ナレッジ

東日本大震災後の企業のCSR活動について調査結果を公表

上場企業の時価総額上位100社を対象に実施

デロイト トーマツ 企業リスク研究所が、東日本大震災後の企業のCSR活動について、上場企業の時価総額上位100社を対象とし、企業WebサイトやCSR報告書などの公開情報を基に実施した調査の結果を公表する。本調査から本震災に対して、企業の取り組みが多数行われていたことが確認でき、また事例から、質的にも各企業が特徴を生かしながら、積極的に支援を行っていたことが読み取れる。

調査結果サマリ

‒ 約9割の企業で支援を実施、支援の内容は寄付(84%)、物資提供(55%)、人材の派遣(29%)

‒ 5割超の企業で翌営業日に、約8割の企業が1週間以内に寄付を決定・公表、金額は1億円以上2億円未満が最多(35%)

‒ 各社が得意分野や企業活動を通じた支援で独自性を発揮

 

リスクマネジメント等の調査・研究を行っているデロイト トーマツ 企業リスク研究所は、東日本大震災後の企業のCSR活動について調査を行い、その結果を公表した。この調査は、上場企業の時価総額上位100社を対象とし、企業WebサイトやCSR報告書などの公開情報を基に実施した。本調査から今回の震災に対して、企業の取り組みが多数行われていたことが確認でき、また事例から、質的にも各企業が特徴を生かしながら、積極的に支援を行っていたことがわかった。

今回調査を行った企業の9割が、寄付、物資の提供、人材(ボランティア)の派遣のうち1つまたは複数の支援を実施しており、企業における支援の姿勢が鮮明になっている。

活動ごとの実施状況では、寄付が84%(84社)、物資提供が55%(55社)、人材の派遣が29%(29社)(複数実施している企業等があることから、合計は100%とならない)となっている。

物資の提供や人材の派遣を行っている企業の大部分は寄付も合わせて行っており、また数値からも、寄付よりも物資の提供、さらに人材の派遣の難易度が高いことがうかがえる。物資の提供や人材による支援に関しては従前からの企業の意思決定と準備が必要であることが推察される。寄付、物資の提供、人材の派遣のすべての分野で支援を行った企業も2割(20社)あった。

業態別の支援実施状況を見ると、製造業の65%、非製造業の40%が物資の支援をしている。製造業では自社製品などを持っていることもあり、物資提供が多いことが特徴として現れている。このように支援を実施した企業の多くで、得意分野を生かしたり、企業活動とかかわりの深い、本業に係る支援活動が行われている。寄付・人材・物資以外で各社の特徴ある支援として、自治体やNGOなどへのサービスの無償提供(通信サービスの無償利用等)や、ポータルサイトや携帯電話関連の企業での情報網を活用した支援(震災関連情報の提供や一般からの義捐金を募集するサイトなど)、被災地での利用料金特別措置や特別料金による自社製品の修理サービスの提供などが公表されていた。また、自社の事業所が被災地周辺に立地しているケースで、被災地の雇用拡大のために事業拡大や新工場の建設を決めた例もあった。

企業による震災後の支援が多かった理由としては、今回の被害の大きさもさることながら、近年の災害支援を含めたCSR活動の定着などにより、従来の事業活動の枠を超えた幅広い社会ニーズに対する、企業の意識が高まってきたことが挙げられる。

金銭的な支援(寄付、義捐金等)

今回調査対象とした企業のうち、84%(84社)で金銭的な支援を行っている。その平均的な支援額は4.4億円、金額帯としては1億円以上2億円未満が最も多く、寄付実施企業の35%(29社)が該当する。一方で10億円以上の支援を決定した企業も同10%(8社)ある。また、寄付を実施した企業の5割以上が、震災後2営業日にあたる週明けの月曜日までに支援の決定(公表)を行っており、震災発生後1週間以内に支援の決定(公表)を行った企業は約8割に上っている。支援先としては、赤十字社、自治体、共同募金などが多数だが、NPOを寄付先とするケースも少なからず見られる。さらに、目的に応じて複数の寄付先を選定する事例や、自ら基金を設置して継続的に支援を行う事例など、寄付の用途にまで深く踏み込んだ事例が見られることも特徴である。

※今回の調査は、企業としての寄付を対象としており、経営者や従業員、顧客による寄付は含まれない。

 

震災発生後直ちに支援の決定を行った企業には、迅速な意思決定を行うための仕組みが見られる。例えば、「事前に支援先を含めた災害発生時の対応を定めていた」、「災害発生時に当面の一時的な支援を決定し、その後災害の規模に応じた最終的な支援を決めた」、などが挙げられる。また、今回は企業のみならず従業員個人から義捐金を募るケースも多く見られた。マッチングギフト形式といわれる従業員からの義捐金に企業が同額を追加する義捐金プログラムを運用している企業も数社見られた。さらに、経営者層による1億円を超えるような大規模な私的支援も、複数件行われている。

