の経済活動に甚大な被害を及ぼした。そして残念なことに、こうした大規模な災害は今後も断続的に繰り返されるのはほぼ間違いない。つまり我々は"災害は必ず起こる"という前提のもとに、日々を過ごしていく必要があるのだ。 

この前提は個々人の日常生活だけではなく、企業活動の日ごろのあり方にも大きく関わってくる課題である。もし大きな災害のたびに、事業のすべて、あるいは一部を中断する事態になれば、その経済的損失や信頼低下による負の影響ははかりしれない。そして、事業活動の中断に追い込まれる企業が増えれば、国内経済が回らなくなるだけでなく、世界の日本に対する信用を大きく失墜させることにもなりかねない。そうした事態に陥らないためにも、すべての国内企業は災害時における事業継続を想定した戦略を立てておかなければならないといえる。もっと踏み込んでいえば、自然災害に限らずあらゆる有事 - パンデミックやテロ、さらには海外で発生する危機的事象をも含め、いつでもどこでも対応できる備えが求められているのだ。

事業継続とは、経営者自身が主体的に使命感をもって従事すべき業務である

では、企業が事業継続を軸にした戦略を立てるにあたってもっとも重要な鍵となるポイントは何か。それは経営者の積極的な関与である。災害などの不測の事態が発生したとき、企業は事業継続に臨む過程で重要業務の選定やその業務を継続させるための方法の選定など、緊急かつ突発的で需要な決断に向き合わなければならない。そうした場合に強いリーダーシップを伴った責任ある行動を取れる経営者がいなければ、たとえどんなに完璧な事業継続計画があっても実現には至らないだろう。危機的状況に陥ったとき、組織の存続と従業員の安全確保は経営者の責務である。BCP/BCMは「現場の担当者任せ」や「余分な仕事」ではなく、ましてや単なる「防災対策事項」ではない。事業継続とは、経営者自身が主体的に使命感をもって従事すべき業務であることを、経営者自身が強く認識している必要がある。

BCP/BCMにおいて経営者が果たすべきリーダーシップ

では具体的に、BCP/BCMにおいて経営者が果たすべきリーダーシップにはどのようなものがあるのか。経営者はどんなことを率先して行えばよいのか。以下、「事業継続ガイドライン」に記載されている関連項目を要約して示す。

  • 経営者がみずからの言葉でBCP/BCMに本気で取り組むことを社内外に宣言する
  • 全社員に対し、組織一丸となってBCP/BCMの重要性を理解させ、危機管理に積極的に関与できる雰囲気を平時から醸成しておく
  • ビジョンや目標の共有、さらに責任分担や役割の明確にした上で危機管理チームを構成する
  • 経営者は組織全体の責任者として主体的にBCP/BCMに取り組むとともに、そうした姿勢を従業員や顧客などのステークホルダーに明示する
  • 有事(危機発生時)またはBCP発動時には、経営者として先頭に立ち、組織の最高意思決定および指揮命令機能を司るとともに、戦略や対策の選択に的確な判断を行い、臨機応変に対応し、指示を行う

平時と有事で取るべきアクションは異なる

次に、危機対応に向けて経営者が関与やリーダーシップを求められる場合の代表的な行動例を示しておく。平時と有事では取るべきアクションが異なることに留意したい。 

□平時

  • 現状認識 … 現在存在するリスクに対し、自社が置かれている状況を把握する
  • BCP/BCMに関わる経営判断 … 推進体制の構築、経営理念やビジョンを踏まえた基本方針の策定、重要業務の選定、重要業務の継続戦略立案、対策の検討/導入、従業員に対する教育/訓練、BCP/BCMの見直しおよび改善等に関して意思決定を行う
  • ステークホルダーへの説明 … 顧客、社員、取引先などの利害関係者からの理解を得る
  • 情報発信/公開 … 自社のWebサイトなどを通じ、BCP/BCMへの取り組みを公開し、社内外に意思表示する 

 

□有事(危機発生時および危機発生後)

  • 従業員/顧客の安全確保および被害拡大防止 … 必要な場合は避難誘導や安全対策の実施(危険区域の立ち入り禁止など)を行う
  • 情報収集 … 従業員の安否を確認し、自社の被害状況を把握する
  • 対策本部 … あらかじめ定めた参集基準にもとづき、参集対象者(危機管理チーム)を参集させ、対策本部を迅速に立ち上げる
  • 事業継続対応への移行 … 自社の事業継続に対して求められている事項を確認し、実施する対策や戦略を決定、対応指示および命令を出し、業務の継続/再開に向けて対策を実施する(地域との連携や危機発生時の資金繰りも含む)
  • 社内外への情報発信と信頼関係の構築 … 対外的に発信すべき情報を集約/判断し、ステークホルダーや地域住民に向けて自社の事業継続の状況を公開する 

なお、平時でも有事でも忘れてはならない点は、BCP/BCMの内容はつねに最新の社会状況や自社の現状にあわせてアップデートしておく必要があることだ。3年前に策定した戦略で、いま起こりつつある危機には対応できない。そしてその定期的なアップデートも経営者が行うべき重要な業務だということを、いま一度強く認識されたい。

 

BCP/BCMの実践事例

ここで、熊本地震におけるBCP/BCMの実践事例として、いくつかの企業の対応を挙げておく。いずれも経営者の強いリーダーシップがあったからこそ、すみやかな事業継続が実現したケースである。

