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不正発生の原因に向き合う

商工中金・関根社長に聞く:不正発覚後に組織風土を変革するには(前編)

企業の不正・不祥事の原因としてよく指摘されるのが「組織風土」です。不正再発防止策の1つとして「風通しの良い組織作り」、「上にモノを言える風土」の醸成が掲げられます。しかしながら、組織風土は長い年月をかけて培われるものであり、変えることは簡単ではありません。どのような取り組みを行えば、組織風土改革を実行することができるのでしょうか。

不正融資事件で揺れた株式会社商工組合中央金庫(商工中金)の組織風土改革を主導した関根社長と、コンプライアンス統括部署責任者の明石氏に、同社の取り組みとその成果について、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の中島祐輔と三木要がお話を伺いました。

なお、本記事掲載の意見に当たる部分は個人の見解であり、組織の見解ではありません。取材日:2022年8月3日、肩書は当時。

 

※当記事はFinancial Advisory Portal 「DTFA Times」に掲載された記事を一部改訂して転載しています。

組織風土改革の取り組みに当たって

中島
商工中金の社長に就任後、どのような思いで組織風土改革を進めてこられましたか。

三木
組織風土を変革するために、まず何から手を付けるべきかを決めることは、永遠のテーマではないかと思います。関根社長の不正改革においては「組織風土改革」が柱とのことですが、4年間という短期間で多くの成果を挙げてこられた関根社長は、何を考えられて、どんな手を打ってこられたのか、お聞かせいただけないでしょうか。

関根
商工中金の不正は、まさに組織風土から生まれたものです。マネジメントのあり様が悪かった。2021年度までの中期経営計画では、新たなビジネスモデルの確立、経営の合理化、コンプライアンス体制の確立が、3つの柱とされていました。しかしながら、これらを表面的に実施したとしても、組織風土そのものを変えていかなければ何も変わらないと思っていました。正直に言えば、商工中金に移る前に第三者委員会の報告書などを読んで、なぜこうなってしまったのか、ある程度わかった気がしました。だからお引き受けしたという経緯があります。

言い古されたことですが、組織が不祥事を起こすときには、常に「風通しの悪さ」があります。その背後には、上意下達や同質性の高さ、隠ぺい体質、過度な業績プレッシャーという4つの要因があります。つまり、この悪の権化といえる4つの要因を根本的に無くしていかなければいけない。それをせずに、表面だけをクリーンにしようとしても、また同じ不正を繰り返す。何度でも繰り返す。不正を起こす組織を変革するには、経営者も組織も社員も、変わらなくてはいけません。今回、私は新しい経営者だからいいですが、そうでない場合は、経営者自らが変わらなければいけないと思います。

中島
不正発生は銀行員のメンタリティに起因するものもあると思いますが、どのようなものがありますか。

関根
業績を上げたい。評価されたい。恰好をつけたい。加えて、自己保身的な点でしょうか。難しいのは、評価されたいと思うこと自体は悪いことではない一方で、その思いが歪むと問題になる点です。前述した同質性も、本来は悪いことではありません。皆が結束して同じ方向を向いて進むというのは、すごくいいことだと思いますが、一歩間違えると、間違えた方向に突き進んでいってしまう。加えて、同調圧力が生まれ、組織の常識を疑問に思う者を排除してしまう結果、皆で間違ったことを真面目にやり続けてしまう。そこに不正も起こるわけですが、皆、会社のためだと思ってやってしまう。

商工中金の不正もそうでした。最大の理由は業績プレッシャーです。こうすれば上司にも会社にも喜ばれる。結果として自分の評価も上がるわけですが、決して個人の利得のためには行っていない。商工中金の場合、利得を懐に入れた人間は1人もいない。ただ会社に評価されたいだけなのです。業績至上主義がいけないのです。業績だけでしか評価されない組織では、業績をあげるためには何をやっても許されるという雰囲気になってしまいがちです。

「ノルマ廃止」、「目標は現場が作る」に対するカルチャーショック

三木
明石さんが、関根社長の指示や考えを聞いて、「これは明らかにこれまでとは違う」と特に強く感じられたのはどのような点でしょうか。

明石
社長の指示で「ノルマ廃止」、「業績評価もいったん全部やめて」となったのが、一番大きな衝撃でした。支店の職員からも、「自分たちはどう評価されるんだ?」、「どうやって仕事をしたらいいんだ?」という戸惑いの声が押し寄せてきました。しかし、「新しいビジネスモデルを実現する」こと以外、私達にもその答えがありませんでした。

その後、各支店が自主的に計画して、それぞれの目標を定めることになりました。すると今度は、「どうやって計画を作るのか?」という質問が来ました。本部は、支店に対する理論上の期待値を持っていましたが、それを伝えた瞬間にノルマになってしまいます。だから、あえて「自分たちのお店のことなのだから自分たちで考えてください」という社長のメッセージを伝え続けました。

それまでは、上から言われたことを遂行する指示待ち人間でよかった。そして、言われたことをしっかりと遂行した人こそが評価されました。しかし、これからは自分たちで目標を考え、その目標に向かって突き進んでいかなくてはならなくなりました。しかも、この「自分たち」というのは支店全体を意味しています。「支店長とか次長とか上層部だけで、勝手に目標を作らないでください」とも伝えました。「支店の全職員で話し合って、皆が納得したものを目標としてください」というメッセージです。誰もが自分たちの意見をちゃんと言わないといけなくなったのです。従来は、意見を言ってはいけない、言えない風土が多分あったのではないかと思いますが、そこが大きく変わりました。上層部が職員全員の意見をしっかり聞く姿勢を持ったことが、非常に大きかったと思います。

三木
「ああ、自由に考えていいんだ」と喜ぶ現場よりも、「どうすればいいかわからないし、それは単に本部が手を抜いて現場に丸投げしているだけだろう」という現場が、圧倒的に多かったのではないでしょうか。

関根
全くその通りです。私もそのような声は聞きました。まず、「どうやってマネジメントすればいいんだ」、「どうやって結果を出せばいいんだ」と。そして、「計画を作るのは本部の仕事だろう。なぜそれをやらないんだ。本部がさぼっているだけだろう」という声もある程度承知していました。けれども、そんな声を都度聞いていたら、何もできなくなってしまいます。

支店ごとに目標を作ることは、同時に、お客様のためにもなります。お客様の声を丹念に聞くと、日本全国でニーズが違うことがわかります。地域ごとに風土や産業構造、人口構成が異なるのに、本部で作った一律の目標を貫こうとすれば、それは明らかにお客様のためにはなりません。だからこそ、支店が自分たちのお客様の二―ズを探って、そのニーズに応える戦略を立て、提案していかなければいけないと思います。それが出来るのは、日々お客様と接している各現場しかありません。

 

中編では、改革の実際をさらに詳しく伺います。

組織風土改革のための聖域なき業務改革(中編)に続く>>

 

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