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GHGプロトコル スコープ3・スタンダード

温室効果ガス/気候変動に関する国際的イニシアティブ

世界中の企業、NGO、政府機関等が参加して温室効果ガス/気候変動に関する国際スタンダードや関連ツールを開発するイニシアティブである「GHG プロトコル」について説明する。

GHG プロトコル スコープ3・スタンダード

「GHG プロトコル」(The Greenhouse GasProtocol Initiative)は、米国ワシントンDC に本部のあるWorld Resources Institute(WRI)とスイスのジュネーブに本部のあるWorld Business Council forSustainable Development(WBCSD)が中心になり、世界中の企業、NGO、政府機関等が参加して温室効果ガス/気候変動に関する国際スタンダードや関連ツールを開発するイニシアティブである。

  WRI は2009年に中国オフィスを開設するなど、今や世界最大のCO2排出国である中国での温室効果ガス削減対策にも力を入れて来ている。

  このGHG プロトコルの代名詞とも言えるのが「コーポレート・スタンダード」(Corporate Accounting and Reporting Standards) で、2001年に初版が発行され、2004年の改訂版は世界中の政府機関、業界団体、企業が温室効果ガスを算定し報告する基準として幅広く参照されている。

  その他にも、オフセット・クレジット創出等のプロジェクト向け「プロジェクト・プロトコル」(Project Accounting Protocol and Guidelines) や米国政府にも採用されている「Public Sector Protocol」、また世界中の算定ツールや係数、原単位などの情報を集約した「Calculation Tools」などもWeb サイトで無償公開されており、GHG プロトコルは温室効果ガス算定・報告に関する世界的なポータルサイトでもある。

  現在サプライチェーンにおけるCO2管理や情報開示が世界的に注目を集める中で、2011年10月GHG プロトコル・イニシアティブからサプライチェーンに特化した次の2種類の新スタンダードが同時発行される。

 •Product Accounting and Reporting Standard(略称:プロダクト・スタンダード)

•Corporate Value Chain(Scope 3)Accounting and Reporting Standard(略称:スコープ3・スタンダード)

 

 プロダクト・スタンダードは製品やサービス単位でのCO2排出量の算定基準を定め、スコープ3・スタンダードは事業活動のバリューチェーンを巡るCO2排出量を取り扱うことが2つのスタンダードの違いである。すなわち企業を主体としてサプライチェーンでのCO2排出を算定・報告するための基準が、スコープ3・スタンダードであると理解すると良いだろう。

スコープ1~3

ここで「スコープ」と呼ばれるのは、コーポレート・スタンダードで定義されたCO2等温室効果ガス排出に関する組織運営上の境界(バウンダリ)のことで、次の3つに整理・分類され世界的に認知されている。

 

•「スコープ1」 自社が所有する設備や支配する事業活動からの直接なCO2排出。例えば、自社工場設備で重油を燃焼させたり、作業車両を走らせることによるCO2排出が該当する。

•「スコープ2」 自社が所有する設備や支配する事業活動での、エネルギー使用にともなう間接的なCO2排出。例えば、工場・事務所での電力エネルギーの使用や、熱や冷却、蒸気など外部から供給を受けるエネルギーがスコープ2に該当する。

•「スコープ3」 自社が直接所有したり支配する対象の範囲外で、サプライヤー等の事業者や製品ユーザー、廃棄物事業者など自社の事業活動に関連する間接的なCO2排出を指す。例えば、原材料の抽出や調達、輸送・物流、流通・販売、製品の使用、廃棄・リサイクルなどの他、出張や通勤、資本設備やフランチャイズチェーンなどが該当する。事業活動の上流や下流等で発生する多くのCO2排出に対して、自社の間接的なCO2排出量として算定することが求められている。

 

 スコープ1やスコープ2は省エネ法(エネルギー使用の合理化に関する法律)や温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)の報告でも網羅されているが、日本の報告制度では特定荷主や特定連鎖化事業者など部分的にスコープ3まで踏み込んでいることが大きな特徴であり、世界的に見ても先進的である。

  今のところサプライチェーンのCO2管理や報告にあたってはGHGプロトコルのスコープ3・スタンダードが最も先端的なものであり、このスコープ3・スタンダードの基本的な考え方を理解することは、実際に企業活動におけるサプライチェーンCO2管理に必要な体制づくりや、具体的な戦略・対策を立てることに役立つであろう。

 

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