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米国サンフランシスコ地域で大規模COVID-19ウイルス検査実証研究を開始へ

【第107号】ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

米国カリフォルニア州のチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)が、サンフランシスコ・ベイエリアで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に関する理解を深めることを目的として大規模な研究連携コンソーシアムを創設することを発表

第107号 2020.5.18公開

2020年4月29日、米国カリフォルニア州のチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)は、サンフランシスコ・ベイエリアで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に関する理解を深めることを目的として、総額1360万米ドルを拠出し、スタンフォード大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、チャン・ザッカーバーグ・バイオハブ(CZ Biohub)との間で、大規模な研究連携コンソーシアムを創設することを発表しました。

新たなコンソーシアムは、2つの長期的研究プロジェクトを支援することを表明しています。第1のプロジェクトでは、ベイエリアの人口構成を代表する地域市民約4,000人分の検体サンプルを収集し、カリフォルニア経済を安全に再開する方法や、ワクチンの登場までの間に感染を低レベルに抑制する方法についての意思決定を支援するために、重要なデータを提供するとしています。コンソーシアムは、手紙およびフォローアップの電話により、ベイエリアの地域住民に告知してプロジェクトへの参加者を募りますが、事前の新型コロナウイルス感染症に係るPCR検査で陰性と判定され、州の屋内退避指示に従っていることが、参加要件となるとしています。参加者は、2020年12月までの間、月1回、PCR検査および抗体検査を受け、その結果、陽性反応者のウイルスゲノムについては、CZ Biohubが、オープンソースのクラウド型次世代シーケンサー・プラットフォーム「IDseq」を使用して解析し、感染源や感染経路を特定する方針です。

第2のプロジェクトでは、ベイエリアの医療従事者で、事前にPCR検査で陰性と判定された人約3,500人を対象と想定しています。参加者は、週1回、少なくとも12週間継続してPCR検査および抗体検査を受けることになっています。収集したサンプルを基に、新型コロナウイルス抗体が再感染に対する保護作用があるか、あるとしたら、どれくらいの期間帰属するかなどを検証するとしています。

プライバシーに関して、CZIは、教育向けプライバシー原則、研究向けプライバシー原則、プライバシー/セキュリティ・バイ・デザインなどを柱とするプライバシーポリシーを設定し、個々のプロジェクトに適用しています。

政府規制に関して、連邦政府レベルでみると、保健福祉省(HHS)傘下の公民権室(OCR)が、新型コロナウイルス感染症緊急対応時におけるHIPAAプライバシー規則の適用条件緩和ガイドラインを発出する一方、食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルス感染症緊急対応に関連するPCR検査キット、抗体検査キットなどの市販前申請プロセスを迅速化する緊急使用許可(EUA)ガイドラインを発出するなど、パンデミック有事を重視した規制緩和策が講じられています。今後、米国およびカリフォルニア州内の経済が再開されれば、平常時レベルの医療関連法規制に戻るので、コンソーシアム組織としての法令変更対応が注目されます。

また、州レベルでみると、2020年1月1日、カリフォルニア消費者プライバシー法(CCPA:California Consumer Privacy Act)が施行されましたが、同法違反に対する執行措置は同年7月1日より適用開始予定となっています。CCPAでは、臨床研究や非営利組織について適用除外規定が設けられていますが、今回のコンソーシアムのように、産官学連携パートナーシップによるプロジェクトが複数展開される場合、個々のメンバー組織にどのようなインパクトを与えるのかが注目されます。

当該記事が関係機関に及ぼすと考えられる影響

医療機関

・今回の第2のプロジェクトでは、スタンフォード大学およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)傘下の病院が基幹的役割を担っており、COVID-19院内感染予防に寄与するアウトプットが得られるというメリットは非常に大きい反面、緊急事態宣言の緩和に伴う法規制等の改変が見込まれる中、事前のインフォームドコンセント取得から、PCR検査および抗体検査の実施、外部組織や外部技術リソースと連携した分析、アウトプットの共有・活用に至るまでのライフサイクルを通じて、複数医療機関の医療従事者から生成されるデータを、サードパーティを含む様々なステークホルダーによるコンソーシアム組織が取扱うことは容易でない。データリスクに係る事前評価やポリシーおよび手順の明確化、透明性の高いマルチステークホルダー型コミュニケーションなどが要求される。
 

医療機器メーカー/医療品メーカー

・COVID-19向けに製品・サービスを開発・提供するメーカーは、今回のプロジェクトで得られるベイエリアのポピュレーションヘルスに関連するデータを、自社で保有する研究・臨床データや外部の公開データなどと連携して活用できるかが、大きな鍵となる。連携するために必要な法規制対応や技術要件(例.データ相互運用性のための規格)、セキュリティ/プライバシー要件などを整理して、事前に評価しておく必要がある。

サプライヤー

・米国の場合、「医療・公衆衛生」だけでなく「情報技術」の従事者も、新型コロナウイルス感染症緊急対応下の「Essential Critical Infrastructure Workforce」に指定されている。IT関連製品・サービスを提供するサプライヤーは、今回のプロジェクトを、緊急時の事業継続管理(BCM)のユースケースとして捉え、実際に関与するITサプライヤーの運営組織体制やサポート体制、SLA、サプライチェーンリスク管理、サイバーインシデント対応などに関する情報を収集・分析し、自社の今後のBCM体制やコンティンジェンシープランを見直しておく必要がある。

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

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