最新動向/市場予測

米国NIHが新たなデータ管理・共有ポリシーを施行

【第172号】ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

2023年1月25日、米国立衛生研究所(NIH)は、「データ管理・共有(DMS)ポリシー」を施行しました。

第172号 2023.1.25公開

このポリシーは、科学における信頼性と透明性を高めるために、研究データの利用可能性と再利用性を最大化する一方、研究データの管理・共有の規範を構築することを目的としており、NIHの研究資金を受けて、科学データを利用した研究を行うプロジェクト(米国外を含む)に適用されます。NIHは、2020年10月29日に同ポリシーの最終版を公表していました。

NIHは、科学データについて、以下のように定義しています。

  • 科学データ=データが学術出版物をサポートするために利用されたかに関わらず、研究成果を検証し再現するために十分な品質があると、科学コミュニティに共通して受け入れられたデータ
    • 科学データには、研究成果を検証し、再現するために必要なすべてのデータが含まれる
    • 科学データには、実験ノート、予備分析、完了済症例報告書、科学論文の草案、将来の研究計画、ピアレビュー、同僚とのコミュニケーション、実験用検体のような対象物は含まれない

DMSポリシーは、NIHの所内研究責任者に対して、以下のようなことを求めています。

  • 科学データの管理・共有のために、先を見越して計画する
  • DMS計画を提出する
  • 承認された計画を遵守する

そして、DMS計画に含まれる要素として、以下のような項目を挙げています。

要素1. データのタイプ:

 A.プロジェクトで生成が見込まれる科学データのタイプと分量

 B.保存・共有される科学データとそうする根拠

 C.メタデータ、その他の関連するデータと関連する文書

要素2. 関連するツール、ソフトウェア、および/またはコード

要素3. 標準規格

 A.臨床プロトコル向けのデータ標準規格 - 共通データ要素(CDE)

 B.すべての計画向けのデータ標準規格

要素4. データの保存、アクセス、関連するタイムライン

 A.科学データとメタデータをアーカイブ化するレポジトリ

 B.科学データが発見可能で、識別可能にする方法

 C.科学データが利用可能になる時と方法

要素5.アクセス、配布、再利用の考慮事項

 A.後に続く科学データへのアクセス、配布、再利用に影響を及ぼす要因

 B.科学データへのアクセスが制御されるか否か

 C.人間の研究参加者のプライバシー、権利、機密性に対する保護

要素6.データ管理・共有の監視

要素7.その他の要素(該当する場合)

なお、国際共同臨床試験のように、国境を越えてデータの共有を行う場合、米国外でデータを収集する海外機関の研究責任者や米国の研究責任者は、申請書の計画の中で作業し特別な制限に取り組むことを計画する国において、データ共有のガバナンスに係るポリシーに慣れ親しんでおく必要があるとしています。2023年1月25日以降、NIHの資金助成を受けた国際共同研究に参加する日本の研究機関や民間企業は、DMSポリシーに準拠したデータマネジメント体制を整備しておく必要があります。

当該記事が関係機関に及ぼすと考えられる影響

医療機関

・NIHの資金助成を受けた国際共同研究プロジェクト向けに保健医療データを提供する日本国内の医療機関は、国境を越えた2次利用に際して必要な説明および同意取得が適正に行われていることを確認した上で、データを利用する海外の第三者組織や目的、アウトカムなどに関する情報やそれに対するフィードバックなどを、患者と相互にやりとりできるソーシャルコミュニケーションの仕組を構築する必要がある。
 

医療機器メーカー/医療品メーカー

・NIHの資金助成を受けた国際共同研究プロジェクトに参画するメーカーは、自社の保健医療データ利用が、DMSポリシーを遵守し、適正に実施されていることを患者や医療機関に説明できるようなデータガバナンスの仕組を構築し、研究プロジェクトのデータライフサイクルにおける役割・責任分担や情報共有機能、インシデント対応時のコミュニケーション体制などについて、再点検しておく必要がある。
 

サプライヤー

・NIHの資金助成を受けた国際共同研究プロジェクト向けにデータマネジメント関連製品・サービスを提供するサプライヤーは、データ2次利用側の研究組織および構成研究機関・企業だけでなく、1次利用側の医療機関との間で、データライフサイクルに係る問題が発生するケースが多くあることを認識した上で、データ処理プロセスの手順やリスク管理上の責任分担、さらには予防的対策について再点検し、リスク低減に努めておく必要がある。

本ニュースでは海外で公表された資料の内容の一部を日本語に翻訳しています。デロイト トーマツでコメントを加筆している箇所を除き、内容および解釈について日本語版と英語版に齟齬がある場合は、関連記事リンク先の原文を優先します。

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する海外サイバーセキュリティニュース

デロイト トーマツ グループのサイバーセキュリティチームでは、ライフサイエンス・ヘルスケア業界に向け、海外の規制情報やそれに伴う関係業界への影響について情報提供しています。(不定期刊行)

>>過去記事のアーカイブから他の記事を見る

サイバーリスクサービスのお問い合わせ

サービス内容、並びに、取材・広報・講演依頼に関するお問い合わせは、下記フォームにて受付いたします。お気軽にお問い合わせください。 

>> オンラインフォームよりお問い合わせを行う <<

お役に立ちましたか?