最新動向/市場予測

TCFD公表資料~気候関連開示の現状と高度化のガイダンス

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.65

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
矢吹 正太郎

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づく、気候変動に係る財務情報開示の進捗状況等を示すステータスレポートが2020年10月に公表された。2018、2019年に続き3度目となる報告書で、グローバルにおけるTCFD開示の状況を示している。TCFDは賛同企業の増加が続いている。2020年12月11日時点で、グローバルで1614社、国内では328社が賛同し、英国では上場企業への開示義務化、仏ではエネルギー転換法173条による気候関連開示をTCFDに連動させる動き、中国では上場企業に対して開示を義務化する動きも見られる。気候変動関連の開示においては、TCFDがデファクトスタンダードとなっている。一方で、企業によるTCFD開示の状況は、いずれの項目でも未だ50%を下回る水準にあり、開示項目の拡充は芳しくない。
 

図表 TCFD開示の進展

TCFD開示の進展
※画像をクリックすると拡大表示します

TCFD開示の高度化促進に関しては、今回のステータスレポートの公表に合わせて、TCFDより、リスク管理への統合と開示に係るガイダンス、金融セクターのフォワードルッキングな指標に係るコンサルテーション資料、一般事業会社向けのシナリオ分析ガイダンス 、が公表されている。

全社的なリスク管理への統合に係る開示が進まない背景としては、気候変動は不確実性が高く、長期的な影響をもたらし得るという特徴があり、既存のリスク管理フレームワークの枠組みで扱うことが難しいことが挙げられる。一方で、ECB(欧州中央銀行)が11月に最終化した「気候関連・環境リスクガイド」では、リスク管理フレームワークに係る監督上の期待が示されている。ECBの監督対象となる重要な金融機関は、監督上の対話において監督上の期待と自機関の実務上の相違について、ECBに情報提供することが求められる。欧州では金融監督の観点でも取組の高度化を促す仕組みの検討が始まっている。

日本の政権交代、そして2021年1月の米国の政権交代を控え、日米欧が2050年、中国が2060年までにネットゼロエミッションを達成するとの目標が出揃い、今後も企業による気候変動対策の動きは進むと見られる。一方で、民間事業会社の取組が先行する日本、NY州金融サービス局(NYDFS)などの州単位での取り組みが進む米国、欧州委員会やECB、BOE(イングランド銀行)などがトップダウンで政策を打ち出している欧州や英国、政府主導の対策を進める中国と、それぞれ取組を主導する主体は異なる。この中で、欧州や中国は国のリーダー層が強くコミットしているために、国際的な議論や基準、国際標準の設定における発言力が強い。また、2019年の欧州グリーンディールでは2050年気候中立に向けた産業振興を含む具体的なアクションを示すとともに、再エネのボリュームゾーンとなる太陽光発電について、中国製製品に対する価格競争力を取り戻すべく共同研究などが実施されている。米国も政権交代後は国際的な議論への積極的な関与が想定される。

こうした中、気候変動・環境リスクへの取組に関しては、国際的な動向をモニタリングし、本邦金融機関としても継続的に情報収集をして自社の取組に取り入れていく姿勢が求められる。

執筆者

矢吹 正太郎/Shotaro Yabuki 
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター マネジャー

2015年より、リスク管理戦略センターにて気候変動リスクに係る体制構築、地方創生に係る将来人口推計と産業連関分析、金融機関に対するストレステスト・インパクト計測・共通シナリオ分析におけるモデル構築、ALM高度化、外貨調達環境の調査、官公庁のアンケートやコンダクトリスクに係るデータ分析などに従事。主な著書に『気候変動リスクへの実務対応』(中央経済社2020年、共著)がある。

お役に立ちましたか?