物資の提供

今回調査対象とした企業のうち、55%(55社)で物資の提供を行っており、製造業による自社製品の提供などが広く行われていた。また、緊急物資として避難所での当面の生活に必要な生活物資(生活用品:32件、食料品・飲料:26件、等)の提供などは、製造業に限らず様々な企業が行っている(複数実施している企業があるため合計件数は社数と一致しない)。

以下は特徴的な事例である。

‒ 大手小売店では事前に所在地の自治体と有事における物資提供の協定を締結していたケースもあり、そのような地域では速やかに大量の物資提供が行われた。

‒ 避難所における生活の長期化を見据えて、遊具や文房具、絵本など、子供向けの支援物資の提供もいくつかの企業で見られた。

‒ 社有機を活用し、福島方面への医薬品の輸送を行った。

‒ 被災地域における雇用創出に協力するための取り組みとして、津波で大きな被害をうけた漁業の復興支援に向けて漁業協同組合への漁船提供を行った。

人材(ボランティア)の派遣

今回調査対象とした企業のうち、29%(29社)でボランティアの派遣を行っており、NGOや自治体と連携もしつつ活動を行っている。活動内容としては、泥のかき出しやがれきの運搬等の復旧支援(16件)や、炊き出しや支援物資の搬入・仕分けなどの避難生活支援(8件)などが多くあった(複数実施している企業があるため合計件数は社数と一致しない)。被災地域に立地する事業所のみならず、他の地域から従業員を派遣するケースも多く、従業員のボランティア実施に対して企業として様々な支援が行われている。近年のCSR活動の拡充策の一つとして、ボランティア休暇制度など社員のボランティア活動を進めるための仕組みを整備する動きがあったが、今回の震災を受けて仕組みの整備や強化を図る企業も見受けられた。

以下は特徴的な事例である。

‒ ボランティアの種類としては、がれき撤去などの現場復旧に関する支援から、支援物資の振り分け・配布、被災した子供たちの心のケアやスポーツによる被災者とのふれあいなど、被災者の生活や心のサポートまで多岐にわたる。

‒ 医療チームの派遣や重機オペレーターの派遣など、自社独自のノウハウをボランティア活動に活かす企業もみられる。

‒ 年間1,000名超の規模での派遣を計画する企業や、新入社員によるボランティア活動の実施など、組織としてボランティア活動を計画している企業も今回見られる。これまで主体であった、従業員個人による自発的なボランティア活動の支援から、さらに踏み込んだ内容となっている。

‒ 震災により被害を受けた水田を再生する、といった産業振興に関わるボランティアを立ち上げた事例も見られた。今後ボランティア活動も、復興に向けた継続的な支援にシフトしていくと推測する。

その他の特徴的な活動

‒ 家族が被災した子供たちや学生に対して、学業を続けていくための奨学金などの支援の事例もあり、企業が長期的な視点で支援を行っている。

‒ 実業団チームを保有している企業では、本来の目的であるスポーツ振興とも合致した形で、被災地でのスポーツ教室の開催やチャリティーイベントの実施など、その存在を生かした支援も行っている。

‒ イベントの実施や、店頭等での義捐金の受付など、顧客や関係者と協働した活動を行う企業も多く見られた。

‒ 被災地の物産販売会を社内で行う、被災地の食材を積極的に社員食堂で取り扱うといった、従業員の協力の元で復興支援の取り組みが行われている。

 

今回の震災に対する企業の対応を受けて、今後の企業のCSR活動全般に対する社内外の期待がさらに高まることも十分に考えられる。この期待に対してどう対応していくかが、各企業の次の課題となるでろう。CSR報告書等では、経営者が今後の復興への貢献を明言している事例も少なからずあり、東日本大震災からの復興支援に特化した組織(震災復興支援室、社会貢献・災害復興支援グループなど)を設立し、継続的な支援を行っていくことを内外に明確にしている企業もあった。また、特にインフラや生活に密着した製品・サービスを提供している企業では、震災によって、改めて自社サービスの安全や有事における対応について見直し、継続したサービスを実現できることこそが復興である、というように社会における本業の意義や重要性を確認する機会にもなっているようである。このことから今後、ますます自社が社会にどのように貢献するのか、という視点を意識した事業活動が大切になっていくと推測される。

 

調査概要

対象企業:上場企業時価総額上位100社(四季報のデータを基に抽出)

実施期間:2011年8月8日~8月12日

実施方法:企業WebサイトやCSR報告書などの公開情報を基に調査

お役に立ちましたか?