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今からでも遅くない紛争鉱物規制の理解【後編】

国内外の主要業界の動きや他社事例

紛争鉱物規制の理解に向けて、2012年5月16日~2012年7月5日までの期間で全8回の記事を連載した。本稿では後編となる、第5回(2012年6月13日)~第8回(2012年7月5日)を紹介する。

第5回:適用対象会社は何をする?

適用会社は次の対応が必要であることを前回述べた。
ステップ1:報告義務があるかの判定
ステップ2:原産国調査の実施
ステップ3:デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出
今回は、具体的にどのように対応するのかを、現状のSEC規則案(※)の内容を基に説明していきたい。

ステップ1:報告義務があるかの判定
ステップ1では、まず対象企業が製品の機能又は製造において、紛争鉱物の対象となる4種の鉱物が「必要」であるかどうかを判断する。そのためには、自社の製品やその中に含まれる部品、パッケージがどのような材質であるか、4種の鉱物が含まれているのか、ということを把握しなくてはならない。留意点については、連載第3回の紛争鉱物を必要とする者に該当するケースが参考となる。

「必要がある」と判断した場合は、ステップ2へ進む。

ステップ2:原産国調査の実施
ステップ2では、自社で「必要」としている4種の鉱物に対して「合理的な原産国調査」(reasonable country of origin inquiry)を実施し、紛争鉱物がコンゴ民主共和国又はその周辺国(以下、「DRC等」という)において産出されたものであるかどうかを判定する。
規則案では、「合理的な原産国調査」の例として、「陳述書」(Representations)を紛争鉱物の処理施設からサプライヤー経由で入手することが挙げられている。ただし、入手した「陳述書」が信頼できるかを、例えば外部第三者による監査などで確かめる必要性についても言及されている。なお、「合理的な原産国調査」では、以下に留意する必要がある。

(1) 大量に使用している一部の鉱物や製品だけを対象として判断することは出来ない。
(2) DRC等の産出である証拠が無いというだけでは、DRC等産出の紛争鉱物がないとの理由として不適切である。

「DRC等産出である、又は不明」と判定された場合は、ステップ3へ進む。なお、調査の結果「DRC等産出でない」と判定された場合は、その旨をアニュアルレポート本文において開示する。

ステップ3:デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出
「合理的な原産国調査」を実施した結果、「DRC等産出の紛争鉱物を使用している」場合、または「DRC等産出の紛争鉱物を使用していないと特定できない」場合、会社がデューディリジェンス手続を実施する。デューディリジェンスとは「払われるべき努力」を意味し、M&Aに先立つ買収対象会社の調査にて実施されることが多いため、調査活動という意味合いを持つことが一般的に多い。紛争鉱物規制では、第4回で述べたようにOECDガイダンスの使用が奨励されており、先に述べた合理的な原産国調査よりも踏み込んだ内容となっている。その結果については、アニュアルレポート上で開示するとともに、紛争鉱物報告書を提出することが必要となる。また、紛争鉱物報告書は独立した監査人による外部監査を受ける必要がある。必要となる開示の内容については、次回(第6回)の連載で説明をしていく。

※2010年12月15日公表。規則案の内容は、最終規則となるまでに変更される可能性がある。なお、SECによると、最終規則は2012年6月末までに発行される予定となっている。

 

第6回:どんな開示が必要となるのか

紛争鉱物に関する開示は、SECの規則案(2010年12月15日公表)の3つのステップの該当状況により異なるため、以下ステップごとにどのような開示が必要となるのかを示す。

ステップ1:報告義務があるかの判定

製品の機能又は製造に紛争鉱物(スズ鉱石、タンタル、タングステン、金)が必要なければ、開示は不要である。しかし、当該紛争鉱物が必要であれば次のステップ2以降で開示が必要となる。

ステップ2:原産国調査の実施
合理的な原産国調査を実施し、コンゴ民主共和国又は周辺国産出の紛争鉱物を製造等で使用していないことが明らかになった場合には、その旨と合理的な原産国調査の内容をアニュアルレポートとウエブサイトに開示することになる。しかし、当該諸国の紛争鉱物を製造等に使用しているあるいは、それを特定できない場合には、ステップ3の対応とその開示が必要となる。

ステップ3:デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出
デューディリジェンス手続を実施した結果、以下の内容をアニュアルレポートで開示し、独立した監査人による外部監査を受けた紛争鉱物報告書の提出が必要となる。
・紛争鉱物を製造等に使用している旨又はそれが判断できない旨
・紛争鉱物報告書とそれに対する監査報告書をアニュアルレポートに添付している旨
・紛争鉱物報告書とそれに対する監査報告書を掲載しているウエブサイトのURL

紛争鉱物報告書は、SECへの提出書類(10K、20F等)の付属書類として提出され、その記載内容は以下の通りである。
・紛争鉱物の産地まで遡るサプライチェーンに対して実施したデューディリジェンス手続の内容
・紛争鉱物を使用した製品名、当該鉱物の産地国名、当該鉱物を処理する施設(精錬所等)、産出鉱山又は産出地を特定するための取り組みについての可能な限り具体的な記述
・外部監査を受けた旨とその監査報告書
 

第7回:国内外の主要業界の動きは?

