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組織風土改革のための聖域なき業務改革
商工中金・関根社長に聞く:不正発覚後に組織風土を変革するには(中編)
企業の不正・不祥事の原因としてよく指摘されるのが「組織風土」です。不正再発防止策の1つとして「風通しの良い組織作り」、「上にモノを言える風土」の醸成が掲げられます。しかしながら、組織風土は長い年月をかけて培われるものであり、変えることは簡単ではありません。どのような取り組みを行えば、組織風土改革を実行することができるのでしょうか。
不正融資事件で揺れた株式会社商工組合中央金庫(商工中金)の組織風土改革を主導した関根社長と、コンプライアンス統括部署責任者の明石氏に、同社の取り組みとその成果について、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の中島祐輔と三木要がお話を伺いました。
なお、本記事掲載の意見に当たる部分は個人の見解であり、組織の見解ではありません。取材日:2022年8月3日、肩書は当時。
※当記事はFinancial Advisory Portal 「DTFA Times」に掲載された記事を一部改訂して転載しています。
プロセスを重視し導入した定性評価
三木
評価制度のほとんどを定性評価へと変更するのは大変だったのではないでしょうか。
関根
もちろん大変です。数値で評価する方がよほど楽です。定性評価をしなければならない分、本部の仕事は大変になりました。そこで注意しなければいけないのは、「作文がうまい人間が評価されるのではないか」という疑心暗鬼が生まれることです。ですから、本部は各支店をしっかりモニタリングしていく必要があります。結果だけでなく、プロセスも重要だからです。
サポートするためにはコミュニケーションが必要です。そのコミュニケーションを担う役割として、コンプライアンス統括部の中にエリア・コンプライアンス・オフィサーという職務を置きました。彼らは各店舗を回って現場の話を聞く。監査部には、重箱の隅をつつくような監査のやり方は止めさせました。新しい評価制度の下で必要な監査とは、マネジメントのチェックです。廃止したはずのノルマ主義でマネジメントしていないかどうか、下の人たちは実際マネジメントをどう思っているのか、支店においてコミュニケーションはしっかり取れているかなどを監査する役割です。ソリューションについても、お客様に役立つどんな取り組みをしたかということを評価するように改めました。評価に時間が掛かるものは掛かっていいのです。だから、評価する側も大変です。
職員のモチベーション向上と連動するパーパス経営
中島
評価制度のみでなく、職員1人ひとりのやる気やモチベーションの向上にも取り組んでいらっしゃるとお聞きしました。
関根
かつては経営陣の考えを押し付けてやらせることが良いとされていましたが、もうそんなやり方では誰も動かないですよ。むしろ、働く人たちの働き甲斐や人生観を大事にしてあげて、そこからどう頑張ってもらうかを考えないといけない。そのための改革をものすごくやっています。
例えば、今年から人事部の名称を「キャリアサポート部」に変えました。自分の人生は自分で決めるのであって、人の人生を人事部が決めるとはおこがましいと、私は昔から思っていました。これからは、1人ひとりのキャリアアップをサポートするのが、人事部の役割です。それと、パーパス経営が本当に大事です。どうやって働き甲斐を感じてもらうか、自分たちの存在意義とは何か、いかなる志を持つべきか。そこから出発しないとダメじゃないですか。うちは幸い、中小企業向けの金融機関ですから、職員は皆そこで役に立ちたいという思いを持って入ってきているはずです。ですから、その原点のために皆が頑張ることで、業績が上がればいい。
中島
パーパス経営の導入について、もう少し詳しくお聞かせください。
関根
パーパスを基軸とした新たな企業理念を制定しました。この理念を作るのにも、全職員に議論してもらいました。そこで一番出た言葉が「変化」なんですよ。新しい中期経営計画を作るに当たっても、職員から意見を募集しました。人事制度改正もそうです。ここでも職員からフリーで意見を募集しています。一度意見を募って、それである程度作って、また開示して、パブリックコメントを募集して、それを集約してまた検討する。だから本部は大変です。
三木
しかし、それはいい大変さですよね。うらやましいです。
関根
まさに、風通しのいい組織にして、やり甲斐をどう高めるか、モチベーションをどう上げるかですね。加えて、職員の教育、レベルアップがものすごく大事です。私は職員の知識を武器にしていきたい。武器を持つと人間は使いたくなる。だから、どんどんいい教育機会を提供して、知識レベルを上げてもらう。そうすると、それを武器として使ってみるじゃないですか。結構使えるとなると、もっと高性能の武器が欲しくなる。すると、さらにパワーアップして、それで結果的に業績も上がる。「やれ!」ではなくて、自らチャレンジできる環境を整えてあげる。働きやすい環境を整えてあげて、余計な仕事はできるだけ排除してあげる。そして高性能の武器を提供する。
武器にもそれぞれ自分の好みがあります。だから押し付けてはいけない。どういう武器が欲しいかは、自分で考えないとダメですね。「研修その場限り」という言葉があって、研修を受けてすごいなと思っても、翌日、職場で全く関係のない仕事をするのでは意味がない。銀行にはいろいろな業務があるので、自分がやりたい業務に適した武器を得られる機会を用意する。そして、やりたいことをやってもらう。そうすることで、モチベーションが上がるわけですよ。
中島
個々人の意識に訴えていくだけでなく、会社としてサポートしたことはありますか。
関根
業務の効率化、合理化を図ってきました。システム化を進めてペーパーレス化を図ることで、事務の負担を軽くしました。実際、業務の在り方は相当変わったと思います。4年間でOHR(Over Head Ratio/経費率)も約15%減らしました。
評価制度の変更、パーパス経営の導入に加えて、業務効率化もセットでやっています。労働環境が変わらなかったら、なかなか意識も変わらないと思います。無駄な作業は徹底的に減らさないといけません。コロナ禍になってすごく感謝されたのが、リモートワークができる環境の整備でした。コロナ禍の半年ほど前から、シンクライアントの端末(ネットワーク接続やキーボード操作などのみを行い、サーバ側でソフトウェアの実行やデータの管理を行う端末)を入れて、全職員がリモートワークできるようにしていました。金融業界では、かなり進んでいた方だと思います。
もちろん、コンプライアンスはマストです。各種相談窓口や内部通報制度(契約している外部窓口含む)は従来より揃えていましたが、あらためて問題があるときは利用すべきことを伝え、現在はそこにリニエンシー制度(不正行為の処分において自己申告で軽減を考慮する制度)も導入しました。自己申告にもしっかりとフォローし、情報が集まるようにしています。支店長同格のエリア・コンプライアンス・オフィサーを新設するなど、困ったときにレポートライン外に相談できる仕組みを増やしています。
後編では、改革を経た現在と、これからについて話を進めます。
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