ナレッジ

経営者確認書

経営者と監査人との間の協調関係

経営者確認書は「経営者からの書面による確認のうちの、監査人が監査意見の表明に当たって入手する経営者による確認書」を言う。経営者確認書は、経営者が監査人に提出する書面であり、外部に公表されるものではない。この経営者確認書について、位置づけ・意義・入手の目的・留意事項等を説明する。

経営者確認書とは

経営者確認書とは

  経営者確認書は「経営者からの書面による確認のうちの、監査人が監査意見の表明に当たって入手する経営者による確認書」(監査基準委員会報告第三号「経営者による確認書」(以下、「第三号」という。)を言う。米国企業改革法に基づく宣誓書や、有価証券報告書に添付する「有価証券の適正性に関する確認書」は、外部に公表されるが、経営者確認書は、経営者が監査人に提出する書面であり、外部に公表されるものではない。

 

経営者確認書の位置付け

  平成14年改訂監査基準の「前文」において、「経営者からの書面による確認を監査手続として明確に位置付け」た。改訂前の監査基準では、「経営者確認書の入手はそれ自体が監査手続の一部を構成するものであるかが曖昧である」との指摘があったが、当該改訂により、経営者からの書面による確認のひとつとしての経営者確認書の入手は監査手続として位置づけられることになった。

 

経営者確認書の意義

  経営者確認書がなぜ必要なのか。「第三号」は、経営者と監査人は、財務諸表の作成に対する経営者の責任と当該財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する監査人の責任とに財務諸表に関する責任を分担しながら(「二重責任の原則」という。)、相互に協力し合う関係にある。このような協力関係を示し、もって監査制度に対する社会的信頼性をより一層高めていくためであるとしている。

 

経営者確認書入手の目的

「第三号」において経営者確認書を入手する目的は、以下のように述べられている。

 

(1)  財務諸表の作成責任が経営者にあることの確認

これは、「二重責任の原則」を確認するという目的を示している。

(2)  内部統制を構築・維持する責任が経営者にあることの確認

財務諸表の作成目的(他の内部統制の目的として、法令遵守目的、経営資源の効率的・効果的な利用目的があります。)のために内部統制を構築し維持する責任は経営者にあることを確認する、さらには再認識させるという目的である。

(3)  監査の実施に必要なすべての資料が監査人に提供されたことの確認

監査人が必要としたすべての資料がいかなる制約もなく経営者から監査人に提供されたことを確認するという目的である。この資料には議事録、稟議書、契約書、並びに不正による財務諸表の重要な虚偽の表示の可能性に対する経営者の評価、企業に影響を与える不正、不正の疑い又は不正の申し立てに関する情報、関連当事者の存在及び関連当事者の取引の識別、継続企業の前提に関する経営者の評価の基礎とした資料が含まれる。

(4)  重要な偶発事象、後発事象に関する確認

経営者は偶発事象や後発事象に関する最新の情報を確実に知り得る立場にあるとの認識から、財務諸表に重要な影響を及ぼすような重要な偶発事象、後発事象等について、その有無、内容等を確認するという目的である。

(5)  監査実施時の確認事項について文書による再確認及び追加確認

監査実施の過程で行った質問に対する経営者の口頭による回答について、曖昧さや誤解を避けるために再確認するとともに、その後監査報告書作成日までの間に変化が無かったこと追加確認するという目的である。

(6)  経営者の意思や判断に依存している事項についての確認

経営者の意思や判断に依存している事項については、経営者の主観的要素や見積要素に負うところが大きいものについて、その内容と根拠を確認するという目的である。

(7)  監査人が発見した未訂正の財務諸表の虚偽の表示による影響が、個別に集計しても財務諸表全体にとって重要でないことの確認

財務諸表の作成責任に関連して、監査人が発見した虚偽表示のうち、未訂正の虚偽表示による影響が、財務諸表全体にとって重要でないと経営者が判断していることを確認するという目的である。

経営者確認書の入手に当たっての留意事項

「第三号」は経営者確認書の入手にあたり、以下の留意事項を示している。

 

(1) 監査人が草案を作成し、経営者に内容の説明を行って事前に了解を求めなければならない。

(2) 経営者確認書は、簡潔かつ明瞭に表現し、曖昧な表現又は冗長な記述は避けなければならない。

(3) 確認すべき事項は、監査契約(監査目的)、経営環境、財務諸表の種類、会計方針、会社の置かれている状況等により異なる。

(4) 経営者確認書は、監査報告書の交付日に入手しなければならない。

(5) 経営者確認書は、監査報告書を提出する場合には、その都度、入手しなければならない。つまり、会社法監査と金融商品取引法監査を受けている場合は、そのそれぞれについて経営者確認書が必要になる。

(6) 経営者確認書には、会社の代表取締役又は代表執行役の署名(又は記名捺印)が必要である。当該代表取締役又は代表執行役以外の取締役又は執行役が財務諸表の作成業務を担当する部署を所管している場合には、当該取締役又は執行役の署名(又は記名捺印)が併せて必要になる。

経営者が確認することを拒否した場合の扱い

経営者が確認を拒否した場合には、経営者と監査人との間の協調関係が成立していないことになり、監査実施の過程で入手した資料に信頼性がないと考えられ、監査範囲の制約として、監査人は意見を限定する又は意見を表明しないことを検討することになる。また、経営者が確認を拒否した事項が財務諸表監査の前提となるような事項である場合には、原則として監査人は意見を表明しないことになる。 

お役に立ちましたか?