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米国の医薬品トレーサビリティシステム開発が最終段階に入る

【第167号】ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

2022年10月10日、米国の連邦薬事委員会連合 (NABP) は、医薬品サプライチェーン安全保障法(DSCSA)相互運用性ネットワークの開発が最終段階に入ったことを発表しました。NABPは、全米の州・地域にある薬事委員会の連合体です。

第167号 2022.11.2公開

DSCSAは、偽造医薬品対策を目的として2013年11月27日に制定された連邦法であり、2023年11月に完全施行される予定となっています。食品医薬品局(FDA)は、同法に基づき、医療用医薬品に商品コード、ロット番号、有効期限、ランダム番号を含む2次元バーコードを表示し、医薬品製造業者から、再包装業者、卸売業者、サードパーティロジスティクス(3PL)プロバイダー、調剤者(医療機関・薬局)に至るまでのサプライチェーンの各段階で、トレーサビリティを電子的に管理するためのシステム構築を行うとしていました。

DSCSAでは、医薬品の受け渡しで所有権が移転するごとに、以下のようなデータ(保存期間6年)を次の所有者に提供することが求められます。

  • 取引情報(TI):製品名、規格用量、商品コード、ロット番号、取引日、取引に関わった両者の名称と住所など
  • 取引履歴(TH):製造業者から現在までの各取引情報の記録
  • 取引明細(TS): 所有権を譲渡する事業主体の記述

NABPは、DSCSAの相互運用性要求事項を満たす全米向けサプライチェーンネットワークの構築を担っています。2021年秋、州規制当局と連携して、ユースケース開発のための調査を開始し、2022年夏より、産業界の枠を越えたステークホルダーとともにパイロットプログラムを実施しています。今後、2023年の早期に主要ステークホルダー(大小規模の調剤者、卸売業者、製造業者)によるテストを実施し、2023年半ばに完全稼働させるとしています。NABPが開発した基盤プラットフォームは、各州当局およびサプライチェーンを構成する各業者に無償で提供される予定です。

なお、このような動きと並行して、FDAは、2019年2月にDSCSAパイロットプログラムの公募を開始しており、その一環として、ブロックチェーン/分散台帳技術(DLT)の医薬品トレーサビリティシステムへの適用可能性などの検証結果が公表されています。

当該記事が関係機関に及ぼすと考えられる影響

医療機関

・世界各国・地域において、医療機関は重要インフラストラクチャ事業者に該当し、サイバーサプライチェーンリスクマネジメントの一環として、厳格なサプライヤー管理を要求される。製造業者と調剤者の間を一意の商品コードでつなぐ医薬品トレーサビリティシステムの導入を契機に、医療機関は、IT部門/情報セキュリティ部門と調達部門の連携を強化しながら、サプライチェーンセキュリティ管理策の効率化を図るべきである。
 

医療機器メーカー/医療品メーカー

・医療機器に関しては、すでにFDAが固有識別子(UDI)システム規則を導入しており、医薬品トレーサビリティシステムの完全導入により、医療器/医薬品メーカーが、一意の共通コードで製品物流の状況を即座に把握できる仕組みが完成することになる。今後、ブロックチェーン/分散台帳技術(DLT)に代表されるWeb 3.0やIoT/エッジコンピューティングの導入・実装で注目される領域でもあるので、日本企業のIT部門/情報セキュリティ部門は製品セキュリティリスク管理の観点から動向をウォッチしておく必要がある。
 

サプライヤー

・医薬品サプライチェーンシステムの開発・運用を受託するパートナー/サプライヤーは、米国における医薬品トレーサビリティシステムの完全導入が、メーカー/卸売/医療機関間のサプライチェーンセキュリティ対策にもたらすインパクトについて評価・分析を行い、米国以外の国・地域のセキュリティリスク管理に生かすことを検討すべきである。

本ニュースでは海外で公表された資料の内容の一部を日本語に翻訳しています。デロイト トーマツでコメントを加筆している箇所を除き、内容および解釈について日本語版と英語版に齟齬がある場合は、関連記事リンク先の原文を優先します。

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