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Kunoichi Cyber Game参加レポート:サイバーセキュリティ人材の拡大に向けて

2024年11月14日から15日に「Kunoichi Cyber Game」が東京で開催された。 若手女性サイバーセキュリティエンジニアのスキル向上と国際的なネットワーク構築を目的とした世界初の女性だけの国際大会である。この大会が日本国内で開催されたことは意義が大きく、デロイト トーマツ サイバー合同会社は、若手女性の活躍推進を応援するため、スポンサーとして参加した。

Kunoichi Cyber Gameとは

情報セキュリティ関連の国際会議CODE BLUEの一環として、女性活躍にスポットライトを当てたKunoichi Cyber Gameという若手女性対象の国際CTFイベントが行われた。大会には日本、英国、米国、欧州からU30の代表選手が集結し、8時間に渡る試合が繰り広げられた。

Capture the Flag(キャプチャー・ザ・フラグ)とは、特定のファイル内やウェブサイトの隠しページ、インターネットの通信データなどに隠された文字列(フラグ)を獲得し、その得点を競うゲームである。参加選手にとっては、磨き上げてきた暗号化技術やフォレンジック、リバースエンジニアリングなどのサイバーセキュリティスキルを発揮する場だ。会場には選手のみならず、各チームのコーチやスポンサー企業と政府機関も集まり、熱気に溢れた。

今回のイベントは、サイバーセキュリティ分野における女性の活躍を後押しするための大きな一歩となったのは間違いない。しかし、サイバー業界における人材不足の深刻さは続いており、特に女性の割合が少ないという課題があるのも事実である。そこで、サイバーセキュリティの女性活躍に関する実態を検討したうえで、Kunoichi Cyber Gameを通じて再確認できた課題と解決方針について考察する。

サイバーセキュリティ業界における女性活躍の現状

ISC2が実施した2023年の調査*1によると、サイバーセキュリティ業界に占める女性の割合はおよそ20~25%である。なぜこのような状況にあるのかを探るため、デロイトはThe Female Quotientとともに「POV Reimagined: Women in Cybersecurity」*2という調査報告書を2024年に公開した。この調査により浮き彫りとなった実態の一部として、以下に記載する3つが挙げられる。

① サイバーセキュリティに対する関心が薄い

サイバーセキュリティのキャリアに対する関心について、「興味がない」と回答した女性が39%なのに対し、男性回答者は29%にとどまっている。さらに、日本の回答者(性別問わず)の39%が「サイバーセキュリティは男性の方が興味を持ちやすい職業である」と回答した。このように回答した人の割合の多さを見ると、調査対象の10か国のうち、日本が二番目に多い。女性の方が実際にサイバー業界への関心が薄い実態に加え、「女性の方が関心が薄いであろう」という考えはサイバー業界に対する印象となっていることがわかる。

② サイバーセキュリティの知識やスキル不足を障壁として捉えている

サイバー業界に興味はあっても、職業として選択する際に知識やスキルが不足していると感じている女性が50%(男性は41%)という結果であった。これは、実際に女性の方が必要なスキル等が不足していることを示すわけではなく、知識やスキルの習得を障壁として捉え、サイバー業界をキャリアとして選択しない可能性があることを示すと考えられる。

③ サイバーセキュリティのキャリアパスが不透明である

サイバー業界の職業として多くの回答者が挙げたのは「コンピュータスペシャリスト」(75%)と「データスペシャリスト」(73%)であった。実際はより多様な職種があるところ、回答者はその実態を認知していないことが明らかになった。

*1 参考:
https://www.isc2.org/insights/2024/04/women-in-cybersecurity-report-inclusion-advancement-pay-equity

*2 参考:
https://info.thefemalequotient.com/hubfs/The%20Female%20Quotient%20Deloitte%20Women%20in%20Cybersecurity%20Research%20Report.pdf

女性活躍推進における課題と解決策

上に述べた3つの問題をKunoichi Cyber Gameの参加者の声や考察と合わせた際に浮かび上がる課題と解説方針を提案する。

①  まずは興味から:サイバー業界への第一歩

サイバーセキュリティ業界への女性参入を促すためには、そもそもサイバーに興味を持つきっかけを作る必要がある。Kunoichi Cyber Gameで会話した選手も、多くは何かしらのきっかけによりサイバーセキュリティの面白さに気付き、興味を抱いたことによりサイバー業界に足を踏み入れたと言う。子どものときから興味を醸成することが理想であるが、年齢問わずサイバーセキュリティに触れ、魅力を感じられる環境を整えることで、よりサイバー業界に関心を持つ人材を増やすことができるであろう。

サイバー業界に関心を持ってもらう環境作りには、「ゲーム化」という概念が欠かせない。ゲームの要素を取り入れることで、想像がつきにくいサイバーの世界に身近さが生まれ、学習やタスクに対する達成感や楽しさが増強される。特に子どもや若い世代にとって、ゲームは親しみやすい学習形態であり、「もっと知りたい」という意欲を掻き立てる原動力にもなり得る。

