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経営者不正の防止

永続的に検討しなければいけない課題

内部統制は経営者が構築するため、経営者の不誠実な行動に対しては有効に機能することが出来ないこともある。その代表例が粉飾決算ということができる。真に有効な内部統制を構築するためには、経営者の暴走を止める仕組みが不可欠である。そのような仕組みとはどのような仕組みであるか説明する。

経営者不正と内部統制

『経営者は、適切な経営姿勢を樹立し、誠実な企業風土と高い倫理感を確立して保持し、さらに、不正を防止・抑止・発見するために適切な内部統制を構築しなければならない。』これは、米国企業改革法404条に基づく内部統制監査基準5号第25項に記載されている一文である。同基準はこうも述べている。『内部統制は、共謀や経営者による無視によって機能しなくなることがある』(付属書A-定義A5注)。

 

企業は株主から受託した資本を適切に運用し株主利益に貢献する義務がある。その義務を一義的に負うのが経営者であり、この義務を誠実に履行するために組織を規律付けることを目的として構築するのが内部統制である。したがって内部統制は経営者が株主から委託された経営を誠実に遂行する意思の表われともいうことができる。

 

しかし、このことを裏を返してみれば、内部統制は経営者の不誠実な行動に対しては有効に機能することが出来ないことになる。内部統制は経営者が構築するものであるためである。その代表例が粉飾決算ということができるであろう。通常、社会問題に発展するような粉飾決算は経営者の指示によって行われる。なぜなら、従業員にはそのような粉飾を行う直接的メリットがなく、経営責任を負っている経営者にこそ、そのメリットがあるからである。

経営者不正防止の仕組みづくり

真に有効な内部統制を構築するためには、経営者の暴走を止める仕組みが不可欠である。ではそのような仕組みとはどのような仕組みであろうか。

第一に考えられることは、取締役会にその監督機能の実効性を持たせることである。委員会設置会社はガバナンス先進国といわれる米国の制度を模したものであり、まさに取締役会の経営者に対する監督機能の強化を目的として導入されたものである。しかし委員会設置会社を採用した会社において、果たして本当に経営者の暴走を止められるであろうか。本家米国の事例を見ると、エンロン社においてはガバナンスに一家言を有する著名人がその社外取締役として名を連ねていたにもかかわらず不正を抑止することが出来なかった。これは彼らが経営者の単なるビジネス上の相談役の役割を担っていたためともいわれた。つまり、経営者不正の抑止においてはガバナンスの形態は委員会設置会社であっても監査役設置会社であっても大きな問題ではない。要は本当に経営者の暴走を止められるかどうかなのである。

 

もう一つ考えられるのは、有効な内部通報制度の構築である。発見される企業不祥事の多くは、実は企業内部者からの外部への告発であるとされている。経営者不正は通常経営者からの指示に基づき従業員が実行することが多くある。したがって、従業員は経営者不正の事実について多くの情報を有していると考えられる。つまり有効な内部通報制度を構築することで、経営者自身が内部告発のプレッシャーにさらされるため、暴走を自律できる可能性がある。ただし、ここでもキーワードとなるのは、内部通報制度が実効性を持っていることである。制度をつくったとしても、制度を利用することにためらいがあったり、あるいは周知されていなかったりする場合には何の意味もない。2006年4月から公益通報者保護法が施行された際に、内部通報制度を社内に設けた企業も多いことと思われる。しかし、内部統制の観点からは、その実効性にこそ意義がある。そのためには通報を行いやすい環境を整えることのほか、そもそも経営者不正を通報できる仕組み(例えば通報先に監査役や社外の弁護士等の経営者から独立した機関を含める、等)が極めて重要となってくる。

 

経営者不正を防止する仕組み作りは、一度きりの検討ですむものではない。いかに経営者の暴走を抑止し、また発見するか、そして自浄機能を発揮できるかは、永続的に検討しなければいけない課題である。経営者は、自らの後継者のそのまた後継者が暴走しない仕組みを作り企業を永続的に発展させるために、自分自身の行動を律するための体制構築を急がなければならない。

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