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統制環境

内部統制を理解するために前提となる概念

内部統制に関するフレームワークのデファクト・スタンダードであるCOSO レポートでは、「統制環境」という用語そのものについて明確に定義を与えていない。しかし、多くのページを費やしてその概念を説明している。 COSO レポートでは「内部統制は、5つの、そして相互に関連のある要素から構成されている。・・・」としており、統制環境は他の4つの構成要素の基礎として機能するものである。この統制環境について説明する。

内部統制の構成要素

内部統制を理解するためには、その前提としていくつかの概念をおさえておく必要があるが、「統制環境( control environment)」はその中でも特に重要である。内部統制に関するフレームワークのデファクト・スタンダードである COSO レポートでは、「内部統制は、五つの、そして相互に関連のある要素から構成されている。・・・」としている。

その5つとは以下である。

•統制環境
•リスクの評価
•統制活動
•情報と伝達
•監視活動

統制環境は、他の4 つの構成要素の基礎として機能するものである、としている。内部統制をよりよいものにするためには、よい統制環境を築いていなければならないということであろう。

 

統制環境とは

残念ながら、COSO レポートでは、「統制環境」という用語そのものについて明確に定義を与えていない。しかし、多くのページを費やしてその概念を説明している。それらを要約して、「組織の気風を決定し、組織を構成する人々の統制に対する意識に影響を与え、内部統制の他の4 つの構成要素の基礎をなすとともに、規律と構造を提供する」としている。多少乱暴かもしれないが、日本に古くからある「企業風土」もしくは「企業文化」に非常に近い概念であると言えそうである。 

統制環境要因

統制環境には以下の7つの要因が含まれる。

•誠実性と倫理的価値観- 不正につながる誘因と誘惑- 道徳的指針の提供と伝達
•能力に対する経営者の取り組み
•取締役会または監査委員会
•経営者の哲学と行動様式
•組織構造
•権限と責任の割り当て
•人的資源に関する方針と管理

このうち、「能力に対する経営者の取り組み」、「取締役会または監査委員会」、「組織構造」、「権限と責任の割り当て」、「人的資源に関する方針と管理」の5つについては、文書化等で外向きに説明しやすい項目と言えそうだが、「誠実性と倫理的価値観」、「経営者の哲学と行動様式」の2つは多分に精神的で外見上判別のしづらい項目である。このような項目の混在は、COSO レポートの公開草案時の構成要素「誠実性」、「倫理的価値観と能力」、「統制環境」が、最終報告時に「統制環境」としてひとまとめにされた経緯に起因していると考えられる。

外見上判別のしづらい、また主観的にしか判断のしづらい項目を、あえて要因としてレポート中に明確に記述したのは、やはりこの精神的な2項目がとても重要で無視できないものである、と判断したからでしあろう。トレッドウエイ委員会の報告書では「すべての職位にわたって強固な倫理的環境を確立することは、企業の繁栄を図るうえでも、また、企業のすべての構成員ならびに社会の多くの人々にとっても極めて重要である。強固な倫理的環境は、企業の方針や統制システムの有効性を大きく高めるだけでなく、最も精巧な統制システムをもってしてもとらえることのできない人間の微妙な行動にも影響を与えることができる。」※1 としている。内部統制の出来不出来は統制環境に左右される。拡大解釈ではあるが、「内部統制のその他の構成要素に多少の不安点があっても、強固な統制環境によって補われることがある」とも考えられるであろう。このような考え方は、ともすれば時代遅れと捉えられがちな日本の精神論にも相通ずるものであり、洋の東西を問わず、行き着くところはやはり人間の心の持ちようであることを再認識させられる。 

【参考資料】
※ 1  鳥羽至英、八田進二共訳 トレッドウエイ委員会報告書 『不正な財務報告-結論と勧告』白桃書房 1991年

 

統制環境の評価

今、上場企業は前述の金融商品取引法によって内部統制の文書化に非常に苦心しているが、COSO レポートでは「内部統制を評価する者は、積極的な統制環境が存在しているかどうかを決定するにあたって、統制環境要因を個々に検討しなくてはならない。」としている。詳細な業務プロセスのコントロールに目を向ける前に、自組織の統制環境がどうなっているのか、じっくりと振り返ってみる必要がありそうである。

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