  • 製薬企業A社
    熊本に本社と工場を抱えるA社は5月14日の地震を受け、翌15日は午前中で業務を停止し、16日から通常業務を再開すると決定した。しかし15日に本震が発生し本社が被災したことにより、再開予定を変更、工場の一時操業停止、発送および注文受付の停止に踏み切った。2016年5月末現在では、商品の製造、販売、発送などを徐々に再開しているが、全面的な再開にはまだ時間を要するとみられる。

    地震発生後から社長みずからが陣頭指揮に立ち、社屋や工場の被災状況の把握に努め、復旧に向けて社員一丸で取り組んでいる前向きな姿勢は社内外から非常に高く評価されている。生活に不安を覚える従業員に対してボーナスの先払いを約束したり、被災した地域住民に自社商品や物資を提供するなど、経営者が決断しているからこそ実現できている事項が多いことに注目したい。Webサイトなどを通じて、自社の現状を定期的に情報発信している点もポイントが高い。
  • 大手コンビニチェーンB社
    いまや生活インフラとして機能するコンビニは、業務が停止に追い込まれれば社会全体に大きな混乱をもたらすことになる。各コンビニチェーンは東日本大震災の経験を活かし、熊本地震においても果敢に事業継続に挑み、その社会的義務を果たすべく全力を尽くしている。

    事業継続に向けたアプローチの方法はチェーンごとに異なるが、B社の場合、現地の配送センターなどには大きな被害はなかったものの、いくつかの店舗が停電や断水、道路の混雑などにより納品や配送に影響が出たことを公表している。こうした状況を受け、B社は本部から約120人の社員を現地に派遣し、被災した店舗の修復や、店員の確保などに努めてきた。18日には社長みずから現地入りし、被災状況の確認や対応の指揮にあたっている。

    B社は地震発生直後から「デイリー品」と呼ばれる弁当やおにぎり、パン類、飲料水などが不足する事態にならないように注力してきた。これらは日常生活に欠かせないだけでなく、小さな車両でも運べるというメリットがある。だが地震直後は、熊本の配送センターから県内の店舗に通常ルートで配送しようとしても道路事情の影響により途中で引き返すケースが相次いだ。そこで他県から市内に一括配送するという手段に切り替え、本部からの派遣スタッフがみずから乗用車で店舗へ運ぶなどしてデイリー品の確保にあたってきたという。また地震発生直後からWebサイト上で「緊急」と題したニュースリリースを頻繁に公表、店舗の被害状況や商品配達状況、営業予定、義援金受付などの情報発信を行っており、社会的責任を果たす姿勢を強くアピールしている。
  • 大手自動車メーカーC社
    自社は被災しなかったものの、部品供給会社(サプライヤ)の工場が被災したことにより、C社は国内にある車両工場すべてを段階的に操業停止すると決断した。だがサプライヤの稼働再開がいつになるかは目処はつかない。影響を最小限に食い止めるには新たな調達先を早急に模索する必要があった。

    C社は東日本大震災でもこれに近い状態に陥ったことがある。特定のサプライヤに依存することはリスク分散の観点からも健全ではないと判断したC社は、その後、早急に新たな部品調達先を洗い出し、有事の際に代替生産を実施できる環境の確保に努めてきた。生産に支障が出る品目を特定し、その部品を調達できるサプライヤをリストアップしてデータベースとして構築したことで、有事の際のすみやかな代替生産を可能にしている。熊本地震では東日本大震災のこの教訓が結果として活きることになり、5月6日から車両工場の全面稼働にこぎつけている。

    もっとも代替はあくまで代替にすぎない。C社の場合、現在もサプライヤの安定調達の見極めを1週間ごとに行っており、その都度、操業が可能かどうかを判断しているという。このような判断は現場の担当者レベルで行えるものではなく、やはり責任ある経営者によって下されなければならないのだ。

ここまで見てきたことからもわかる通り、BCP/BCMには経営者の積極的な関与と強いリーダーシップの発揮が不可欠である。冒頭でも触れたが、日本はつねに自然災害の脅威に晒されている状況にある。自然災害だけでなく、危機的状況を引き起こすインシデントは、いつ、どんな形でやってくるかわからない。だからこそ、組織の顔として責任ある行動を取れる経営者の必要性がクローズアップされているのだ。そしてそのような経営者のもとで策定されたBCP/BCMは、有事の際だけでなく、平時からも企業活動を支える基盤となることは疑いない。そうした企業が増えていくことは、日本という国の信頼性を高めるうえでも重要である。

むしろ、数多くの自然災害をくぐり抜けてきた日本企業は、他国にとっても先進的なBCP/BCMのユースケースとなりうることも覚えておきたい。我々の経験や教訓が役立つのは、国内に限ったことではないのだ。そのためにも経営者にはよりいっそう、BCP/BCMへ強くコミットすることが求められる。

最後にまとめとして、BCP/BCM策定において経営者が果たすべき役割について挙げておく。

経営者としての役割や行動指針(収集すべき情報、判断すべき事項、構築すべき体制、現場への行動指示など)を平時から準備しておくこと。あたりまえだが、ふだんからやり慣れていないことは緊急時に実行できない。危機発生時にすみやかに行動するためには平時からの備えを怠ってはならない。

危機発生時に対応策の的確な選択を行うのはもちろんのこと、予想を超える事態が発生しても臨機応変に判断し、責任ある行動と的確な指示を心がけること。これを実行できるのは経営者しかいないことも強く認識しておくべきである。

平時から社内外に情報発信/情報公開する習慣を付けておくこと。情報を積極的に公開することで、ステークホルダーや地域社会との信頼関係を構築しやすくなることは覚えておきたい。紹介した事例からもわかる通り、危機対応にすぐれた企業は情報発信にも長けている。これも一朝一夕にできることではなく、平時からの努力が求められる。

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