例えば、英国の国家サイバーセキュリティセンターは、CyberFirstという教育及び奨学金制度を運用しており、その一環として若い女性向けの「CyberFirst Girls Competition」を開催している。女子中学生が暗号やコーディングに関するパズルなどを解読し、チーム対抗戦形式で競い合うプログラムである。ゲーム化は、複雑なテーマに面白さやチームワークの要素を加え、サイバーをよりアクセシブルにするための重要な手段だと考えられる。

②  興味の次は学習:育成環境の確立

ゲーム化などにより、サイバーへ興味を持つ人材を増やしたとする。しかし、その人材にとって学び方や学べる場所が不明確な場合、せっかくの興味は成長に繋がりにくい。

Kunoichi Cyber Game各国の選手たちはどのようにサイバースキルを学んできたのか聞いてみたところ、育成機関での体系的な学び、実践的な応用学習、そして自らのペースで進める自己学習のバランスが重要だと教えてくれた。それぞれの学び方に利点があり、総合的に実施することで最も成長できると言う。

そのような考えのもと、体系的な学びと実践的な学習を掛け合わせる制度が近年増えている。例として、豪州のサイバーアカデミーという人材育成プログラムがある。サイバーアカデミーは、サイバーセキュリティのバックグラウンドを持たない人でも即戦力となる人材の育成と国家全体におけるサイバー人材を増やすことを目的としたプログラムである。同プログラム参加者は、週の2日はサイバーに係る大学の授業を受け、3日は企業や政府機関でサイバー関連業務に従事する。体系的な学習で習得したスキルを実践することにより、即戦力となる人材の輩出が可能となる。

また、サイバーセキュリティを体系的に学べる制度を増やすことも重要であるが、自己学習を支援するような環境も個々の成長を促すために必要な要素である。今回のイベントに出場していた米国チームは、コーチ制度を導入することで、自己学習を進める選手のサポート体制を確立している。米国チームが属するUS Cyber Gamesとは、サイバーに興味を持つ若手「選手」とサイバー業界の先輩である「コーチ」でチームを編成し、国際的なCTF大会等へ出場するプログラムである。コーチはボランティアベースで選手の育成に力を注ぎ、時にはキャリアの相談にも乗るそうだ。独学でスキルアップする意欲ある若者が多い一方、先輩からの助言やサポートは自習のみでは得られない貴重な成長材料となる。

③  キャリアとしてのサイバーセキュリティ:キャリアパスの可視化

サイバーに興味を持ち、学習も進めている人材にとって、キャリア選択は自然なネクストステップである。しかしながら、サイバー業界のキャリアパスは未だ不明瞭な部分が多く残る。医者や弁護士になりたい場合、何を学び、どのようなキャリアパスを辿れるか、ある程度想像がつく。比べて、サイバーセキュリティはどうだろうか。どのような職種があるのか、どのような仕事をするのか、サイバーの道を歩めば10年後どこにたどり着くのか、疑問は多いが簡単に答えが見つかるものでもない。

欧州チームのコーチは上記のような現状に対し、「キャリアパスを可視化することによって、キャリア選択の不安感を軽減できる」と語った。キャリアパスの可視化は、例えば豪州政府が提供するAPS Career Pathfinderのようなサイバーの職種やキャリアパスを検索できるツールで実現できる。このツールは、自身のスキルや興味を入力することで、自分に合ったキャリアを提案してくれる機能も付いている。分野の新しさもあり、キャリアパスが想像しづらいサイバー業界だからこそ、ツール等による可視化はキャリア選択の一助となると考えられる。

さらに、既にサイバー業界で働く人たちがどのような業務をしているのか、どういった一日を過ごしているのかなどを紹介することで、よりサイバーセキュリティというキャリアを可視化することも有効である。デロイト トーマツ サイバー合同会社では、女性活躍推進を目指すグループWomen in Cyber主導の「DTCYで働くわたしの1日~多様な働き方~」という企画でサイバーセキュリティ従事者の1日を紹介している。情報を積極的に発信していくことで、サイバーの世界で活躍する自身の姿が想像しやすくなるであろう。

まとめ

Kunoichi Cyber Gameでは、各国の女性人材がサイバーに関する高いスキルと才能を示したことで、女性人材の拡大及び活躍推進が業界全体の発展に不可欠であることを再認識させるものであった。今後さらに女性人材を増やすためには、既存の取組を踏まえ、サイバーに対する興味を醸成するような制度を増やし、体系・実践・自己学習を包括的に支援するような育成環境を整備し、サイバー業界でのキャリアパスをより可視化することが必要だと考えられる。そうすることで、誰もが躍進できる業界を築いていけることが期待できる。

採用情報

デロイト トーマツ グループでは、サイバー分野で活躍する女性を支援しています。採用情報については、こちらをご確認ください。

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