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人材活用の見地から考えるDXガバナンス【前編】

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を効果的に推進するために

企業がDXを推進するためには社外のDX専門人材と社内のIT人材のコラボレーションが不可欠です。デロイトトーマツは、DX推進にあたっての人材活用・育成に関するアドバイザリーサービスを提供しています。

DXの波に乗り遅れることは許されない

世界中でデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが進められています。特に日本では少子高齢化や働き方改革の影響を受け、業種を問わず、企業がドラスティックに変化し始めています。私達自身も支援先である金融機関とのプロジェクトを通じて、DXの取り組みが企業に浸透しつつあることを肌で感じています。

当初はRobotic Process Automation(RPA)やチャットボットなどを使った単純な業務のデジタルへの置換えのような取り組みが多かったものの、最近は新たな顧客付加価値の創出を目的としたエコシステムの構築を目指し、業界全体の課題を解決するような取り組みも増えてきたと感じています。

また経済産業省のDXレポートにおいても、現在の日本企業におけるITのブラックボックス化、非効率なデータ活用、IT運用業務の属人化などが続けば、2025年には最大1年あたり12兆円の損失を産む、と警告しています。このように企業のDX推進はブームではなく、もはや対応必須の取り組みであると言えるでしょう。

 

外部人材に依存したDX推進

では各企業はDXの取り組みをどのように進めているのでしょうか。一般的には、経営企画部門などが中心となりDXの専門部署を新設し、そこにDXの経験が豊富な人材を外部から招聘する、あるいはコンサルなど外部専門家の協力を仰ぎながら進めていることが多いのではないでしょうか。

上記の体制で、有望なスタートアップベンチャーやプロダクトの調査を行い、概念検証(Proof of Concept, PoC)や価値検証(Proof of Value, PoV)が進められます。実際に、2019年にデロイト トーマツが実施したサーベイ "2019 Global Digital risk survey"(英語)でも、IoT、AI、ブロックチェーンといった最新テクノロジーに関しては、PoCを実施済みであると回答した企業が多くなっています。

しかしながら、実際のビジネスにうまく適用できているかというと、全てがそういう訳ではなさそうです。コンサルやベンチャーなど、外部人材を中心とした体制だと、いわゆる既存ビジネスや既存システム/データとの連携等をうまく考慮することができずに、行き詰まってしまうことが原因ではないかと我々は考えています。

また、外部から専門人材を招聘する場合、即戦力としては確かに期待でき、初動は速く力強いかもしれません。しかしながら、そのような人材は引く手あまたであり、高待遇を用意する必要があることから、現状の人事体系に合わず、採用は簡単ではありません。また採用できたとしても、会社への帰属意識は低く、転職を成長ステップとして考えているため、よりよいオファーがあれば去ってしまう可能性もあります。

 

DXと社内IT人材

一方で社内のIT人材に目を向けてみましょう。特に我々が普段ご支援をしている金融機関や保険会社はIT子会社を有しており、IT子会社が親会社のビジネス部門や企画部門からの要望に基づき、システムの企画・開発・運用保守業務を行なっています。本来であれば既存のIT人材もDXの一翼を担うべきですが、現時点においては十分に関与できているとは言えない状況です。

それはなぜでしょうか。主要な原因としてはIT子会社の役割・主要業務が挙げられます。金融機関のIT子会社は今から30〜40年程前にIT部門をスピンアウトする形で設立され、親会社から割り振られた予算に基づき、基幹系システムを可能な限り効率的・高品質に構築・維持することを役割としてきました。そしてそれは現在も基本は変わっていません。つまり極端に言えば、新技術を活用した挑戦的な企画の実施より、実績のある確実な手法でシステム品質を守ることを優先し、その責任を担ってきたと言えます。

上記の役割であるがゆえに、DXにかかるモチベーションの醸成が行われず、情報収集や外部連携、人材育成において、社内IT人材を十分に活用できていません。

普段我々がご支援する金融機関およびそのIT子会社においても、適性を持った社員が間違いなくいるという印象を持っています。なぜなら、ご一緒に活動する社員の方々、また、様々なアンケートやヒアリングにご回答いただく社員の方々と実際に接してみると、新たなことに興味を持ち、ユーザー目線で物事をしっかりと捉えられている方も少なからずいらっしゃるからです。

つまり、DXのためのIT人材が社内にいないということではなく、適正ある人材を発掘できていない、また、人材を育成するためのフィールドや制度など、育成のための手段がないということではないかと考えています。

実際に、ある保険会社では、試験的にではありますが、あるスキームを適用して適正ある人材を発掘し、育成のための取り組みを行われているような事例もあります。

 

これからのDX推進に必要な体制と教育

ではこれからのDX推進に必要な体制とはどのようなものなのでしょうか。我々デロイト トーマツが推奨するのは、DX外部人材と内部のIT人材の有機的なコラボレーションです。そしてそれを実現するための、内部IT人材のデジタルトランスフォーメーションです。

先述の通り、外部人材に依存しすぎると技術的な検証まではスムーズに進みますが、その後の付加価値提供のための具体的施策にブレイクダウンするところで障壁に当たります。外部人材については、処遇面の問題や転職のリスクも付きまといます。とは言っても、今すぐにIT子会社等の社内のIT人材にDXを推進・導入せよと依頼しても無理があるのは認識の通りです。ありきたりではありますが、社内のIT人材を教育していかなければなりません。

そこで我々が提案するのは、以下のアプローチです。

  • IT組織の役割・責任の再定義
  • 各役割に対する必要なスキルの定義
  • DX人材の発掘・選抜
  • 教育の実施
  • PoCなどの実施

これからのDX推進に必要な体制と教育
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特に重要なことは、「各役割に対する必要なスキルの定義」であると我々は考えています。DX推進を行う人材に不可欠なスキルとは、最新技術に対する知識・好奇心やベンダーマネジメントの経験だけではありません。より必要なものは、自社の経営方針や企業ビジョンを踏まえ、テクノロジーを活用してそれをどのように実現させていくのかを絶えず問うための「課題解決力」であると思います。つまり、自分自身にとって経験のない領域であっても、仮説をもとに戦略を導き出し、論理的に道筋をつけていくためのソフトスキルが必要です。

次回はそれらの取り組みに関し、さらに詳細に事例を交えながらご紹介したいと思います。

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