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米国FRB:より深刻な景気後退を想定し初めての年2度目のストレステストシナリオを公表

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.63

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
菅谷 幸一

米国FRB(連邦準備理事会)は2020年9月、「2020年第4四半期における資本計画の再提出のための監督上のシナリオ」を公表した。これは、米国大手金融機関による資本計画の再提出のために追加で実施される同年2回目のストレステスト(以下、第2回ST)に使用される監督上のシナリオを解説するものだ。 FRBがストレステストを年に2回実施するのは今回が初めてであり注目度が高い。なお、この第2回STの対象は、総資産1,000億ドルを上回る米国銀行持株会社、貯蓄・貸付持株会社、外国銀行グループの米国中間持株会社の計34行(以下、大手銀行)である。

第2回STでは、大手銀行は、ベースライン・シナリオ(経済予測機関の調査による平均的な予測に類似したプロファイル)に加えて、COVID-19事象の影響を考慮した2つのストレスシナリオに対し、その健全性が審査される。ストレスシナリオの1つ目は、世界経済の深刻な落ち込みを想定するもの(シビアリー・アドバース・シナリオ)、2つ目は、前者ほど深刻ではないものの回復により長い時間がかかる状況を想定するもの(オルタナティブ・シビア・シナリオ)である。

具体的なシナリオの内容は、図表1および図表2の通りとなっている。位置づけとしては、シビアリー・アドバース・シナリオは、FRBの「シナリオ・デザイン・フレームワークに関するポリシーステートメント」の基準(例:失業率は当初の水準から3~5%pt上昇、など)に基づいた、ショックの深度に重点を置いて作成されたシナリオとなっている。一方、オルタナティブ・シビア・シナリオは、COVID-19第2波や低成長長期化などの現実のリスクをより反映したシナリオであると言える。
 

図表1 第2回STに使用される各シナリオの主な変数の概要

米国経済環境 ベースライン・シナリオ シビアリー・アドバース・シナリオ オルタナティブ・シビア・シナリオ
実質GDP成長率
  • 2020年後半に年率14%で急上昇した後、徐々に成長率は低下、2023年に約2.5%の成長率
  • 2020年第3四半期から2021年第4四半期にかけて▲3.25%減少し、底打ち
  • 失業率の低下にも関わらず、シナリオ期間中の実質GDPの水準はベースライン・シナリオの水準を上回らない
  • 2020年第4四半期に年率▲9%減少、2021年に約2%の成長率
  • 残りのシナリオ期間は上昇
失業率
  • シナリオ期間を通して低下(2020年末にほぼ8.75%まで低下、2023年第3四半期には約5.25%まで低下)
  • 2021年第4四半期に 12.5%のピークに到達(2020年第3四半期の水準から3%pt上昇)
  • シナリオ期間後半は、前回のストレステストサイクルで使用された同シナリオの推移と同様のペースで低下
  • 2020年第4四半期に約11%のピークに到達
  • 2021年第4四半期まで11%で横ばい
  • シナリオ期間末にかけてシビアリー・アドバース・シナリオとの関係が逆転、2023年第3四半期は9%(シビアリー・アドバース・シナリオ対比で同時期1.5%pt高い)
CPIインフレ率
  • 2020年第3四半期に3.75%、その後は低下し残りのシナリオ期間は2~2.25%と比較的安定して推移
  • 2020年第4四半期に年率約1.25%に急低下、その後は残りの期間で1.25~約2.25%の範囲で推移
  • 2020年第4四半期に年率約1%に急低下、その後は残り13四半期で1.75~2.25%の範囲で比較的安定して推移

(出所)FRB 「Supervisory Scenarios for the Resubmission of Capital Plans in the Fourth Quarter of 2020」(2020年9月)を基に有限責任監査法人トーマツ作成

 

図表2 第2回STに使用される各シナリオの主な変数

各国の実質住宅価格
※画像をクリックすると拡大表示します

FRBクォールズ副議長は、ストレスシナリオ公表時の声明の中で、今後数四半期の不確実性は依然として非常に高いとして、第2回STにより、大手銀行の耐久力に関するより多くの情報が得られると言及している1 。COVID-19事象による深刻な影響を想定したシナリオに対して銀行の健全性を審査することで、不確実性の高い状況において、大手銀行のリスク耐性を改めて明確に示すという意図が窺える。

こうした中、FRBは2020年9月末には、大手銀行の自己資本を高水準に維持することを目的として、資本配分の制限措置(自社株買いの禁止や配当金支払いの制限)を2020年末まで延長することを発表した 。異例とも言えるこれらの措置には、FRBの警戒感や慎重姿勢が表れているとも言え、潜在的な一段の景気悪化に対する予防的な対応とも捉えられる。企業業績悪化の長期化の可能性もあり、特に各国の第二波・第三波の動向から受ける経済活動への影響には注視が必要であろう。

Federal Reserve Board releases hypothetical scenarios for second round of bank stress tests(外部サイト)

執筆者

菅谷 幸一/Koichi Sugaya
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター マネジャー

証券系シンクタンクにて、地方銀行をはじめとする金融機関の事業動向・経営環境の調査・分析業務に従事。財務省国際局出向中は、国際金融規制、FSB、IMF等を担当。現職にて、海外金融規制動向の調査等を担当。

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