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監査手続:立会

たな卸資産を正確に確かめるための監査手続

監査人が、会社の実地たな卸に立会うことによって、実地たな卸が会社の予め定めたたな卸手続に準拠して行われており、かつたな卸資産が正確に把握されていることを確かめるための監査手続をいう。実地たな卸計画の評価、抜取り検査、決算日以外の日における実地たな卸、循環実地たな卸、立会対象事業場の決定、監査手続の例示の順に説明する。

立会とは

監査人が、会社の実地たな卸に立会うことによって、実地たな卸が会社の予め定めたたな卸手続に準拠して行われており、かつたな卸資産が正確に把握されていることを確かめるための監査手続をいう。

 また、単なる視察や、会社のたな卸後の抜取り検査だけでは必ずしも立会とはいえず、実地たな卸計画の評価、たな卸の視察、質問、抜取り検査の総合したものでなくてはならない。これは、実地たな卸の正確性の大部分は会社側のたな卸に依存しなければならないという事実のため、監査人として重要な監査手続と位置付けられるからである。

実地たな卸計画の評価

監査人は、前もって会社のたな卸計画を詳細に吟味し、不備と思われる点はその修正を依頼すべきである。なぜなら、たな卸資産は常に一カ所に保存されているとは限らず分散している場合も多く、実地たな卸には多数の従業員が関与するほか、たな卸資産の種類によってはたな卸方法も難しいので、会社が予め定めたたな卸計画の趣旨を周知徹底しなければ、実地たな卸の正確性を期待できないからである。

なお、通常たな卸計画には実施責任者、日時、たな卸対象から除外するもの、滞留資産や陳腐化資産の取扱、たな卸の方法、倉庫及び外部との受払の締切時期等々が折りこまれる必要がある。

抜取り検査

抜取り検査は、前に述べたように立会の中の一手続として行われるもので、たな卸の検数が正確に行われたことを確かめる手続である。さらに、抜取り検査の結果は、たな卸されたものが正確に記録されていることを後日確かめるための資料としても活用される。

 また、監査人が行う抜取り検査の範囲については、たな卸結果の正確性を高めようとする目的に照らして、できるだけ金額的に重要なもの及びたな卸が難かしくて誤り易いもの等を抜取り検査すべきであるといえる。

決算日以外の日における実地たな卸

実地たな卸は、一定時点(決算日)のたな卸資産を正確に把握することを目的として行われるため、決算日に行なわれることが最善といえる。しかしながら、期末に会社の仕事が集中することを可能なかぎり減らすという意味で決算日以外の日に行なわれることもある。

 そこで、会社が実地たな卸を決算日以外の日に行なった場合には、監査人が実地たな卸に立会を行なうことのほかに、さらに決算日現在のたな卸資産が適正であることを確かめるため、たな卸実施日と決算日との間のたな卸資産の増減や、売上総利益率の比較検討等の全体的な分析を付加的に行なう。もしこれらの手続を適用した結果として異常な事項を発見した場合には、さらに詳細な検討を行う。

循環実地たな卸

会社によっては、実地たな卸を一事業年度を通じて定期的に、あるいは随時に一部ずつ行なって、その時点において帳簿と照査するという方法を採用している場合もある。

 その本来の目的は、継続記録簿の正確性を検証することであり、一斉実地たな卸を無計画に避けるための方法ではない。したがって、ひんばんに動きのあるたな卸資産項目のように、継続記録に誤りが発生し易い項目について計画的に頻繁に実地たな卸を行うことなどが該当する。これに対して、単に一事業年度に一度事業所別に循環して実地たな卸を行なうとか、あるいはたな卸資産の種類別に循環して実地たな卸をするというような方法は、循環たな卸本来の目的には合致しないものといえる。

立会対象事業場の決定

たな卸資産が多数の事業場に分散している場合、監査人が実地たな卸の立会を行なうべき事業場の範囲は、会社の業態、規模、事業場の保有するたな卸資産の種類、金額の重要性等を考慮して、監査人が決定する。

 例えば、多数の事業場をたな卸資産の金額の重要性、相対的危険性等によりABC等のクラスに分け、Aは毎期、Bは隔期、Cは一定年度内に循環するという方法なども考えられる。

監査手続の例示

1.実地たな卸規程、たな卸計画書、たな卸指示書等を事前に入手し、その内容を把握する。

2.立会上の重点項目、抜取り検査の範囲及び方法、注意すべき事項等、実施に際して留意すべき事項を事前に把握する。

3.必要と認めた場合には、立会開始前に保管場所の見取り図を入手して、工場、倉庫内を巡回し、たな卸の準備状況及び現品の保管状況を視察する。

4.入出荷部門でたな卸指示書どおり適切な入出庫の調整が行われたかどうかを質問等により確かめる。

5.長期滞留品、不良品等に対して、たな卸担当者がどのように注意を払ったかを、質問等により確かめる。

6.抜取り検査を行い、会社の現品調査が正しく実施され、かつ、これが正しくたな卸原票に記入されていることを確かめる。

7.抜取り検査手続において、必要と認めた場合には、一部の物品について開袋や開箱等を行い、表示と内容物の一致を確かめる。

8.計量器等の正確性について質問し、状況に応じて、監査担当者自らがその正確性を確かめる。

9.同一品目で保管場所が数ヶ所に分散している場合には、適切なたな卸原票の添付方法が採られているかを確かめる。

10.たな卸実施中に移動のあった現品については、当該受払伝票を査閲し、適切な処置が取られたことを確かめる。

11.異常品、預け品、預り品、未出荷品、未検収品、担保提供品の有無等について説明を求め、また、内容、リスト等を入手し、現品調査等を行う。

12.誤謬が発見された場合は、たな卸指示書(たな卸原票等の記載方法についての取扱い)に従って処理する。

13.必要と認めた場合には、現品調査終了後に、会社のたな卸責任者等とともに工場、倉庫等を巡回し、すべての現品にたな卸原票が添付されていることを確かめる。

14.たな卸原票の回収状況と管理状況(タグ・コントロール)を検証するため、たな卸原票使用報告書の内容を使用済たな卸原票、書損じたな卸原票、未使用たな卸原票等と照合する。

15.入出庫の締切処理手続(カット・オフ)の妥当性を検証するため、入出荷部門でたな卸基準日の前後__日間の入出荷の記録を査閲し、後日、売上高の計上又は仕入高(又は製造費用)の計上、あるいは債権又は債務の計上と照合できる資料を入手又は作成する。

16.実地たな卸立会手続の結果、検出事項及び後日フォロー・アップすべき事項を要約する。

 

(出所:監査委員会研究報告第11号 監査マニュアル作成ガイド「財務諸表項目の監査手続編」(中間報告) 平成12年9月4日 日本公認会計士協会)

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