紛争鉱物規制を受け、業界団体でも対応の動きが広まっている。

特に進んでいるのは、電子業界のElectronic Industry Citizenship Coalition(EICC)と、情報通信業界のGlobal e-Sustainability Initiative (GeSI)である。EICCとGeSIはいずれもグローバルな団体であり、武装勢力との関わりを持たない製錬所(Conflict-Free Smelter: CFS)を認定するプログラムや、デューディリジェンスでの使用を想定したサプライヤーへの問い合わせツール(Conflict Minerals Reporting Template & Dashboard)の開発などを行っている。

日本では電子情報技術産業協会(JEITA)が、EICC/GeSIと連携して紛争鉱物規制への対応を推進しており、責任ある鉱物調達検討会を立ち上げている。

また、自動車業界でも、米国のAutomotive Industry Action Group (AIAG)が、ワーキンググループ(Conflict Minerals Work Group)を立ち上げ、ガイダンス作りなど対応の検討を進めている。

一方で、サプライチェーンの上流に近い金属業界でも、取組みが行われている。紛争鉱物のひとつである錫(スズ)のグローバルな業界団体であるInternational Tin Research Institute (ITRI)では、 ITRI Tin Supply Chain Initiative (iTSCi)を掲げ、鉱山から精錬所までのデューデリジェンスの実現や、武装勢力との関わりを持たない紛争地域の鉱山からの調達の促進などを目指して活動をしている。

さらに、貴金属の地金を扱う業界のLondon Bullion Market Association(LBMA)では、紛争鉱物規制もその背景として、金に関する同協会のグッド・デリバリー・バーの認証を維持するためには、人権侵害等を避けるためのサプライチェーン管理と、その活動に対する外部の第三者による監査(audited by independent and competent third parties)が必要となることを謳っている。

 

第8回:参考になる他社事例はあるか?

武装集団との資金的関係を絶つため、国内外の多くの企業が自主的に取組みを始めている。例えば、社内関係部門の教育、サプライヤーに対する調査、業界団体における活動など多岐にわたる。ここではその先進的取組みの一部を紹介する。

紛争鉱物問題に積極的に取組み、紛争鉱物の使用状況に関する開示を行っている企業にインテル社がある。インテル社は、武装集団の資金源となる紛争鉱物を自社のサプライチェーンから排除していく目標を、2012年5月に発表した。目標においては、自社が製造するマイクロプロセッサーで使用されるタンタルが紛争鉱物に該当しないことを今年中に証明することを掲げている。また、2013年までには、マイクロプロセッサーに紛争鉱物が一切使われていないことを証明する目標を掲げている。既にインテルは2009年より取引のある製錬所への立入調査を自主的に始めており、2012年5月現在では13ヵ国における50ヵ所の製錬所に立入調査を実施した。

アップル社及びHP社は、開示に積極的な会社の一つである。両社は自社製品のサプライチェーンの把握を進めており、紛争鉱物を取り扱う部材納入業者と、それらの原材料の調達元となっている製錬所の調査を行っている。また、アップル社はこれまでに34の製錬所に対して、紛争鉱物に係る対策について指導している。国内では、千住金属工業が、Electronic Industry Citizenship Coalition(EICC)の定める行動規範及び声明の遵守と、武装集団の資金源となる紛争鉱物の排除徹底に関する取組について、自社のホームページにて開示している。

企業は自主的な取組み以外にも政府機関や業界団体、NGO団体を含め、様々なステークホルダーと連携して取組みを進めている。なかでも前回(第7回)の連載で紹介したEICC及びGlobal e-Sustainability Initiative (GeSI)は、「武装勢力との関わりを持たない製錬所」を展開している。同プログラムは、第三者機関が製錬業者の調達活動を評価し、紛争に関わらない製錬所の認定を行うことを企図したものだ。2012年6月現在では既に12社のタンタル製錬所及び3社の金製錬所が同プログラムより認定されており、国内企業では三井金属鉱業のタンタル製錬所が2011年11月に認定されており、アサヒプリテック及び田中貴金属工業の金製錬所が2012年6月に認定されている。

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